中庭で不安そうにセシルがルルーシュとスザクを
待っていた。そこにやっと落ち合い、そして異変に気づきやって来た
ジノとアーニャも居る。ルルーシュは自分の見た光景や無知でいた己にかけられた言葉の数々にまだ混乱しながらも
とりあえずこれだけは……と、みんなに向けて顔を上げた。
「兄君とロイドが-----------消えた」
不可解な事象に直面した人間は、咄嗟にどんな行動が出来るだろう。
追おうとする寸前に離れて消えた、------------ロイドたちは泡のように霧散していったのだ。
螺旋を抱く
ブリタニア王宮にはコーネリアが残るらしい。スザクから離れてユーフェミアの部屋まで行けばそこに異母姉の姿があった。
皇族墓地から両手に持ってきた彼女の遺骨を、ルルーシュは手渡した。コーネリアは窓辺に居ながら、戸惑いげにルルーシュのもとまで
やってきて、その遺骨を受け取り、柔らかく胸に抱いた。白い陶器の壷の内から溢れてくる何かは、ユーフェミアが持っていた
輝きそのものであるように思う。
許されないと知っているし、もう自分に対してもそんな風に抱いてなんてくれやしないだろう、と思って
ルルーシュは最後に一度だけ軍隊式の礼を------------腕を突き出し胸の前で構え……頭を下げた。
崩壊して元に戻らなくなったのは王宮だけではない。
此処に仕舞ってあった思い出たちも、還らなくなった。そしてルルーシュの周りも激変した。それに対してどう処断し整理していくかは
自分自身の問題である。
「姉君。……いや、総督」
は、……と瞳があげられる。兄弟で一番近い色の紫電が交わった。
せめて苦笑いに見えてなければいい。笑うだけの力は、まだ身体に残っているから。
「俺は二人を追います」
「居場所は、突き止めているのか」
「それもこれから、……多分、大体の見当はついているので大丈夫です」
「そうか」
「最後に一度だけいいですか」
「え?」
夜から、外が朝に変わろうとしている。もうこんなに時間が経ったのだ。これだけ日の移り変わりが早いのならば
きっと自分の目標も達成出来る。
窓から差してくる光に目を細めながら、ちゃんとコーネリアと目をあわして、ルルーシュは微笑んだ。
「ブリタニアを出る時、勝手な私に対して後見役として黙って付いてきてくれたこと、とても嬉しかったです」
「…………」
「ブリタニアをお願いします」
一度は殺そうとした異母姉に対して微笑み、気は済んだというようにルルーシュは部屋から立ち去った。
『俺』でなく『私』、ルルーシュなりの家族への決別の現われである。
既に部屋は一面の白色光に包まれていた。
外の眩しさほどではないが、室内に居ても、目は痛んだ。けれど、今コーネリアの瞳を揺らすものは、その所為ではない気がする。
数分もしないうちに頬に水滴が零れた。壁に寄りかかって、陶器を抱きながらルルーシュの立ち去ってく足音を聞いて、
肩を震わした。ようやく自分のしたことも妹に降りかかった不幸も、全部理解出来た気がする。
(もう、戻らないから)
異母姉にも異母妹にも、……自分にも。
「殿下、セシルさんが二人で来てくれって」
ただの布きれ状態になったドレスの裾に辟易しながら、マイペースに中庭へと戻って来たルルーシュをスザクは回廊の端で
待っていて。
「セシルが?」
「ええ。すぐにと」
どうやらシュナイゼルからコーネリアを庇った時に負傷したらしい手首を手当てしたところで、彼は女史に召集をかけられたらしい。
そのスザクと共に連れ立って、今は彼女しか居ないトレーラーに足を向ける。
セシルはやって来た自分たちにまず手ぬぐいを差し出した。気づいてなかったが顔も腕も真っ黒である。
おまけにスザクの頬や腕には血がこびりついていて、異様な有様だった。包帯も自分で巻いたから、傷口は覆えているが
他の結び目なんかは全然しっかりしていなくて、セシルは『しょうがないわね』と言いながら彼の手首の包帯を巻きなおした。
軽く湿らしてくれた布巾でごしごしとルルーシュは顔を拭き、傍にあった椅子に腰掛ける。足首や膝なんて少し擦りむいているどころの
話ではなかったが、そこまで手を伸ばす余力はなく、スザクの巻きなおしが終わるまでぼうっとしていた。
「二人とも満身創痍ね」
苦笑も滲ませてセシルは二人を見つめた。ううん、と即座にルルーシュは首を振る。
「セシルのほうが大変だったろう」
「え?」
「スザクも頑張ったらしいけど、アルヴィオンの構築が大変手間がかかったと思うから」
「そんなのはロイドさんが全部勝手にやってくれましたよ」
私なんて、ほんと全然……とスザクの横で首を振る。”ロイド”、その彼の名前が出て来ただけで
三人の顔に緊張が走る。
「そうか、ロイドが」
「はい」
「やってくれたんだな」
「私は助手ですから、-----------あの人がやることのサポートしかしません」
だから全部知ってるんですよ、とセシルは笑って、スザクに背後にある扉を閉めるようお願いした。
え?と聞きながらも身体を自然と起こし、開け放ったままの扉を閉めに行く。ルルーシュはそれを目で追いつつも急に変わった
セシルの顔つきに、紫電を開いた。彼女の目の色が深刻なものになって、手元にあったパネルを流れるように操作し
画面上に地図を映し出す。そこを二人で凝視した。
「これは……」
「--------セシルさん」
「ええ。神根島よ」
セシルはモニターを切り替えながら、エリア11とブリタニアが共に画面内に納まるように拡大し、島自体の位置を映し出す。
「知ってる……確かクロヴィスが独自で研究してたっていう、……遺跡の」
「ええ。スザクくんも知ってると思うけど、従来ブリタニアの侵攻区域は、その遺跡があるかないかで決められていたの。
けれどね、例え神根島、……そしてエリア11からそう離れていない場所にある式根島が存在すると解っても、七年前閣下とロイドさんが
日本を占領国に選んだ理由は違ったの。遺跡は皇帝陛下が欲し、ロイドさんと閣下、私は、別のものが欲しかった。
解るわよね」
「------------サクラダイトでしょう」
「ええ」
セシルの笑顔が翳った。スザクは足元に目を落とす。
彼らがそう選択したから、日本は七年前滅びたのだ。
「当時、私たちは、それは好き勝手に軍事に関わることが出来たわ。上から諌める筈である皇帝陛下も、クロヴィスさまも、
あの人たちの興味と関心は遺跡に向っていたから。私たちはサクラダイトという資源の確保に専念出来た。言わば、遺跡もサクラダイトも
両方手に出来たわけ」
「それで、……三年前の富士鉱山で」
「大打撃を受けたわ。デヴァイサーである人間の、いわば人体に全くの影響がないと踏んでいたから。ナナリー皇子が汚染を受け
サクラダイト自体の利便性よりも危険性を考慮する必要が出て来た。思えば、その時から私もおかしくなっていたのかもしれないわね」
パネルを二度三度叩き、画面の地図を更に拡大した。遺跡の位置とその写真が映し出される。
「……ここからは、どう話をしていいか、解らない」
「セシル……?」
「私はずっと殿下に謝らなければいけなかったんです」
突然、別の画面にパスワードを打ち込み、重要なロックがされたフォルダを二人の目の前で開いた。ルルーシュはその納められている
ファイルの名前を見つめる。それは。
「ははうえ……」
「-----------」
「これ、亡くなる直前の……」
ナナリーとルルーシュが本格的にKMFの騎乗訓練を受ける前に、マリアンヌは死去した。
ガニメデの開発中の自己で、半身がマヒとなったのだ。思えば母の記憶といえば、KMFに騎ってるかベッドに伏せてるかの
どちらかな気がする。それほどおぼろげな姿にまでルルーシュの中で掠れてしまっていたのだ。
「殿下とナナリーさまがエリア11へ行かれる前、既にサクラダイトの危険性は解っていました」
「……!」
「そう。私たちは知っていたんです……ナナリーさまが汚染されること。身体の自由を失うこと」
予期していて、向わせたのだ。
セシルは真っ向からルルーシュを見て、明確に告げた。思わず固まって、何も考えられなくなる。目の前の表示パネルが
他人事のように頭に入って来た。----------母の顔も。母は、……彼らに殺されたということか。
「嘘だろ、セシル」
「本当です」
真実です。だから、ロイドさんは消えたんです、と女史の肩が震えだした。何かにずっと耐えながらも押し殺してきたような姿だ。
「マリアンヌさまの実験で、徐々に中毒になっていってることを知りました。でも、実験リポートから病状リポートに変えることなんて
ロイドさんに報告出来なくて、……黙ったまま、私はマリアンヌさまが亡くなった後でも、それを報告出来ずにいました」
「じゃあ、あの富士鉱山の……、あれは、防げたかもしれないのか?」
「----------」
「母上の身体で、知ってたから……なのにどうして、俺たちに行かせたんだ」
「……」
「まるでナナリーを殺すようなつもりで行かせたことになるじゃないか……!」
「はい」
「しかもセシルの言ってることが本当なら、全部三年前の流失事件は、事故なんかじゃなくて、兄君たちの故意による
実験に……っ」
「-----------ええ」
「どうしてそれを今まで黙ってたんだ」
悲痛な響きがセシルを襲う。けれどそれは零れることなく、全部自分が負わなくてはいけないものだと解っていた。
重く瞳を伏せて、項垂れた身体をルルーシュの前に下げる。『ごめんなさい』と。みっともなく両肩が震えていた。そんなのを見たら
何も言えないじゃないか、と、唇を噛み締めた。
本当にそれが真実であり真相であるならば、港での騎士団との攻防までの自分とナナリーの遣り取りは、ロイドたちから見れば
全くの茶番になる。
ずっと罪悪感に押し潰されていた自分は、償うことだけを生きがいに、今までを過ごしてきたというのに。
「じゃあ、セシル、ユフィは?」
「あ……」
「ユフィが死んだのも、……それか?」
血を吐き続け、結局は失血性ショックで亡くなった異母妹。
ジノから『中毒になっている』と告げられた。彼はそれを蔵書室の機密フォルダから抜いてきたというから、ナナリーの事例で
サクラダイトによる中毒症状が文書化され記録されていたものだと思う。けどそれがマリアンヌの時にされていたのならば、
元々こんなことにまではなっていなかった。ナナリーも五体満足になってた。それを。
「じゃあ教えてくれよ、セシル」
「はい」
「ロイドは……」
「いえ、殿下」
伏せていた顔を目の前で上げた。食いしばる紫電としっかり見つめ合う。
「ロイドさんだけじゃない。私たちはその時、ただKMFが欲しくて、人を人とも思ってなかったんです」
「……」
「だから、平気でそんな真似が出来た」
クロヴィス殿下と皇帝陛下とも同じです、遺跡とサクラダイトの違いしかない。
そんな理由でルルーシュとスザクの人生を歪めた。
それを告げて、女史は肩の力を抜いた。しかし指先は震えている。それを両手を合わせるようにして、口元まで持ってきた。
そのまま再度、深く頭を下げる。ルルーシュとスザク二人に。そう。こんな風に思えるようになったのは、謝罪をしなくてはならないと
感じたのは、……これまでのルルーシュに尽くしていた時間があったからだった。総督として生きる姿を見てきたから。
「ごめんなさい」
押し殺した声で、何度も頭を下げる。
その姿をただ見つめて、どう言えばいいか解らず、ルルーシュは俯くだけ。隣でじっと座って聞いていたスザクは、静かに瞳を伏せた。
「……じゃあ今、ロイドさんと閣下は何処に居るんですか……?」
沈黙をそっと割くように、スザクが口を開いた。神根島に居るのだろうか。
ルルーシュも心痛にまだ俯いたままでいるが、耳をそば立てる。セシルは椅子から伏せていた背を起こして、再び画面に向き直り
パネルを操作した。そこにはウインドウの閲覧履歴がある。当然ではあるが彼女が調べているのは自分のものではない。
「これを見る限りだと、多分そうだと思うわ」
「兄君は神根島の遺跡に行こうとしてるのか?」
「ええ。十中八九、閣下とロイドさんは一緒に行動してると思いますから」
こちらへと背を向けたセシルの姿が、少し淋しげに見える。何故解るのか、とスザクが訊いた。
「ロイドさんがこうなることも、知っていたんですか」
「…………」
それにはセシルは無言でいる。追求したってどうしようもない問題であると解っているのか、ルルーシュはわざわざ訊ねない。
「セシル、お前の気持ちは解ったよ、とても」
「……はい……」
「そんな気持ちを抱えて、俺に仕えてるのはずっと辛かったろう」
無理をしなくていいのに、スザクの前でルルーシュは元気づけるように笑う。その姿に翡翠を見開いた。
「殿下……」
「どういう原理で俺たちの前から消えたかは判らないけど、追う必要がある」
「……追う?神根島に行くんですか」
「ああ。じゃないと、俺はもっと昔のことを後悔する」
紫電を鋭く細め、モニターを見上げる。遺跡に興味なんてなかった筈の人間がどうしてそこへ向うのか。むしろ、何故自分から離れて
ロイドはシュナイゼルと共に消えていったのだろうか。……あの言葉の意味は。
--------------もちろんこれは例え話です。
きっとどこかの国で誰かが作った”たったひとつの”御伽噺。
『貴方を壊したかったのは閣下だけじゃない』
『貴方の弟を標的にかけたのも僕だ』
『貴方がスザクくんのものになるまで、ずっと待ってたんですよ』
(嘘でしょう……)
視界が真っ白に歪む。どう、取り繕って先に進めばいいか解らない。
けれど、そんな時でも、自分には立ち止まることなど許されていないのだ。
そしてそうだからといって卑屈にもなってられない。
きっと答えを神根島で見つけ出す--------------そしてそこにロイドと兄が居ることを切に願う。
いつだって思う。
裏切られるのが嫌なんじゃない。裏切られるのが寂しいのだ。
(……いつだって)
極限にまで疲れがきていたのか、そしてセシルのことを含めて色んなことを頭に吸収したからか、
当然のごとく身体はオーバーヒートになって、気づいたらスザクに抱き上げられ、トレーラーの外に運び出されていた。
「へっ?なに、何なんでっ……何処行こうとしてるのスザク」
うとうとと、夢うつつに近い状態となっていたから全然抱えられることに気づいていなかったのだ。
「だってすぐに飛ぶことも出来ないでしょう」
何を言ってるんだ、という顔で見られてしまう。『うう……』と身を小さくして、思わずその顔の距離に目を逸らした。
---------近かったのだ。
「でも俺急がないといけないし、」
「疲れてるでしょう、殿下。きっと使いものにならないですよ」
「そんなっ。俺の体力を何だと思ってるんだ。お前もちょっとは頑張ったらしいが俺だって一人で頑張ったんだぞ」
「はあ」
「だから、わざわざ運んでくれなくったって自分で歩ける……!スザクだって怪我してるのに」
「血はもう止まりましたから大丈夫です。ジノから、客間なら問題なく使えるって連絡があったのでまずはそこに行きましょう」
にべもなく、降りようとしたルルーシュの言葉は却下された。中庭から回廊を横切って、正門の側から入って行こうとする。
「ご強引……」
首に腕を回しながら、そっと肩口に呟いた。いつの間にか生娘みたいに頬を赤くしている。我ながらスザクと二人っきりになると
色々露呈してしまい恥かしいことになって仕方ない。そんな自分の様子にも、彼は満足し楽しんでるのだ。きっと。
腕にしたルルーシュの重みを確認するように、歩きながら何度か抱え直した。その度に『ひっ』とか声が上がったが、
気にせず人気のない階段を上がっていく。ルルーシュは総督の地位やすべてをコーネリアへ預け独立したような状態になったらしいが
それでもこの王宮は彼女の家だ。何も遠慮することはない。それにヘッドトレーラーや戦艦の中には、ゆっくりと休めるような
ベッドは無いのだ。兵舎にあるような簡易ベッドがいいとこである。
ジノから言われた通りにスザクは客間へと辿り着き、横抱きに運んできたルルーシュの身体をベッドの上に置いた。次に、一応布巾では
拭いたが、まだ完全には落ちていない汚れをとるための湯と洗面器を用意しようと、洗面所へ向う。
淡々とやるべきことを済ませベッドのほうまで戻ってくると、細い脚をぶんぶんと上下に揺らすルルーシュが、
視線はずっと床下に向いて、ぼうっとしている姿があった。
その足を手にとり、ベッドの下に屈む。
「わっ」
「洗っていいですか?」
戻ってきたのに気づかなかったルルーシュは変な声をあげた。主の足を洗う為に湯を用意したっていうのに酷いな、と思いつつも
触る足首は慎重に扱う。転んだり素足で走ったりしたからか、皮膚が薄い足の甲なんかには傷が一杯あった。
「酷いですね」
見たままを言う。けど、自称頑張ったルルーシュはふるふると首を振った。
「まだやることは一杯ある。この程度で根をあげてちゃ……」
「そう、偉いですね」
「ああ。生きる、ってユフィと誓ったからな」
途中、コーネリアと相対してルルーシュは自失しかけたが、----------その時はスザクが空から現れて、また助けてもらった。
心ごと。
胸の中に暖かさという温度が戻って来たような気がした。先ほど照れた時にぐるぐると混乱したその感情ではなく、ただスザクに対する
感謝の気持ち。それが体温となったもの。いつだって凍えそうな時はスザクが駆けつけてきてくれる。
今だって足先から、温めてもらっている。心地よかった。
セシルにどう感謝を伝えたらいいかとぼやいた時、彼女は真剣にオススメをしたのかも知れないが、どうにもルルーシュの人格的に
それは出来ずにいた。しかも、二人だけというこの状況もある……まるでそういう雰囲気になって然るべき、と言われているようで
ある。
足元を丁重に扱うスザクの指を見つめながらそんなことを考えていた。あんまりにも心地いいので今にも眠ってしまいそうである、が
やはり抵抗があった。眠気に沈没しそうになったけれども必死に頭を振りやり過ごす。
「……?」
それを洗面器に手をつけながらスザクはじっと眺めていた。何かルルーシュは葛藤しているようだが気にしない。
指先まで綺麗に拭うことが出来たので、終りにして片付けてしまうことにした。自分だって疲れているし、傷もまともに消毒してない。
立ち上がってまずは洗面所へ戻ろう、と腰を上げればルルーシュの顔もはっと上げられた。……スザクを見ている。
「何か」
「え、あ、や……その……、洗ってくれて有難う」
「はい」
じゃ僕は失礼しますね、と軽く頭を下げて行こうとした。けれど、
「スザクありがとう!」
「--------------……え」
ルルーシュにしては珍しいほど大きな声に、動きは固まった。
「ありがとう、って」
「助けてくれたこともそうだし、此処に来る為に無理してくれたことも、だし……挙げきれないほど全部!」
「…………」
「今まで本当にありがとう。スザクが居たからここまで来れたんだ。俺は孤独じゃなかったよ、お前が居てくれたから。きっと
スザクじゃなきゃ今もこうしてられるか解んなかったって思うし」
「…………」
「うん、だから、その……」
えへへ、と笑いながら、胼胝だらけのスザクの手をとる。ルルーシュの勢いに押されてか黙ってしまったけれど、まあいいや言うだけ
言った、とルルーシュは思って。
掌にそっと持ち上げた筋くれた彼の手を、頬に当てた。シュナイゼルからコーネリアをかばって傷ついたほうの手だ。よくそうしてくれた
と思う。
(だから……)
「スザク」
「はい」
頭上からぽつりと落とされる返事に、頬が更に緩んだ。ぐるぐるに厚く包帯に巻かれた手を、今度は胸に抱く。よく踏みとどまってくれた
と思った。自分を否定する彼だからこそ、本当に……。
「大好きだ」
もうお互い、エリア11にもブリタニアにも、居場所はない。
ボロボロに擦り切れていた、かろうじて繋がっていた関係は悉く千切れてしまった。自分の為に、自分の所為で死なせてしまった
人も居た。
それでもあまり後悔してないのは、この騎士が居てくれたからだ。
人は心が壊れてしまえば戻らないと言うけれど、きっとルルーシュはスザクが居る限り何度でも再生すると思う。
脆い分、彼のおかげで、強く振舞えるから。
「ずっと一緒に居てほしい」
迎えに来てくれた時、それより前に、強く願ったことを口にする。
スザクは先ほど、セシルを許した時にルルーシュが笑顔を浮かべた以上に目を見開いて、その言葉を受けた。
柔らかな掌に包まれる自分の手が、熱くなっていく。
---------------こちらこそ、ずっと居たい。
スザクからは言葉にせず、でもルルーシュよりずっと強く、そう願った。きっと繰り返される人生の中でも
この瞬間ほど輝かしいものは何もない。
「殿下」
呼びかける。『うん』とすぐ返事が返ってきた。狂おしいほど感情が昂ぶって、触れていた手はそのままに唇を重ねた。
洗面器を床において、ルルーシュの足元から口付けを深くしていく。ひく、と胸にかけられた指先が震えた。
(あ……)
彼女の首元に、そう日が経っていない咬み傷を見つける。
紫電が戸惑うように揺れた。けれど構うことなくそこに舌を這わせ、きつく吸う。
「……っや、スザク……」
労わるように舐めたり撫でるように滑らしたり、または啄ばむように柔らかいその皮膚を咬んだりした。あ、と驚いたように声があがって
戸惑いげに胸を押される。それでもスザクがベッドへとルルーシュの身体を寝かせたら、何の抵抗もしてこなくなった。
しかし、
「俺汚れてる……」
ぼそりと、吐き出される真相。首の傷の正体はそれなのか、とスザクの胸に冷えた殺意が湧き上がったが、そんなことを言うなら
自分の身体だって何かが足りない。
尚も押し返そうと、一度は流されたルルーシュの手がスザクの肩に触れる。その手をスザクは逆に取って、自分の背中へ回した。黒髪が
シーツに散らばりながら浮いて、細い手で首にしがみついてくる。それをぎゅ、と抱きしめた。
「僕だってそうだ」
「ぅっ……」
「こんなにあたたかくて柔らかいのに、汚れてるなんてそんなことない」
綺麗だ、と、囁いたらルルーシュの顔が真っ赤になった。
背中に添わしていた手を強く握りこむ。目を閉じて、後は成されるがままにと、腕の中でくたりと力を抜いた。
「……っ、ァ……あ、あっ……はぅ……!」
曝け出された乳房を包みながら、逆の手は秘所に突き刺している。それほど体力はない筈なのにルルーシュは一度回した腕を
肩から外すことはなく、ぎゅ、とスザクにしがみつきながら彼からもたらされる刺激に声を上げていた。薄くたよりない所ばかり
指が突くから、どうしたって首が仰け反る。それでも、シーツの上で前後にがくがくと揺らされながら、息を噛み殺していた。
まともに呼吸しようと思ったら、外にまで洩れてしまう。でも。
奥をまさぐっていたスザクの指がある一点を引っ掻き、同時に、揉んでいた胸の突起を尖らせた舌で突いたら、ルルーシュはあっけなく
絶頂に達した。
「-------------っく、は……あ、ぁふ……っ」
ひくひくと湿った肌を震わせ、咽喉から堪えていた息を吐き出したら、紫電の端からほろりと生理的な涙が零れた。
まだ内股には指が埋っている。スザクをおぼろげに見つめたまま、自然と腰をくねらし先をねだってしまった。意識がぼやけてくればくるほど
貪欲になる。
「殿下……っ」
それに当然煽られるのか、スプリングが軋んだ音を立てるのも構わず、己の性器を指で解していた秘所に突き入れた。ビクン!と
背が撓る。派手にお互いの体液が半身に飛び散った。
「あ、ん、んんっ、う、……あっは、ぁっ……ア、あっ……!」
シーツと背中の間に手を差し入れ、腰を浮かせながら抽挿を強くしていく。細切れにだが確実にまた高まっていく神経に
あられもなく声をあげていった。ルルーシュもスザクも、繋がるとこからどんどん湿っていって、このまま溶けてひとつになってしまう
んじゃないか、と熱に彷徨い出す中で錯覚する。
それもいい、と思いながら、スザクの背につがみついた手で爪を立てた。つぷ、とそこが痛み出す。けどスザクはそれが何なのか解らない。
自身を包み込む柔らかい肉が、ずっとずっと奥まで誘い込むように震えるからだ。締まっていく、---------神経も。
「す、ざ、ぁく……っ」
硬く張り詰めた自身が、ルルーシュの中には大きすぎるのか痛そうに紫電が歪んだ。けど、それくらいが丁度いいのか、スザクを
包む内壁は震動を強くしていく。
もう、頭が蕩けそうだ、というとこまで細く激しく、動いて、攻め立てていった。
どんどん限界が近くなっていく。視界が霞んで何も見えない。それでも、シーツに預けていた背を浮かして口付けをルルーシュは
強請ってきたから、腰を支えていた手を起き上がる力に加えて、近くなった口元に本能でスザクは噛みついた。二人とも合わせた場所から
離れない密度で交じり合う。
「ん、んんっあ、あ、あっ……!」
スザクの自身に何度もぶつけられて張り詰めた神経がとうとう限界を訴えた。ルルーシュの身体に爪先から頭まで電流のようなものが
走る。同時に、全部搾り取ろうかというほどに、ルルーシュの内壁にきつく締められたスザクも中で弾けた。
「は……ぁ、ぅ……く……」
全身からどっと力が抜けた身体を、ルルーシュを下敷きにしないようにシーツの上に倒す。汗だくで、頭もまだうまく働かないほど
熱に浮かされていたけれど、すべてを受け止め注がれたほうのルルーシュは、口元から小さな呻きを洩らす程度で
濡れるほどに綺麗だった紫電を閉じスザクの横で意識を手放していた。その様子を隣でぼんやり眺める。
すぐにルルーシュの身を浴室で清め、ついでに手早く自分のぶんも済ました。一度身体を拭き終えたところで、ルルーシュのほうを
先にベッドへと寝かしていたのだが、戻って来たスザクの前には、先ほどまで着ていた自分のジャケットを掴んで眠っている
彼女が居て。よく見たら、下着姿だけでは寒かったのか、シーツの上を暖を求めて彷徨った跡がある。丁度端に脱ぎ捨ててあった
それがルルーシュには良かったらしい。
首にタオルをかけたまま、余韻に浸るようにルルーシュの髪を撫ぜた。すうすうと細く寝息を零す口元は、今はスザクの
ジャケットに隠れてしまっている。それを見つめていたら、ずっと胸ポケットに入れてあった一通の封筒が、そこから少しはみ出して
いるのに気づいた。これはジノに渡されたやつだ。
スザクは腰をルルーシュの頭の傍へと落ち着けて、その封筒をジャケットから取り出す。
裏返して宛名を見たら『Suzaku.』と書かれてあった。記憶にある筆跡ではこれはユーフェミアのものだ。彼女からの手紙であるのだろうか。
無造作に伸ばした指で簡単に裂いた。そこから便箋を取り出して、もう一通押し込まれているのを見る。こっちは菫色で
裏返しても宛名は無かった。とりあえず先に中身のほうを読もう、と三枚つづりのそれを手に取る。
『お久しぶり、スザク』
書き出しはこうであった。
んん……、と、近くにいるスザクの気配にルルーシュがぐずったような声を出す。スザクはそれを気にしてベッドから
立ち上がり、壁際まで歩いていった。一体何が書かれてあるのだろうか。
「…………え」
その、文章。
書かれている内容も、スザクが知りようのないことだった。
突然何かに引っ張られるように振り返る。ベッドで自分のジャケットを抱きながら眠るルルーシュ。あどけない、
スザクをただ生かしてくれる存在。
手元へと視線を戻して、何度もその文字を追う。……しかし、認められなかった。そんな兆候は無かったはずだ。どうして、
どうしてユーフェミアは断言出来るのか。
文末に、同梱した封筒をルルーシュへ渡すことと、
彼女にとっては重く、スザクにとっては何ものにも比べようがない、尊い願いが綴られていた。
『ルルーシュの手を離しちゃダメよ』
スザクはただそれを見て動揺した。そうするしかなかった。
死に際にユーフェミアが書いてくれたものだとはいえ、そこに書き連ねられている真実が、
真相が、……呪わしくて仕方なかった。認めたくなかった。そんな意味が、あったなんて。
手からするりと便箋が落ちる。
気づけば、温もりは身体から消えて、スザクの手は見っともなく、抑えようとしてもガタガタと震えるばかりであった。
(お願い、あの子を一人にしないでね)