そこの境をどうか踏み越えないでおくれよ。
傍に居る、と言ってくれても、指で触れていなければ遠い幻にしか思えない。
後編
大きな地響きの後、まるで地下の奥の奥へ逃げるかのようにストレッチャーで搬送された藤堂の傍には、無言で前を向いて歩く
神楽耶の姿があった。
彼女の放つ気配に触れられる者など現在の解放戦線の中には居ない。
彼女は浅い息をつく男の呼吸だけを耳で聞いていて、目は、その白い廊下の先で待つ、--------同じく白衣を着た褐色の肌の女性へ
向けていた。音ではなく口の動きだけでラクシャータと呼ぶ。女は嬉しそうに、けれど少し茶化すような瞳で『言ってきたわよ』と
告げた。
「カレンちゃん。紅蓮で枢木スザクを追えなかったのは飛行ユニットがないからだって……」
「それは本人の技量の問題でしょう。通信で見てましたわ。彼女が一瞬ルルーシュ皇女を仕留めるのを躊躇う所を。輻射波動や何やらより、
さっさとあの鉤爪で握り潰してしまえばよろしかったでしょうに」
無表情で紡ぐ部下への非難を吐き出した彼女を、そうかと黙って見つめたまま、……しかしラクシャータが口にしたのはそれへの同意では
なかった。
「で?飛行ユニット、つけていいの」
「また枢木スザクにゼロ同様殺されたくなかったらね。勝手にすればよろしいわ。KMFのことはすべて貴方にお任せします」
「りょーかーい。それであんたはほんとにいいわけね」
「ええ」
「カレンちゃんが枢木スザクを殺しても?」
「彼女には捕えろ≠ニしっかりと命令してあります。だから大丈夫。日本にとってあの方にはまた英雄になってもらわなければならないのだから
観衆の前ででも、ブリタニア人の前ででも、彼女を殺してもらうところを見せつける必要があります」
(……そして)
そうじゃないと私の気がすみません。
ふん、と鼻で笑った神楽耶はラクシャータの横をすり抜けて、医療班と共に別のシェルターへとこもった。再び彼女が目指すのはきっとまた
ルルーシュが居るもとなのだろう。パイプを口先に弄びながら、ラクシャータもまたKMFでの戦争が見れることを喜んでもいた。けれど、
枢木スザクはあのランスロットで戦争ではなく逃避の道を選んだ。行く先なんて特に考えてもないだろうに。ルルーシュが傷つくのに
耐えられなかったからだ。-----------どんな力不足も例えKMFであっても補えないと、そういうことなのだろうか。
「ラクシャータ」
無人になったはずの廊下に自分を呼ぶ声が聞こえる。
防犯カメラに捉われても普通である行動をとっていた人影を、彼女は監視カメラから見つけていた。ランスロットが紅蓮と対峙した時点で
気付いてもいたのだ。
すなわち……、
「お久しぶりね伯爵。セシルと一緒に死んだと思っていたよ」
自分こそ海に沈んだまま雲隠れしていたというのに。
挑発めいた口ぶりで吐き出すのは、旧知の仲である元同僚への嫌みばかり。セシルが白衣の裾についた泥を手で払いながら、あははと
苦笑した。隣にいるロイドは爆風から彼女を庇ったことにより、半身を黒くしている。スザクがやらかしたことにより解放戦線の本部は
半分以上が瓦礫になっていた。ラクシャータは収蔵庫に居たので解放戦線の本部がどれほど被害に遭ったか、素知らぬ状態でずっと作業を
していたのだ。
そして、その中から、警備が薄くなったところを狙って入って来たロイドを、ラクシャータは神楽耶へ伝えようとは思わなかった。手の中にあるのは紅蓮の起動
キー。ロイドが発明しきれなかった輻射波動を誤差ごと修正し、今は亡きガウェインのハドロン砲さえ完成させたのは
ラクシャータだった。KMFの腕ではロイドよりも間違いなく分がある。それなのにどうしてブリタニアの開発チームから外されたのかについては、
ロイドが知るところではなかった。マリアンヌとシュナイゼルだけが知っているという。
だから怨む方向も違うはずなのにラクシャータはただひたすらに憎悪をロイドへと向けていた。
傍らに苦笑する助手を連れて、どれだけ汚れても涼しい顔して立っていられる元上司を。年齢不詳が服を着た痩せ型の肩に、首だけすっぽりと
隠すほど長くなった銀髪を、通風孔からもれる風になびかせて……。ラクシャータの目が険しくなった。手にある起動キーを見せびらかすつもりで
掲げたのに、まったく功を奏してない。空しいだけだ。だって彼は別に悔しがりもしていなかったから。
反対に、英国の皇子には平気で見せていた笑顔を、ロイドはラクシャータにだけは向けなかった。彼女が裏切ったその瞬間から、唯一自分の中で許さない者リス
トに彼女の名前があがったていたからだった。
「そこをどけラクシャータ」
「おお怖い。あんたにとって許さないものなんて山ほどあるっていうのに。……そうだ、一年前の神根島での一件。ちゃんと観測させてもらったよ。
残念だねえ、うちのガウェインがあったら閣下も死なず成功したっていうのに。私がこちら側に居たせいだね。それを伯爵は
怒っているんだろ」
「……憶測でしかないな」
ラクシャータの前に仁王だちに立ったまま無下に言い放つのに、更に猫のように細められた目が挑発の色にかわった。
手の中にある紅蓮のキーをひっこめて、代わりに腰にあてていた逆の手を前にかざす。そこには銃が握られていた。
「!ロイドさん……」
「---------」
隣に居るセシルが銃口に動揺したのに、ロイドは微動だにしなかった。カチリ、とセーフティが外された音が、廊下に響く。
「奇襲≠ェお得意のブリタニアに対して学習したんだ。あんたが仕えてる皇女も、港では随分と派手に動いてくれたからね」
ロイドの何も見せない反応に、少しばかりラクシャータは焦りを見せ始めた。寄ってくるなよ、と意思表示するように、銃の腕を突き出す。
しかし銀髪は遠く天井へと目をあげて、また褐色の肌へとむいた。口から出るのは、淡々とした応対の言葉。
「昔のことばかり覚えてるのは君も同じじゃないか?人のことばかり挙げてよく言う」
「伯爵より歪なもんじゃないさ。あんたは閣下絡みだろ?-------すべて。閣下が邪魔だと思った人間は、私も含めてあんたが排斥したんだ。
あいつの騎士だったカノンもそう……」
「ああ。そういえば君は彼と仲がよかったね。出自が公にできない者同士で気が合ったのかな。研究チームではよくつるんでたのが目立った」
「それのなにがいけない?この銃口がその為に向けられてると気付かないのか」
「……別に。銃なんて、向けようと思えば誰だって向けられるだろ」
一歩、
細身の体が前に出てきた。
「何のつもり……あんたは……」
「ナナリー皇子に銃を向けた殿下の気持ちが、少しばかり解った気がしてね……。お前ほどナイトメアを作るのに熱心だった女は居ないよ。
けど少し閣下と目的が違っていた。あの人はすべての行動理念を妹に向けていたんだ。そしてその殿下は弟へ向けていた。じゃあ僕はどこに
あったと思う?そして君がブリタニアに所属していた時は、何のために開発に携わっていた?----------君と僕の、どこが違うと思う」
「……」
まさか枢木が解放戦線を殲滅したのに乗じて、積年の恨みを晴らしにきたんじゃないな……と銃口の奥でラクシャータは寒気を覚えた。
「君はさっき僕に対して、許さないものが山ほどあるな……と言った」
「……」
「確かに……、ラクシャータ。僕の中心は閣下とともに在ったよ。正直ナイトメアを作るのもランスロットを開発したのも、理由は閣下と
同じだった。セシルくんもそう。---------ではなぜ君がブリタニアから追い出されたのか?僕が紅蓮弐式とガウェインにこだわるのか。
最後の正直として教えてあげようか」
(最後の正直……?)
そう言うと、ロイドはゆっくりとまた歩み出して、後ろ手にさげていた細い指を彼女と同じ所作で前に差し出した。その手には同じく銃が
握られている。それにラクシャータが気付いた頃には、廊下にはひとつの銃声が上がっていた。
セシルが細い悲鳴をあげる。
冷やかにみえて実は何も感じてない銀瞳が、左肩を抑えて額を低く床へつけるラクシャータを、見降ろした。
「はく、しゃ……っ」
「さっき皇の巫女に報告してたことは本当か。紅蓮に飛行ユニットをつけたって。ならさっさとその起動キーをこっちに寄越して
くれないか。殿下たちを追う必要がある」
もしくは、とロイドは呟いた。
「この本部の中枢に案内してくれ。スザクくんが始末しきれなかった残党を根絶やしにする」
「どうして」
「----------繰り返しになるからだ」
僕が作った絵本のね、と呟いたその声を、聞き取れたのは傍に居たセシルだけだった。
すぐに顎でしゃくって怪我した彼女を立たせようとする。しかしそれがうまくできないのか、震える膝はまた崩れて、冷たい床にべたりと
頭から落ちた。
まるで降伏する者を見下す姿をしたロイドの手にした銃口は、まだ彼女の頭へ向いている。セシルも横から手を出さないから、ロイドの温度を
持たない殺意はどんどん増幅するばかり。
------------その時、廊下の奥から駈け出してくる赤い影があった。デヴァイサーのスーツを来た赤髪が、まっすぐに突進してくる。
あれは、とセシルが名前を声にした時にはロイドは顔面を強打され、壁に叩きつけられていた。ラクシャータがはっと顔をあげる。カレンを見ていた。
まるで子どものように先ほどの衝撃と悔しさを引きずったままの姿で、間髪入れない速さでラクシャータの体を掴み、立ちあがらせ、
「走って……!」
ロイドたちに背を向けた。連れてかれるラクシャータはセシルのほうを振り返る。
すぐに立ちあがったロイドはよろりと背中を揺らしながら、諦めない姿勢で、手に持ったままでいた銃口を再び向けた。
*
どすん、と二人ぶんの体重を受けて揺れた足元は、まだ降りだした雨に湿った状態ではなかった。
ルルーシュはスザクを見上げて、はんなりと微笑んだ。スザクは、首元に埋めていた顔をあげて一番に見たその笑顔に何の思惑もないように
思えて、自分の腹に湧きあがった欲求に眉を顰めた。いつだってルルーシュは純粋だ。純粋だからこそ慎重に扱わなければならなかった。
なのに少し(また一歩)許されただけで、数分前までは自分の体を下敷きにしてまで庇った体を、地面に押し倒している。
けれど。ルルーシュはそんなスザクへは何も言わなかった。
そっと胸元から伸ばされた掌が頬に当てられて、その行動がすべてを物語っていた。ルルーシュは気付いていたんだろう。再会を果たしても
決して体を求めなかったこと、----------その理由に。もしくは不安に思っていたか。自分をそんな欲の目で見れなくなったか、とか。
ミレイ辺りに相談でもして……。
(でも違う)
スザクは、怖かった。
昔の、思いだけ溢れていた自分とは違ったから。
自分自身にこそ、不安があったから。
「……殿下」
「……」
雨が降る。
さあさあと後ろに聞こえる雨足はどんどん強くなっている。けれどそれが帳となって、これから自分たちがする行為を隠すカーテンになって
くれればいいと自分はどこかで願っている。
黒髪も、細い体も、綺麗な瞳も、まるで本当に腕の中に閉じ込めてしまえたらいいと。
「呪いが……」
ルルーシュが口を開いて、スザクの頬に伸ばしていた手をそっと外した。自分に覆いかぶさる顔を見上げたまま、その中心の額を覗くように
紫電が開いて、呟く。------------解けたなら、と。
「いいんじゃ、ないか」
「え……」
「触れていいよ。触れてほしい。スザクにだから、してほしい」
「……」
「堪えるのなんて、いやだ」
若干、目の端を染めたルルーシュの顔に、必死さが加わって、……何をここまで性急に求めてるんだと逆に我に返ったのか、
見上げる視線を横に少し背けた。
「ごめん。何言ってるんだ俺」
「いえ、その……」
「わ……忘れてくれ。こんなの俺から求めるのもおかしいことだし、雨宿りもしなきゃだし、……解放戦線も追ってくるだろうし、
----------うん……その、う、上のランスロットでじっとしてよう。そ、それが一番いいと思うから」
ぐい、と手にあてた肩で押し返され、その隙間から這い出たルルーシュの体が恥ずかしげによそを向いて、スザクの前に立ちあがった。
そしてスタスタと早い足どりで自分たちが数分屋根にしていたランスロットの後ろへと回る。
せかせかと横に動く黒髪の隙間に、ぼんやりと見上げていたスザクは見つけてしまった。、悔しさなのか羞恥にからなのか、唇を噛みしめて
視線を下へ向けるルルーシュの顔を。曖昧なままの自分の覚悟が彼女を傷つけたと思った。……だから。
「でっ、……」
(殿下?)
------------いいや、
「ルルーシュ」
「……ぇ」
「その、こっち……こっちに来てください。大分雨でぬかるんでるから、足元に注意して、ゆっくりとでいいですから」
喉のつっかえがとれた口調で、少し途切れさせながら必死に喋った。誘いの文句とルルーシュを傷つけない態度で。すっと前に手を差し出す。
暗闇でも安心して彼女が来れるように。
そして慣れない仕草に赤面させた翡翠を馬鹿正直にまた上げて、こちらを覗いてくる紫電と重ねた。
ふ……と目元を和らげて。
「貴方に触れたいんです。これが最後になってもいい。だから、その……いつも抱きしめたりするのとは別の意味で」
(この言葉をどう受け取るだろうか)
合わせた視線に相手の感情を量ろうとしてみても、ルルーシュ相手に定かな答えは見いだせない。けど、スザクの声を聞いた瞬間暗闇でも
解るほどに動いた気配がしたから、----------焦がれた接触は間近だと思った。
「……っ」
差し出した手のひらからはすぐに別の体温が流れ込んでくる。見上げて、また間近まで迫った痩躯を引き寄せようと反対の手を伸ばしたら
自ら黒髪がぼすん、と胸に飛び込んできた。首元に慣れた黒髪のしっとりとした感触。吸いつくように貼りついた柔らかい体。全部が
本物だった。それを両腕で受け止める。
「呼んでくれた……」
耳に、堪えていた泣き声と一緒に吐き出された小さな呟きを聞いて、胸がぐしゃりと潰される思いを感じながら、そのぶんだけ痩躯を抱きしめ
返す。そして間も空けずに、背中に回した手から掬いとった黒髪にキスをして、汚れたアッシュフォードの制服のベルトに指をかけた。
*
ナイトメアに拒絶されない体で、更に操縦が難しいと言われる操作の技能にも長けていて、……何よりそんな自分の能力を自覚してない
有能な彼の力が、ルルーシュは英国に居た時からうらやましかった。
(どうして自分は男じゃないのだろう)
きっとそんな疑問とした観念が根付いていたからだと思うのだが、どんな異性に対してもまず愛情ではなく羨望を向けていたルルーシュは
最初スザクが『好きだ』と意思を示した時、素直に受け入れられなかった。体を繋げたのが先だったからかもしれないが、自分は多分
何より羨ましいと思っていた彼に好かれているということが、信じられなかったのだ。想像がつかなかったのだろう。笑って彼の隣に居る
自分が。
「……うっ、んぁ……」
けど、自分の唇を塞ぐ柔らかい感触と、冷やしてはいけないと何度も往復する手の動きに、やっぱり彼の心も体も欲しいことを自覚する。
トラウマでしかなかった異性への羨望が、いつしか純粋に愛情へと変わっていたから。
きっとそれはスザクのおかげだ。
お前の、せいだ。
何よりの感謝を示しながら、ルルーシュも応える。
ボタンを外されて脱がされた制服を下にして寝かされたルルーシュの体はシャツも申し訳程度にしか羽織ってない状態だった。
胸をさらけ出して、再び覆いかぶさってきた体にぴったりと合わせられれば、近い距離に頬が染まったが、外の暗闇では相手に知られることもなく。
スザクは下着を外して露わにした乳房をみて、少しの逡巡の後、谷間にある傷口に舌を押しあてた。鼻から出たような声があがる。
びくっと膝が揺れて、スザクの体の下でぶるりと震えあがった。
「ふぇ……っ、や……」
んく、と、口元で啄ばむように食んだスザクは、両手で胸を包み、揉むように横や縦に動かした。ひく、ひく……と組み敷かれて力の抜いていた
肩が細切れに跳ねはじめる。そっと開いた紫電の目尻には、染まった頬の色より滲んだ涙のほうが目立ちはじめていた。
それを上げた視線でうかがいながら、一年前心の傷と共に負ったその証へ送った刺激を、齧ることで止める。
「んっ、ス……」
「すいません、その」
「……?」
「声」
誰も見てないから、抑えないでほしいと言外に伝える。
そんな無理だろう、と紫電が見開かれれば、スザクは無意識に噛みしめて唇を切ってしまった部分に指で触れて、ルルーシュにそれを
翳して示した。
「あ」
「こんなのは嫌ですから」
「でも、無理」
と答えるルルーシュに一度目線を下へやったスザクは、どうすればいいんだと見つめてくるルルーシュの前に手を差し出して、
薄く開いていたその口元に指を忍ばせた。----------え、と声になく瞳が開く。そのまま行為は再開された。
「あっ……や!」
触っていた乳房の片方に唇を寄せて、先端を含んだ。
ころころと舌先で転がされて、またちゅうちゅうと吸われるように扱かれるのに、ルルーシュは股に力を込めて……ぞくっと背筋を震わせた。
スザクの指が邪魔して、また声も溢れた。堪えようと歯を立てても、スザクのものを傷つけるだけだと解っていたから
口を閉じることはできなかった。
「う……ぅん、あ、あっ……あ……」
口に入れた指に触れるルルーシュの舌が、歯で防げない喘ぎに震えてるのが解る。舌先でびくびく揺れる体を翻弄しながらそうスザクは
感じていて、たまに見上げる翡翠に少しずつ火照っていく痩躯を見て、自分も腰に熱が溜まっていくのを感じていた。
すぐに胸から顔を離して、舌で舐めていた個所を指で摘み、ひっぱるように刺激を送る。決して平均とは言えない小作りな乳房が
スザクに送られた刺激によってとても柔らかい弾力のあるものになっていた。いやいやと、黒髪が揺れる。それに笑みをして、
咥えさせていた手を外し、身をかがませて、スザクは酸素を求めて開いたルルーシュの口元へ吸いついた。
「んっ……」
目をぎゅ、と閉じていた紫電が、スザクのキスで開いて、また閉じる。引き寄せるように細い腕を首に絡めて、自分も強請るように
顔の角度を変えた。より接触が深くなる。
「ふ、ぅ……ん、ん、ん……ぁ、……ぅ、スザ、ク」
ねっとりとした熱いキスが、感覚を麻痺させていた。引き寄せたルルーシュの腕を肩に乗せたまま、起き上がった自分の膝に痩躯を抱き上げる。
持ち上げられたルルーシュは一瞬きょとんとして、唇を合わせたまま視線で『……?』と伝えたが、スザクが反応することはなく、
いつの間にか回った腰を抱く手に、足をスザクの幅分広げられていた。
「ま……待て、俺もお前に」
「え……?」
「さわり、たい、のに」
膝の上で慌てはじめたルルーシュが、先に進もうとする腕を上から抑えて控えめに言う。それを聞いたスザクは目を開いた後、すぐに
顔を赤くして自分の体を見降ろした……が、『いいですよ』と言って、ルルーシュを抱え直した。ぺた、と白い頬に手を当てる。
ルルーシュが不安そうに瞳を曇らした。
「何……で」
「いや、それは」
男の体なんて骨ばってるから触ってても気持ちいいもんじゃないだろう、と言おうとする。だがそんなことでルルーシュの気は落ち着かないのか
不服そうな目で『触る』とまた言った。-----------ならば、と思って、スザクは肩に置かれていた指先をとって
自らの股下へもぐりこませる。
「へ……?----------あ、わっ……!」
自分で自分の敏感な部分へ触れることとなったルルーシュは、まだ下着をつけたその上から、自分の手首を掴むスザクに操られて
そこへ触れた。もう随分としっとりとなっているところに、くすぐるように動かされる。
彼の膝の上で小動物めいた泣き声があがった。
「こうやって、溶かしてみてください」
「〜〜〜、や、ぁめ……変な……う……」
「あったかいでしょう?」
からかい半分、本気半分といった声色が、どんどん低くなった。顔をスザクの肩口に埋めるルルーシュの耳元に囁きながら動く手は、
ルルーシュが触れずに引こうとする手を許さず、やんわりとした力で奥の蕾に潜ませようとしている。そうであるから拒むにも大した動きが
できないルルーシュはびくんっと背筋をのけぞらせ、入り口を辿っていた指がとうとう中に入ってしまったのに、自分の湿った指で知った。
「ふ、ぅあ……っ」
襞が、一枚一枚。締め付けて自身の侵入を拒む。これがスザクのものだったらどうだったろうか……とぼんやりと考えるけれど、
軽く腰を突きあげさせられた格好で、自分の手首を掴み、ルルーシュの秘所を慣れさせようとするスザクの顔を窺い見れば、もう抵抗の
意志は示せなくなっていた。
目の色が違う。
ひ、ひ、と小さく声をあげて感覚に溺れようとしている自分を、一見無機質に見える-------けれど、中に底知れぬ欲を湛えた翡翠が
足元からつま先まで全部観察していた。火照った肌も全部見られていた。彼に触れるのとは別な意味で交わっている気がする。
多分それは……。
「ぅん、ん、んんっ、や、あぁ……っ」
「……」
「すざ、すざ、く、も」
腕に縋りついた手を、ぎゅ、と握り締めて、手首の動きを止めてくれるよう懇願する。中の締めつけも、ルルーシュの指が出し入れされることによって
とろとろと零れだした液も、腿に垂れるほど溢れたことに気付いたのか、スザクは拘束を解いた。
熱い粘膜が、抜かれることによりきゅうと収縮する。とくとくと流れ出す粘着液とした下部のものが、これからどんな意味を持つのか
いつも行為はスザクに任せていたルルーシュはよく知らない。
「すいません、体を」
「えっ……」
向かい合わせに座っていた体勢から、腰に回していた腕だけはそのままにして、二人諸共また地面に転がった。何をしようとするのか、突然の
視界の変化に開いた紫電の中心に、スザクがきた。手と手の間にルルーシュの頭を囲って、微笑んで、こつん、と額を合わせる。熱と溶かされた
体で火照ったそこから何でも全部が全部解ったらいいのに、と思いながら、先ほどまで秘所に潜っていた手をとって、口で触れた。
今度は自分が中の奥まで入ると宣言するように。
「----------っ……」
スザクは意識してないだろうけどやたら扇情的にみえるその動きが、再びルルーシュの胸の奥を苦しくさせる。
解っているのだろうか。ルルーシュが体を求める意味が。
動物というのは生命に瀕した時生殖を求めるというが、それとは自分たちの行為は違う。多分違う。きっとそんなことルルーシュは願って
触れてない。スザクのほうもそうだ。じゃあ何故、記憶が戻ってから拒んでいた接触をしようと思ったんだろうか。
考えたく、なかった。
これが最後≠ノなるなんて、思いたくなかった。
逃避行といいながら二人だけの世界に閉じこもって、こうして触れあうということはもう先がないから。
スザクがそう判断して決行したと、ルルーシュは思いたくない。
自分は別に守られる為に彼の手に引かれてここまでやって来たのではなかった。昔は色んなものから距離を置くためにスザクを道連れに
したこともあったが、今は違う。一年前の自分たちと今の自分たちは、違うはずだった。だから理性を外しながらも自分たち以外誰もいない
静かな森で、繋ぎ止めてるのだ。これが通過点であるとルルーシュは思いたい。最後ではない。もう先がないからといって
自分を求めてくれたと、思いたくない。
「……ザ、ク……」
「……、昔……」
声を、はっきりさせずに腕の下から名を呼べば、口を開いたスザクの声と重なった。『何』と視線をあげれば、翡翠がまた柔らかくこちらを
見ている。『昔ね』と言い直す彼の手はまだルルーシュのものに繋がれていた。頼りなくなって、繋いで絡めたそれに力を込める。
黒髪を下敷きにしないように囲んだ腕の中にいるルルーシュを見てくる視線は、不安げに曇り出した紫電を真っ直ぐに見つめながら
シャツ一枚になった痩躯を、ぎゅうと力一杯抱きしめた。
----------胸まで押し潰されるかと思った。
「……っ、ぅえ……」
「殿下」
「違う、馬鹿」
「……ルルーシュ」
そうだ、俺はルルーシュだ、と、言いなおしスザクの肩にまた顔を埋めた。目の端がどんどん熱くなってくる。濡れた頬を外気に晒したくなくて
胸に強く押しつけた。全然寒いと感じない体を包まれたまま、言いかけた言葉の先を促す。首に回した手を強めることで。
「僕は……」
くせっ毛が耳の後ろに擦れて、少しくすぐったい。けれど構わず抱きしめたままルルーシュはこくん、と頷いて
先ほど自分が口にした『お前と生きたい』という言葉を、心の中に復唱した。
そうしなければ別離の言葉を言われるような気がしたのだ。
誰よりも強いスザクが、ルルーシュと共に手の中から離さないのはランスロットの起動キー。そうだ。自分たちの頭上にあるのは元々
ルルーシュのナイトメア。それを捨てられないのは……何よりスザクのほうだった。
ここに何もかも置いて二人で逃げよう≠ニ言ってしまえば簡単だったが、それにスザクは頷かないだろう。曖昧に笑うか、かなしそうに俯くか、
きっとどちらかだ。そんな顔は見たくない。けどこの温もりも離したくない。また明日には、戦う道を選んでいると想像できるから。
「--------そうか」
「……?」
抱きしめあっていることに満足していた沈黙を、さいたのはスザクの少し朗らかに感じる声だった。『え』と顔を横に向ければ
「ルルーシュに触れていると、何でもできそうな気になってくる」
恥ずかしい言葉が唐突に吐き出された。昔、と言いかけていたセリフはどこにいったのか。
抱擁していたからまだよかったものの、もし正面を向いていて言われていた一言だったら、間違いなく赤面した顔を見られていただろう。
どうして寂しさと別れの恐怖を感じてるところにスザクはそうでないんだ……と、首に回した腕をくん、と引いたら、逆に引き寄せるように
組み敷いたまま腕の下に抱え直された。
スザクは片足だけルルーシュの脹脛を持ち上げる。膝の裏が丁度肩に収まるように。
「えっ……」
「痛むかもしれませんが、声は抑えないで。その……」
聴いていたいから、とスザクが囁いたその時には、もう、熱く滾ったスザクの半身がルルーシュの奥まで差し込まれていた。
「ひっ、んァッ……!」
密着した下部から腹とお互いの足に擦れる感触と、粘膜に包まれた柔らかい奥でぶつかりあう熱を感じて、意識が全部持っていかれる。
スザクも必死なのか、前後に突き出す腰の動きについていけるようにルルーシュの背を抱えたまま、収縮する内部の襞に呻きを零し、
片手は浮かせたままで逆の手を地面へついた。汗が一筋顎に落ちる。ひいひい、と呼吸する薄い胸を同じく自分の胸で感じながら
また自身の熱を差し込む動きを再開した。
「は、ぁぅ……う、う、んぁ、は……あっ……」
「ル……シュ」
「ひっ……ひぁ、あ……あ、ぁん、やっ……」
拒むわけではないがきつい蕾の締めつけに、スザクもすぐに限界がきそうだった。だがどうにか欲求を堰き止めて、ルルーシュを抱いた肩に
唇を押しあてて、きつく吸って痕を残す。首筋からどんどん胸に下るように。腰はルルーシュに包まれた快感に浸されながら、
肌に触れるキスでは快感とは遠い所有印を刻む。こうしないと満たされないからだ。言いかけた一言を音にするよりも、こうして形として残すほうが
よりリアルに伝わるんじゃないか、と思うからだ。
久しぶりに触れる体温なのに、傷つけるような抱き方しかできないなんて。
(……けど)
挿入した痛みと、貫く熱のあつさに固く目を閉じていた紫電をそっと開けたルルーシュは、スザクを見ていた。
口付けられ痕がついた自分の肌に指を伸ばす。そこを辿るように触れて、胸の間にある傷でピタリと止まった。そして縫いつけた翡翠を
そこへ導いて--------笑う。下腹部を満たす痛みとも判別つかない感覚に侵されながら。それでもスザクへ見せたのは自分が大好きすぎる
純粋な笑顔だった。
さっきはルルーシュのものへ合わせた額を今度は胸の間へ埋める。スザクの頭はそこで固定され、お互いに繋がった状態でゆるゆるとルルーシュは
後頭部を撫ぜはじめた。ぎゅ、と再び抱きしめ直す。体に、腹に、胸に、感覚にスザクを閉じ込めるように。
(ああ、だから笑っていたのか)
どこかぼんやりと感じていた。ルルーシュも、スザクのように自分を檻でも腕でも何にでも、閉じ込めて居たいということに。
それこそがさっき……ルルーシュを組み敷いて言いたかった一言だったのだ。しかしもう、この胸の感触にいいということにする。
もう『いい』のだ。彼女が、ルルーシュが求めてくれるだけで自分は救われるのだ、とスザクは思う。誰から、というと
それは今も目を閉じると浮かびあがる綺麗な死に顔-----------血に濡れても汚れなかった金髪の、きらめきだった。
その彼が自分たちに対して手を振っている。
雨に包まれた森の奥で、不意に別世界を感じていた。白い明りにだけ包まれた場所で、距離がわからない遠くから彼の人が手を振っていた。
足元に引かれたのは朱色の一線。そうだ。これは前にも見た夢だ。確かルルーシュと再会した翌朝の……。
あの時は背中に感じていた黒髪のぬくもりが、今はスザクとは反対の方向をむいて、手だけ自分と繋いでいる。
スザクはそんな自分たちを見ている寂しそうな視線に、戸惑った。だが後ろ姿を向けているルルーシュが微動だにしないのを見たら、
その視線はそっと離された。
『かっ、……』
スザクは追いかけようとするが出来なかった。
右手と左手で繋がれた手が、スザクを進ませなかったから。顔だけ振り返ると花のように笑う顔が『もういいよ』と言っている。
口を開こうとしたら、嗚咽がこぼれていた。-----------現実に戻ってきたのだ。けどこれは何て夢のような現実なのだろう。
(一年前とは違う、二人ぼっち)
体を繋げたまま、森の中に還る。やっと自分たちは気付けたのかもしれない。互いが互いに手を差し出して縛りつけあっているということに。
(でも貴方が『それでいい』と言ってくれるなら、もう後ろは振り返らない)
この朱色の線はデッドラインだったのだろう。踏み越えたらシュナイゼルと変わらない修羅になる。けどルルーシュと繋いだ手を
離さないままならば----------怖いものなんてきっとない。昔の身内より、彼女を選んだのだ。だから。
「……ルルーシュ」
腕の中で小さくしゃっくりあげるように自分の熱の痛みに耐えていた肩を、地面から持ち上げる。
ゆっくりとそこから黒髪が浮いて、さらさらと宙に零れていくのに眩暈を覚えた。瞳を細めてどんどん翡翠を近くさせる。
絶頂が近いと感じながらスザクはルルーシュの顔を引き寄せて、キスをした。自分が動いたことで出た喘ぎ声も吸い取ったかもしれない。
しかし苦しそうな顔を見せない紫電に気持ちは高まっていって、更に深く舌を絡めた。ん、ん、と喉が震えるのを触れた肌から感じる。
けれどやはり拒まれないのに気持ちは救われて、キスの合間に瞳を開けたら、紫電が閉じたまま泣いてるのに気付いた。
腹に埋めた熱は自分たちの心音より、とくんとくんと脈打っている。
「スザ……スザク……」
(行かないで)
前に見た夢と全く同じにルルーシュが囁いた。
スザクはそれに間を空けず応える。
「貴方の傍から離れない」
心はずっと共にあるから。
夢で答えたのと同じ答えが自然と口から出ていた。