「随分とながい休学だったわね、カレン」
一年前最後に登校してきたのは確か文化祭の準備前だったか……と、カレンは生徒会室の作業机に腰掛けて
ミレイの少し大人びた姿に瞳をあげた。
彼女はどこか非難がましい目をして、自分を見てくる。別にカレン自身、休学ではなく除籍、という処分でもよかったのだ。
それを名目ばかり気にするシュタットフェルトの継母が、勝手に書類を出し籍を存続させた。
その考えを批判したくとも言葉がうまく出て来ないのか、はあ、とミレイが肩を下げる。カレンは臆することもなく
生徒会専用の入部届けを鞄から取り出して、ミレイへ突きつけるように差し出した。
「……セザル・オーウィン……?」
そこに記されてある名前の綴りを音にする。
まだ顔出しをさせていないが後に持ち越してしまうと余計に手間がかかるので、カレンはスザクへと一言も言わず勝手に
彼の生徒会入りを決めた。
そのほうが事が早く進むからである。
それと、それほど彼との幼馴染ごっこは楽ではないのだ。
そう遠くない昔、今のように放課後夕闇に染まる学校で、自分の在り方について言い争った男のことを
心底煩わしいと思ったカレンにとっては。
「いいでしょう会長」
「まるで権限は自分のものと言いたげね、……別にいいけどさ、人手が増えることは。それにその子が居る限り
もう突然休学するってことはないのよね」
「場合によってはそうなることもあります」
「やーよ」
ミレイは淡々と言葉を返すカレンから入部届けを奪うように受け取って
一瞬だが添付されてある証明写真に息を呑んだ。本当に、数ヶ月ほど前から突然『通いたい』と言ってきた現副会長に対してもそうだが
ミレイの周りに寄ってくる人間は自分を全く飽きさせてくれない。
果たしてどうなることなのやら。
「いいわ。このウェーブの長身の彼女を生徒会にいれればいいのね。
役職はそうだな、風紀委員の席が空いてたわ」
彼を滲ます悪い奴 中編
正直に言って、学園の地理なんて全く把握せずスザクは歩いていた。なので、ふと立ち寄った先で上り詰めた階段の上
その場で居眠りをしていた一人の女学生から
「出て行け」
と短く命じられてしまっても、引き返すことなんて出来ない。
つまり迷ってしまったということである。
「安眠を妨害してしまったのは謝るけど……」
遠めから見ても、自身の腰元まですっぽりと覆うほど髪の長いその女生徒は
時計台の柱からすっと立ち上がって、スザクのほうへと歩いてきた。立地の関係から強い風に晒される見晴らしのいい展望台は
立っているだけでも全身を風に打たれる。抵抗もしない彼女の黒髪が、まるで魚の尾のようにふわふわと
空気に散らばってるのが綺麗だと思った。長いぶんきっとすごくマメに手入れをしているのだろうと思う。
それに黒という色は彼女の白く小さな顔と、細い手足にとてもよく似合っていると思えた。
近づいてきて解ったことだが、スザクの顎下あたりまでしか身長がない。制服のカラーを見れば自分と同じ三年生のはずだが
同年代の女子と比べて、随分小さな容姿をしている。体質的なものなのか。
「貴方、転入生か?」
「あ、はい」
「ここは生徒会役員以外立ち入り禁止の施設だ。何故か。----------それは俺が授業をサボる為に使ってたからだ」
不満げにスザクの仮の、茶の瞳を射抜いた彼女は険しく眉を寄せ、脇を擦りぬけていき
カンカンカン……と音を鳴らして螺旋の階段を降りていってしまった。
「ミレイ、聞いてない!」
風を切る勢いで生徒会室に戻ってきたルルーシュに対して、ミレイはのほほんとカレンとお茶を啜りながら
次に催す企画について『仮装喫茶なんてどうかしら』と呟いてたりしていた。その言葉の直後にけたたましく扉を開け
百合のような体躯が飛び出してきたのだから、さすがに二人とも、会話の余韻もなく口を閉じる。珍しい、ルルーシュが走ってきた。
「あらどうしたのー、一学期体育は授業をサボりすぎて成績2をとりそうな副会長さん」
「転入生って何?」
「貴方が入学したのと同じ頃に復学をしたカレン・シュタットフェルトさんのご親戚、セザル・オーウィンさんのことよ」
説明も何も、私だって今朝お祖父さまから聞いたんだもの教えられるわけないでしょ、と微笑まれる。
「どうしたの。彼氏と逢引してるとこでも見られた?」
「……目を開けたらじーーっとこちらを見ていた。アホな寝顔だったかも。恥かしい」
「それは無防備にしてたルルちゃんのせいねえ。カレンもそう思うでしょ」
「ええ、まあ。……ていうか、その」
彼氏?
何か気懸りなことをミレイの言葉から聞いた。それについて質問しようと、ティーカップに顔を寄せるミレイへ声を掛けようとしたら
その前に自分の横にどすん!と無造作に腰を掛けたルルーシュにガンをつけられた。紫電は至極機嫌悪そうに睨んでくる。
「お前、親戚居たのか」
「失礼ね!シュタットフェルトの家系をあまく見ないで。セザルは母方の血筋を引く家柄の娘よ」
(そういう設定に勝手にしたんだけど)
今。この瞬間に。
「だからって、アッシュフォードのことも知らない奴にうろつかせるなよな。しかも、普段誰も寄り付かないような展望台に
真っ先にやってくるなんて」
「人の都合に対してわあわあ言っても仕方ないでしょ。我儘ね。
----------会長、どうしてこんな奴が貴方のサポート役なんですか」
せめてニーナとか。
マフィンにも手を伸ばそうかなんて先ほどサンドイッチを口にした上で、考えたりもする。
「ああ、ニーナね。彼女大学部の先生とこに通い詰めてるから、あんま生徒会出れないんだわ。
シャーリーだってご存知の通り、部活があるでしょ。リヴァルはサポートってより私の足だし……。
丁度いいのでこの子しか居なかったのよねえ」
よしよし、とカレンとの間に居る黒髪を撫でさする。ルルーシュは『よして』と腕を突っぱねた。
「副会長の俺に無断で!」
「ああそうだ。ついでに言うと、オーウィンさんは風紀委員として生徒会にも籍を置くことになったから」
教室でも生徒会室でも、仲良くしてやってね、と愛嬌をこめたウインクをする。
ルルーシュは絶望したように顔を青褪めた。
「どうしてそういうことを俺に黙って決めるんだ……!」
「いいじゃない。この学園の総務は全部私が取り仕切ってんのよ」
「でも、憩いの場所が」
「それもちゃんと注意すれば寄り付かないって。そもそもルルちゃん、学園は公共の場所なのですぞ。私有しちゃ駄目」
既に種類がどうとか確かめることは諦めたが、どうやら展望台が花一面となったのはルルーシュのせいらしい。
ふうん、とその様子を見守りながら結局伸ばしてしまったマフィンを、口に運ぶ。
ぼんやりしながら紅茶にも手を伸ばそうとして、ふと、ルルーシュの黒髪が目に入った時『あ』と思い出した。
カレンは一年前のブリタニア衰退から、奪取したスザクと共にほぼ地下に潜っていたのだ。
復学してそこに既に在籍していたルルーシュを目にした瞬間の驚きはあまり人に喋れたものではないが、自分はルルーシュが
どういう人間かは知らないが誰と深く交わっていたかは知っている。
その上で、先ほどミレイがした発言は妙に気にかかってしまう一言だったのだ。
(彼氏って)
聞こえた気がする。
そしてルルーシュも、何の反論もしなかった。
あれ?あれれれ……。
「ちょっと貴方」
「ん?」
ミレイの横で『紅茶はポットとカップを温める行程が面倒だ』とぐちぐち言ってるルルーシュの袖を引く。
そのカレンを振り返る紫電の色は、何の疑いもカレンの存在に対しては抱いてなかった。級友へ向けるものと全く変わらない。
やはり自分のことは、自分のしていることは知らないのか、と心中で頷いて。
「……答えたくないならいいんだけど」
「何」
「誰かとお付き合いしてるの?」
「ああ」
軽い感じの答えが返ってくる。期待していたわけではないが予想していなかったその事実に
顔を赤くして動揺した。
そんな自分を見て二人はどう思うのか。
「あらカレン、知らなかったの?ルルーシュ、ダーリン居るわよ。去年から毎月恒例になった告白大会で
先月ゲッチュされちゃったのよね」
「……確か、その時も俺居眠りしてた」
昼間の日差しに体力のない身体が負けて、転寝をしていたのだ。そこに気づいたらヘアピンを髪につけられていて
強奪された。で、現在に至る。
勿論互いに両思いとなったかは本人たちのみが知る。
(うっそぉ)
いつの間にかミレイお手製のマフィンが、テーブルの上から消えていた。犯人は黙って紅茶の新しいものを用意し
自分の分を追加した三つのカップに注ぎたした。
*
目が覚めて、三日夜を越すまでルルーシュはベッドの波を泳いでいた。
浮上したのは、自分の容態を細やかに記録していたという大学部の主任が挨拶をしにきた時。
銀髪に眼鏡が特徴の、微笑むことを知らない能面のような顔をした男だというのがルルーシュの第一印象だった。
傍らに付いてきた助手らしき女が、脈をとろうと手を差し出してくる。それを固く拒み、男が何か言ってくることも聞かず
ようやく動けるようになった足に力をいれ、室内から抜け出そうと扉へ駆け出した。が、すぐにもつれてその場に倒れ伏してしまう。
再び起き上がろうと両手を床へついた所で、自分よりもよっぽど体温の低いひんやりとした指先が、ルルーシュの汗ばむ額に
垂れかかる前髪を掬いとった。
視界がクリアになる。そこに見えた男の表情はどこか沈痛としたものだった。自分が一体何をしたんだか。
とりあえずは『この場にいないほうがいい』と告げる危険信号と共に、またその男の腕を拒み、距離を置こうと後ずさる。
男は背後の助手と二人で自分のこれからの所在や治療経過について話していたが、ルルーシュが選択したのは彼ら二人から
独立した所に居住したいということ。
何故かルルーシュには、本能的にこの二人から距離を置こうということに危機感が働いていたのだ。
だって、あまりにも自分を見つめてくる視線が柔らかいものだから。
(……誰かも、まだ解らないのに)
理由のない優しさに恐怖を抱くには充分な理由で。
目覚める前までの記憶が曖昧な分だけに、大学部の研究室からは遠のきたかった。
身体的には健常者よりもいいくらいで、男のほうは渋っていたが、助手の女は『ミレイさんが見ていてくれるなら
任せてもいい』と研究室を出ることを許してくれて。
彼らよりは馴染みやすいアッシュフォードの跡取り娘に従うよう、ルルーシュはクラブハウスで生活するようになった。
そして勿論、学園のほうにも興味を持つ。ミレイが『入りたい?』と聞くから、迷い無くすぐに頷いて
副会長の任についた。(元より空席だったらしい)
けれど心にぽっかりと空いたままの穴は塞がれるわけでは全くなくて。
何もしない毎日がずるずると流れていった。
楽しくないわけではないが特別満足もしない日々を送りつつ、ぼんやりしていたらいつの間にか自分の隣には
常に寄り添う男子生徒が居て。付き合っていると周囲は認識していて。ルルーシュは目を剥くように驚いた。
恥かしいことながら告白大会のことはこれっぽっちも覚えていない。
転寝していて、ふと眼を開けたら口付けられていたのだ。-----------驚いた。どうやらその男子生徒は自分のことが好きらしい。
(好き……ねえ)
恥もてらいもなく愛の言葉を語りかけてくるその男子生徒に、同じような態度を示すわけではないが
退屈でしかない日々を過ごす中に一つの行き先を見つけた気がしたルルーシュは、
まあ興味があって。この恋人同士のままでもいいか、なんて思ったのだ。
その恋愛というやつの正体も知りたかったから。
それを少しでも齧ることが出来たなら、心の空白は埋るんじゃないかとそんなような気もして。
この考えが正解かどうかは解らないが。
*
「自分が、……風紀委員ですか」
ルルーシュが兎が駆けるが如く脱走していった先、生徒会室へミレイのアナウンスで呼び出されたセザル(=スザク)は
まだ慣れない女声に辟易するように肩を下げ、同時に、いきなり切り出されたその会長命令に
がっくりと項垂れた。
「カレン、僕生徒会入りなんて聞いてないよ」
じっとりと睨むスザクに声をかけるのは空いた皿を片付けるミレイだ。
「残念ねオーウィン。アッシュフォードの学生は、どんなのでもいいから一個はクラブに入んなきゃなんないのよ」
「ならもっと奥まった文化系とかにしますよ。同好会でもいい」
「あんた不器用なのに手芸部とかに入れるの?無理なんじゃない」
ああ言えばこう言う。一歩引こうとすれば追いすがるようにして切り返される。
ミレイとカレンが優雅に紅茶を啜りながらバシバシと切り捨てていく自分の答えに、『ああここでは拒否権がそもそも無いのだな』と
床を見つめたままスザクは、自分の学園生活がお先真っ暗なことに気が付いた。
情けない……ほんと、情けない……。
先ほどは偶然鉢合わせた女生徒に逃げられるし。何だか初日から散々だな、と深く溜め息を落とす。
そこに彼がやってきてからずっとだんまりだった誰かのテーブルの携帯が、突然ぶるぶると低く震えだした。
『誰の?』と三人の視線がそこへ集中した時、いつの間にか生徒会室の奥の一室に居たルルーシュがひょっこりと現れて
スザクがそのやって来た姿に何か言う前に、ミレイから投げられた携帯の着信をとった。
「はいランペルージ。……」
「あれっ?彼女、生徒会役員なんですか!」
「そうよ。ルルーシュ・ランペルージっていう私の一応の参謀。さっき展望台で会ったみたいだけど失礼があったりしたらごめんなさい。
何だか最近難しいお年頃でねー。公私共々忙しいからかしら」
「はあ」
「……今の電話も、もしかしたらその彼氏からってことですか?」
逆の耳を片手でおさえながら、カーテンのかけられた窓際へ移動する背中を見つめ、
ミレイとカレンは電話の主が誰かを探ろうとする。
反対にスザクは冷めた目でルルーシュの黒髪を見つめていた。時々はにかむように上がる口元が、何だか煩わしい。
(……?)
首を傾げるも正体が解らない。そうしている間にルルーシュは電話を切り、先ほどの展望台で会った時に感じたことを聞く暇もなく
彼女は生徒会室から出ていってしまった。
「お呼び出しかしら」
おアツいことね、とミレイが笑う。
「難しい顔するのねオーウィンさん。ルルちゃんとお話したかった?」
「いえそんなわけじゃないです。ただ、あんな無愛想な女にも相手が居るんだと思うと、どこか感心しちゃったりして」
『まあ飲めば』とカレンから差し出された紅茶のカップを受け取りながら、軽く足を組む。
「随分とあの子に手厳しいのね。……やっぱり何かされた?」
「別に」
そりゃ最初の挨拶にしては冷たすぎるんじゃないかと思ったりしたが、気に入らないのは別にルルーシュの態度じゃない。
「ふーん……」
お茶会も終了、とばかりに手前にある食器を片付けようとしているカレンの横で暫し考える素振りをすると
ミレイはスザクの肩を引き寄せ、『わっ』と声をあげる彼と自分に目を向けてきたカレンへ微笑む顔をして、
「気になるなら偵察しちゃおっか」
と、彼女からみれば楽しくて仕方ない提案をした。
何で興味もない女の彼氏と落ち合う現場に張り込まねばならんのだ……。
ミレイの肩とカレンの腕に挟まるようにスザクは身を伏せ、隠れるように潜った植え込みから一階と体育館を繋ぐ渡り廊下のほうへ
翡翠を向けた。
どうやら相手も気を配ったようで。普段から人通りのない渡り廊下は数分が経過しても、ルルーシュ以外の人間は現れなかった。
傍からみれば百合のように佇む可憐な少女に見える女である。
早く来すぎてしまって退屈なのか、自身の長い髪をひと房梳くって、枝毛を見つけようと指先でいじくっている。
その様子がどこか幼げに見えて、『きっとそんなとこがいいんだろうなあ』とスザクは勝手に彼氏の気持ちになってみた。
「あ、来た」
「やだルルちゃん。Dクラスのジョルジュくんじゃない!あそこの父ちゃん金持ちなんだー。私がお近づきになりたかったぁ」
「会長……」
葉の隙間から零される一言にカレンが呆れた視線を向ける。
丁度スザクと同じ身長であるその男は、詰襟までしっかりと留めた学生服という姿で(当然だが)
ぼーっとするルルーシュの前まで駆け足に近づいていった。謙虚である。
「随分と腰が低そうな……。あんなので関係が進展するんですかねえ。あんまり積極的にも思えない」
「何言ってるのよセザル。最近はそういうのがいいって雑誌で見たわよ」
「ああ、市街でカレンが読んでたあの雑誌?あんな風俗ものの情報真に受けないほうがいいと思うよ」
カレンだってモテないわけじゃない、とスザクが小声で言う。
それを聞かずミレイはじいっと観察したまま、突然『あっ!』と高い声をあげた。カレンもスザクもその一点を凝視する。
自分と会った時とは比べてニコリと笑うくらいはするが
ジョルジュが『行こう』と手を伸ばした途端、ルルーシュは触れたくもなかったのかパシンとそれを振り払った。
「えー!どうしてっ」
「わー……見事に拒絶しましたね。接触嫌悪?」
「同類おめでとうセザル。……でも相手嬉しそう。マゾなのかしら。『手が駄目なら腕は?』とか言って
抱き寄せようとしてるわよ。マゾ決定」
ひょろりとしたルルーシュの肩が、ぴったりと相手の腕にくっ付き、そのまま昇降口まで歩いていってしまった。
もっと何かすごいことが起こると期待していただけに、あっさりと目の前から去っていってしまった二人に
少し居た堪れなくなる。
だが、でも、
「あんまりルルーシュ、楽しそうじゃありませんよね……」
第一に思ったことを、ぽつりと呟いてみる。
そのスザクの発言に二人の女子は首を傾げたまま、『女心はわかりにくいっていうけどね』とミレイは曖昧に頷き
カレンは『きっと同情心で告白を断れなかったのよ』と溜め息を吐いた。
「ふーん」
自分は男だから、そういう”気持ちとは反することをしてしまう”という複雑で繊細な心情、というものは解らないが
けれどルルーシュがジョルジュを真に見ていないことは解った。
それだけでも何故かスザクは安心した気持ちになってしまってたりする。
あれ?
一体何なんだろう。ルルーシュに会ってからおかしい。
どうしてこう焦ったように引き摺られるように、彼女へ目を向けてしまうのか。
「来週はどこか遊びに行こうか、ランペルージ」
「いいけど……、でも、その日は生徒会があるから」
午後からなら大丈夫、と足元を見ながらルルーシュは自分の肩に腕を回す男へ答えた。
「で、何処へ行くの?」
「まだ考えてないんだけど、何処がいい」
「……そうだな」
何も予定がないなら庭園がいいな、と頬を緩め、------------はにかんでみせた。
付き合いだしてからの初めて見る笑顔である。ジョルジュは驚き、普段よりも上擦った声で返事をしてしまった。
「は、花が好きなんだ。そう言えばよく世話をしてるよね。ああいうのって生徒会で回してたりしないの?世話の当番」
「俺の勝手でやらしてもらってることだから。自分一人でしてる」
「そ、そう。……例えば花でなら、何が好き?」
「デルフィニウム」
ジョルジュはそのルルーシュの言葉に、家に帰ってからすぐ花の図鑑を取り出した。
そしてそこに記されている花言葉に気分は有頂天になる。
……《私は貴方に幸福を与える》
しかし、彼が期待して望む未来はそう簡単にやってくるものじゃなかった。
ルルーシュはジョルジュと付き合っているようで付き合っておらず、見ているようで視界の端にもいれてなかったのである。
それを思い知るのは翌日の出来事。