皇室の中枢を担っているといっていい謁見の間、
----スザクはナンバーズが不可侵とされているべき筈の通路を渡って、
扉の影に身を潜めるように皇帝と、その息子が話し合う現場を眺めていた。まだ14の頃だったと思う。
10を数える前に母国は消滅した。現在主として使える皇女の父、ブリタニア皇帝の手によって壊滅させられたのだ。
名前と、国籍と、人権を奪われた国民たちは、スザクの父親が処刑されたその場で『イレヴン』として生きる事を
強制された。それしか道はないし命もないのだという事を、鎖で両手首を縛り付けられたスザクを見せしめに晒す事で、
日本人の首を縦に振らせたのだ。
それから、両親と死別したスザクはブリタニアの宮殿に入る事になった。
何故自分はこんな場所に居るのだろうと思う時もあった。けれど、軍で訓練を受ける中で、いつか自分のこの行いが報われる時が
くると思って、何か自分にも変えられるものがあると信じて、従順なまでに名誉ブリタニア人の称号も受け取った。
それがキッカケとなったのか、もしくは皇族に謀られていた事であったのか、第二皇子がスザクの身柄を
内乱が勃発するエリア11----元日本国に送って、クロヴィス総督の下に就かせて王国を絶対のものに知らしめんと
皇帝に持ちかけていたのだ。
思えば、自分の両親を官邸で殺したのは、白金の意匠が施された大剣を掲げる第二皇子シュナイゼルではなかっただろうか。
いつも軍に顔を出すとき、決まってスザクには侮蔑と嘲笑を込めた眼差しを向けてはこなかっただろうか。
走馬灯のように頭の中に映像が炸裂して、スザクは眩暈が起きたように顔を手で覆った、足場が崩れてしまうような不安定さが
今の自分の身体を支配する。どうにも堪え切れなくて、その時駆け寄ってきた黒髪の皇女に暴力を振るってしまったのを、今でも
忘れらない、むしろ騎士となったからこそ忘れてはいけない、スザクにとってのトラウマともいうべき記憶となっていた。
「----スザク!」
「っえ?」
思わず驚いて振り返ってしまうほど明るい声が聞こえて、スザクは素っ頓狂な声をあげて立ち止まった。
自分の事を名前で呼ぶような人間は、皇居にはあまり存在しない。何故か自分の主でさえ、何処か遠慮しているふしがあるその呼び名。
「もう訓練は終わったのですか?」
その名前を平然と口に出来るのは軍内部でも僅か数人、呼び捨てにする事を許しているのは只一人だった。
ユーフェミア・リ・ブリタニアは英国の中では珍しい、スザクを友人として対等に接する人間だ。
(皇族なのに……)
「いま丁度終わったところです。明日もまだランスロットの微調整で出なければならないのですが、今日はもう休んでいいと言われて
しまって……」
「良かったじゃないですか!最近は就任式があったりルルーシュの事があったりで、あまり休めていなかったのでしょう?私の離宮にも
遊びに来てくれなくて」
「すいません」
ぷう、と膨れるような表情をするユーフェミアに空笑いをしながら謝った。
「ユーフェミアさまはご公務で?」
「そうです。お姉さまとギルフォードさん達についていって……あら?あそこにお兄様達がいらっしゃいますわ」
「?」
見て見て、というように手で差し示されて、スザクは特派のベレー帽を片手で取り、視線の先を辿った。
其処には中庭に面したテラスがあって、白と黒の彩色が鮮やかな兄妹が優雅に紅茶を飲んでいる姿があった。ふう、と短く息をついて、
スザクは身体を反転させた。
「あら?何処行くんですか、スザク」
「いえ、特にお声を掛ける用事もないので、自分は此処で失礼しようと」
「そんな!折角お兄様もいらっしゃるのに」
(だからだよ)
とは思っても言えず、スザクは掴もうと伸ばしてくる少女の腕から身を避けつつ、騎士として自分に用意された部屋へと駆け足に
去って行った。
その影を、どこか寂しそうに見送った紫電の存在に気づかずに、スザクは突然空いた時間をどう潰そうか思索に耽った。
「エリア11っていうと、……やっぱり明日の朝には英国を発つ事になるのでしょうか」
「勿論そうでしょうねえ。----ぶっちゃけた話、間に合うと思う?ランスロットの構築データ」
「うーん、スザクくんのデータとはもう、バッチリなんですけど……どうでしょうかね」
特派トレーラー内、愛息子であるランスロットを前にして、セシルとロイドは椅子に腰掛けながら天を仰ぐように、
白金のボディを見上げていた。
「まさかデヴァイサーとして推薦する前に騎士になっちゃうとは思いませんでしたね」
「……そうだね、最初はルルーシュ殿下が騎られるものとして発明してたんだから、調整だってそら大変だよ」
当時、第二皇子が直々にロイドへ注文していた第七世代ナイトメアフレーム『ランスロット』は、17を迎えて軍事入りする
ルルーシュに渡されるべき機体であった。つまりパーソナルデータも生態系へのアプローチもすべて皇女仕様となっていたのだ。
が、テストプレイでルルーシュは悉くランスロットに拒絶された。中のハッチは非常時においても脱出出来ないようシンプル化されて
いたものだから、神経にそのまま影響が出たわけではなかったが、何故かその時ルルーシュは機体の中で気を失う程の苦痛を
味わったのだ。まだ一介の准尉であったスザクもその現場に居合わせたのだが、流石に蒼白とした顔で、修羅のように
繋がれたケーブルを引き抜こうとするランスロットを見上げていたような気がする。
「スザクくん、あれで自覚無いつもりなんでしょうけど、随分あの時は慌ててましたよね。ハッチをこじ開ける勢いでよじ登っちゃって」
「ああ、あったねそんな事も。皇女さまも全身をサクラダイトの粒子に当てられちゃって、ハッチそのものを壊す事も出来なかった」
「軽量化を最優先して良かった事ってあったのかしら。……ルルーシュさまがあんな目に遭ったから、デヴァイサーを引き受けたのかも
しれませんね、彼。……本当にそんな風に思ってくれてるんなら、私も安心して見てられるんですけど」
蒼髪を伏せて、そう遠くない過去に思いを馳せる。
あの現場に居合わせたから、スザクはルルーシュを助けようとしたのだろうか。たまに皇居などで学生服のスザクと軽装に身を包む
ルルーシュが、まるで兄弟のように走り回っている所を見たりもするが、どうしても『枢木スザク』の真意が掴めずにいた。
暴れようと低い嘶きにも似た震動を発した白い獅子の前では、スザク以外誰も動けずにいた。その中をいつもと変わらない無表情で
駆け出して、整備係が使う脚立と階段を一足で飛びうつり、動きを止めないランスロットの後部へ乗り上げたのだ。
唖然とする観衆の前で、ものの数秒で准尉は機体を沈黙させてしまった。『どうした』『一体どんな手品を使ったんだ』と口々に
質問されたスザクは、血の気の失せた少女を腕に抱えたまま、自分こそ不思議だというように首を傾げてこう述べた。
「ほら、よく映りの悪いテレビを叩いて、接触がよくなるようにする事ってあるじゃないですか。そんな要領で、中のブーストを
蹴り上げてみました。----爆発するかな?って思ったんですけど、僕達生きてましたね。よかったよかった」
(いやいや全然よくないよ)(ていうか命がけの賭けじゃないですかそれ)
あははと笑う(多分作り笑い)准尉を皆で取り囲みながら、ロイドでさえもその時は冷や汗をかいた。
「でもあれからすぐにデータを作り変えましたけど、結構すんなりと合っちゃいましたね、スザクくんとランスロット」
「元々機械と相性のいい子だからね。見た?学園の成績表。体育と倫理と技術科目だけパーフェクトなの」
「うわ……」
正に軍人、という彼の才能に、セシルは目を瞑った。たまにロボットじゃなかろうかと疑うような動きをとるから、
きっと天性のものなのだろうと関心してはいたが、そこまで計算された実力を持っているとなると、逆に恐い。
「でも国語とか音楽とかは全然だっかなあ」
「あ、それは解るかも。美術とかきっと下手くそなんですよ」
チカチカと点滅するパネルを前に、女史は手を打った。
シュナイゼルは他人には事のほか厳しい。それは親族を最優先とし、他国への謀略を企て遂行する能力に長けていたからだ。
そして同じく参謀として付き従う、異母姉コーネリアは、兄とは違って弟妹達にそれはそれは厳しかった。勿論、愛情がもたらす
ものであるとユーフェミアもルルーシュも思ってはいたが、……それでも、まだルルーシュがスザクと深夜に会う事を良しとしていなかった。
それは周りが寝静まり、宮殿内から人の気配が消えた時刻を見計らって自室に呼び寄せるからであるのだが、そうでもしないと
友人(……?)でもあり最近は騎士となって部屋も近くに用意されたスザクと、二人きりで話し合う事も出来なかったのだ。
それで、どうやって皇族でもない軍人であるスザクを部屋に呼び寄せているかというと、
「……ゅんい、じゅーんーいー」
「は、」
防犯係として城の夜警を任されているスザクは、決まって同じ時間にルルーシュの部屋の窓の下を通っていた。
まさかそれを把握して利用されているとは思わない准尉は、いつも窓からひょこっと顔を覗かせる皇女を、不思議な面持ちで見上げていた。
誰かに聞かれても見られてもよくないので(最近は侍女に見られているらしいが)ルルーシュは声を潜ませながら、
黒いコート姿で電灯を持つスザクの腕を、窓際からグイと引っ張って招きよせた。
「で、殿下!明日はもう出発するんですから、今日は駄目です!無理です!」
「別に話をするだけじゃないか。夜這いじゃないんだから焦るな」
む、とした顔でルルーシュはスザクの頭を小突いた。引っ張る腕をそのまま青年の肩へと回して、壁にくっつけるようにある
ベッドの上まで引きずりこむ。その間、スザクは毎度の事であるのにあたふたと慌てて、寝巻き姿の少女の体に目を向けないよう、
月夜の光から避けるように身体を小さくさせた。
「……俺と顔を合わせるのがそんなに嫌なのか、准尉」
「へ、や、そんな訳じゃないですけど、……何ですか、今日は」
ベッドサイドまで下がりながら答えるスザクに不満なのか口を尖らせるルルーシュ。心底面白くなさそうに、
昼間したように強引に腕を掴みとった。面白いくらいにスザクの肩が跳ねて身が縮こまる。どうしてか最近、皇女がそっちの面に限り
積極的になったのだ。
ルルーシュがスザクを部屋へ誘う時は、自分の愚痴をきいてもらうか、もしくはスザクの愚痴をきくかのどちらかであった。
別に青年の方からルルーシュの部屋へやって来る事はない、ただ、ルルーシュ個人の主観でもって『あ、なんか腹立ってそう』と
回廊を行く姿を見留めた時に限り、高慢な口調でベッドの上に引きずり込むのだ。
今回は、どっちもどっちというか、お互いに当て嵌まったからこうする事になったという感じであった。
照明の落とされた部屋の中でも解る位、ルルーシュの瞳は猫のように光ってみえた。
スザクは見ない見ないと思って視線を床へと向けていたのだが、それでも掴んだまま伝わってくる手の体温が気になって、皇女へと
身体が向いてしまう。
接触は、嫌いだった。けれど、
(……皇族のくせに)
ルルーシュだけは特別だった。
「……殿下」
スザクの口が開く。
「とうとう、明日は初の任務となりますね」
「ああ……」
「ランスロットが、エリア11の土を踏むことになる」
「----准尉」
は、とルルーシュの目がスザクへと近づいた。ピタ、と合わせられた視線の色は対極、青年の双眸はただ暗く淀んでいた。
「僕は軍人として、貴方の剣として動く事が出来るかな……」
それは冷たい響きをもっていた。ルルーシュは直にスザクの声を聞いて、泣きたいような顔しか出来ない自分に泣きたくなった。
手を繋いで、歪な胼胝の感触に青年の努力の跡を知る。ルルーシュはとにかく、スザクが務めた分だけ報われればいいと願う事しか出来ない。
だからこそ、こうして触れ合うのかもしれなかった。
「元々は、俺の任務だったな……」
ランスロットに初めて騎乗した事を思い出して、僅かに背筋が震えた。スザクにもそれが伝わったのか、軽く翡翠を見開く気配がした。
「本当はお前がしなくてもいい事だった」
「僕は吹っ切れているから、大丈夫ですよ?逆に心配されると、こっちが心配だ」
「ふん、お前が俺なんかを心配するのかよ」
「しますって、……多分」
嘘をつきたくないのだろう、いや、したくないのかもしれなかった。准尉は曖昧に頷いて、自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「何があっても、貴方の事はお守りします。……それだけは、不安にならないで」
綺麗な低音が鼓膜を刺激して、ルルーシュは心地よさげに瞼をおろした。包んでいた無骨な指が離れて、その手で肩を掴まれ
シーツへと寝かされた。はっと目を開いた時には胸まで布団をかけられてしまっていて、既にスザクはベッドから降りてしまっていた。
「じゅ、」
「おやすみなさい、よい夢を」
暗闇だったから笑っているのか解らなかった。
しかし一日の終りを告げる挨拶だけは、優しく柔らかなものに思えたからルルーシュは細く息を吐いた。
うまく表情を作れないほど、硬質な鎖に感情を縛られている彼だけれど、真に優しい事をルルーシュは誰よりも知っていた。
普段他人が見せる行儀のいい、そんなものではないスザクの態度が心地よかった。本当に騎士にしていいと思ったのだ。
ふわりと額の髪を梳られ、ルルーシュの意識は闇に落ちる。その感触を大切に胸にしまいながら、次の朝日を待った。
今回、出国するのは特派と司令官であるルルーシュ、その責任者でコーネリアがエリア11の視察へ向かった。
道中は主に空路を使用。シュナイゼルが直々にロイドへ依頼して設計されたアヴァロンに搭乗して、ほぼ一日を使い
広大な海を渡った。
けれどルルーシュ達は中央にある司令室で、既に総督としてエリア11に居る第三皇子クロヴィスと無線通信を行っていた。
コーネリアがスクリーンの前に立ち、一歩下がったその後ろでルルーシュが見上げるようにクロヴィスを見る。
「行政特区の立ち上げを要求するイレヴンがレジスタンスを結成して、テロを各所で起こしているとの報告があったが、
現状は一体どうなっている」
『どうもこうも、グラスゴーもどきで折角舗装した道路も無茶苦茶だ。三年ほど前まではまだ安泰としていたのに、私が
総督としてやってきた頃には散々な状態となっておりましたよ』
「解せないな。……今回の視察ですべてのテログループを列挙するつもりで臨まないといかんか。ルルーシュ」
「ええ、もうすでに特派の方は私が準備させました。いつでも着陸可能です」
「了解した。お前は場の流れを掴むのがうまいな。----ランスロットと共に私もグロースターで出よう、お前は後から着いてきておくれ」
「わかりました」
すっ、と身を斜めにひいて空けたスペースをコーネリアが優雅に通って行った。ドアの先にはギルフォードが待っている。
ルルーシュはまだ繋がられたスクリーンに向けて、マイクをとった。
「異母兄上、……ナナリーの所在は、掴めましたか」
椅子に腰掛けた状態で紫暗を見開くクロヴィスを前に、震える拳を悟られないよう後ろに隠して、続けた。
「私が三年前、日本へ行った時から、は……何もお変わりないでしょうか」
『……?何を言っているんだ。あれの事は父上とも話して決めたはずだ。----もう関わるのは止そう、と』
「はい」
『今は兄弟に構っている暇さえないんだ。到着するのを空港で待っているよ、…そうだ。ルルーシュ、あのイレヴンを騎士に任命したのは
本当か?』
「本当です。が、彼はイレヴンではありません、名誉ブリタニア人准尉、枢木スザクです」
『…………ふん』
口端を一瞬歪めて、一方的に回線は切られた。ルルーシュはそれに嘆息して、マイクのスイッチを切り替える。ついでに画面に
搭乗する光景が見られるようにとボタンを操作した。そこにはスーツに着込んだ異母姉とその騎士、そして他の軍人の中に一際目立って
スザクの姿があった。アヴァロンに入ってからは一度も会話をしていないが、体調も外見には良いらしい。耳元にとりつけた通信機器を
使って、ランスロットのハッチに足を掛けた状態で整備係と話していた。
(今回の俺の目的を知ったら、きっと怒るだろうな)
手袋に包まれた指で、ルルーシュしか配列を知らないコードを打ち込んだ。普通の操作をする時に出る音とは違うものが耳に聞こえ、
その瞬間に画面が切り替わった。もう空と地上の距離が近い……その先にあるエリア11、イレヴンの居住する島国が見える。
栗色の髪に彩られた白い面差しが、するりと紫電を懐かしく撫ぜた時、ルルーシュはハッとして、両手を画面につけて凝視した。
赤銅色の機体、----ランスロットと形態が似通っている、恐らくナイトメアフレーム。
スザクが騎乗するあれが白い獅子ならば、着陸路に毅然と立つその機体はさながら燃えさかる炎のような姿にみえた。
「何だ、あの機体は……」
絶句したように次の言葉を紡げずにいると、様々な情報が視覚へと無常に駆け上がってくる。
頭部の角のような箇所から外へと上体を覗かせた、パイロットらしきボディカラーと同じ色をした髪の女は、
高々と日本の国旗を掲げていた。よく見ればそのナイトメアもどきの下には、武装したテロの軍団が蟻のように居る。
そして手元ばかり見ているルルーシュは気づかなかったが、搭乗口からスタンバイしていたスザクは、そしてコーネリアも、
下の異常さに気づくと同時に、見た事のある黒い影を白皙の空に見た。人間でいうなら両手の部分を水平にして
飛び上がる鬼神のような兵器、眼光さながらに網膜を突く赤い閃光は、明らかに攻撃的なものに見えた。
「コーネリアさま、あの機体……」
「ああ、三年前にブリタニアから消失した、私達のガウェイン……!」
怒りさながらに紫電を鋭くした先を、同じく翡翠も追っていた。あれは一度見た事がある、ランスロットよりも早くに開発され、
試乗もされた、今は遠い地に亡命してしまったある科学者とロイドの技術が融合した唯一のナイトメアフレーム。
「どうしてあれが今此処に?」
返答は期待せずにスザクが呟いた。内線からセシルとロイドの会話が聞こえ、呆然と見るだけならば騎乗してしまおうとハッチの中へ
身を投げ出す。
司令塔であるルルーシュが、唖然と固まって見送る中、ガウェインと呼ばれた黒い機体の水平に掲げられた両手の片翼ともいうべき
腕から五本のワイヤーがアヴァロンへ向けて射出された。
「-----……っ!!」
それにすぐ反応したルルーシュは、腕を斜めに伸ばして非常ハッチに繋がるレバーを、力いっぱい手前へ引いた。搭乗口が全開と
なっている今、殺戮効果のある五本の線を受け入れてしまっては異母姉たちに危害が出る。
(どうして、どうしてあれが……、三年前居なくなったはずなのに!!)
非力な腕と足を踏ん張って、アヴァロンの射出ハッチを閉めようとした。が、一瞬の判断の遅れか、
司令室の内部が大きく揺れる。五本ではなく数本でも絡めとられてしまってはもう脱出する事も出来ない。捕まってしまったのか。
数秒遅れて、轟音が空間を揺らした。『ひっ』と小さく悲鳴があがって、咄嗟に口を押さえる。
はっとスクリーンを見上げた先には、冷静な面持ちをした翡翠があった。
『殿下、----ハッチを開いてください』
「……駄目だっ」
『既に敵機の一部が侵入してきてしまっています。スラッシュハーケンというものだと内線で知りました。僕のランスロットなら
数秒で墜とす事が出来ます。このままの状態を維持しても、共倒れとなるだけです。早く!』
冷酷で冷静な声がルルーシュの身体を浸透していった。ハッチのレバーにかけた腕はそのままに、頭を伏せた上体で縮こまる。
「けれど、ガウェインが……」
考えて、考え抜いて出そうとした決断を口にしようと、恐る恐る紫電をあげたその時、画面が第三者の手により切り替わった。
黄金色をした猫のような目をした、腰までのライトグリーンの髪をもつ女が、異母姉や騎士よりも硬い、鋭い声音で言い放った。
『恐れながら神聖ブリタニア王国の独裁者たちに告ぐ。我々の目的はブリタニア軍の撃退、殲滅であり、
----第11皇位継承者、第7皇女ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの身柄の確保、及びその命である!』
規則的な心臓の音も、瞳の瞬きも、背筋を凍らす戦慄の震えも、すべてが静止した。
(再戦開始)