アッシュフォード生徒会主催の文化祭は恙無く終 了した。スザクはルルーシュが去った後、ほとんど裏方として
会長企画の”ぶっちゃけ大会”を見守り、特に本人的には何の感慨もないまま、二日間の祭りに幕を下ろした。

やれやれ、といった気持ちで本部のほうへ帰還したら、にやにやと頬が緩みきりどうしようもない顔になっている役員たちに
出迎えられた。どうやら監視カメラで一部始終どころか自分と主君のあれやこれの殆どを見ていたらしい。
がっくりと、その場に肩を落とし、リヴァルに慰められる。いいんだ放っておけ、と壁の隅に走ってけば『話があるの』と
ミレイに外へ出された。
……彼女は後夜祭の閉会式で実に印象深いことを言っていた。人は自由でいいのだ、と。
したいことをやれる時にやるだけの力があるのが人間だ、---------自分たちだ、と語ってくれた。

スザクは共に上がってきた屋上で星空を眺めながらそう回想する。

「ね、追いかけてあげなくていいの」

自由になりたくても、その道を選べずに今まで生きてしまったミレイが、手元に出したヘアピンを見て言う。
それには緩く首を振って、スザクは手摺に半身を凭れさせた。腕で突っ伏すような体勢である。頬や火照った身体を
すっぽり包む夜の風が心地いいと思う。今はきっと立ち去っていった彼女は、真逆の昼の空の下に居るのだろう。
「頑張ってくるらしいですよ、殿下」
あの、一見頼りないように見えるが芯はしっかりしている横顔を思い出す。スザクは常に隣に居た。脳裏に浮かぶルルーシュは
いつもそんな顔をしてる。
「だから、……僕は暫くは自分のことを考えようと思う」
「自分の?」
「ええ。久しぶりに会って、恥かしくて顔もあげられない、っていう風には、なってたくないんです。
あの人に見合う自分で在りたい」
「…………その為には、お互いに距離が必要ってことか」
「そうですね」

でも僕には確信がある。
自分のことを、騎士じゃなくても好いていた、と言ってくれた彼女に対して、少しだけ感じる自信がある。
その自信と感じる部分だけでも、自分にとっては宝だと思えるから……今は離れていても耐えられるのだ。スザクにはスザクの
仕事がある。

今度会う時は自分からルルーシュへ手を差し出そうと思う。
あの人はとってくれるだろうか、……全く検討もつかないが。













「ランスロットも飛べたらいいのに……」

生徒会、学校、軍での訓練、特派での仕事------------それを日々こなしながら、同じだけ忙殺されるセシルとロイドの背中を見つつ
スザクはある日ぽつりと、呟くようにそれを口にした。
セシルもロイドもガウェインを解体しながら、少し息詰まっていたのだ。
自分たちには何が足りないだろうか、と。
「-----------それだ、セシルくん」
「そうですね、ロイドさん」
二人は訓練帰りのスザクの吐いた言葉に『うん』と頷き、早速目の前に無防備に居る彼の身体を、実験用の試作機の
コックピットへ縛り付けた。
自分は、黒の騎士団との攻防で、ガウェインが海の上を渡っていたのを見ていて、デヴァイサーとしてほんの少しだけ騎ってみたいなあ、
と思っただけだったのだが……まさか自分のそんな気持ちから出た言葉で、彼らのKMF改良方針が変わるなんて思いもしなかった。
だから慌てる。二三日まともな休みもとっていなかったから余計力を込めて暴れる。
が、エンジンのかかったらしい主任と助手を止める力にはならなかった。……解放されたのは翌朝の七時である。
この人でなし、何て奴らだ、と何度目かの悪態を心中で呟きながら、特派のブースを出、自室へと疲労した身を投げ込んだ。

部屋の半分を埋めるベッドに体を伏せる。柔らかいシーツはいつしか包んでくれたルルーシュの体温を思い起こさせた。
少しだけ、----------まだ完全に思いが切り離せてない証拠なのか、『会いたい』と思ってしまった自分の心に舌を打つ。
スザクは切り替えるように訪れた眠気にまかせ、その瞳を閉じた。

彼女は今何をしているだろうか。
どんなことを考えているだろうか。
ユーフェミアのことが落ち着いたら、ほんの少しでいいから自分のことを思い出してほしい、と願い
スザクは意識を手放した。

そして、起きたのはその日の深夜、セシルからの突然の内線でである。






















慣れた動作で特派の制服に腕を突っ込み、そこに決まりとなっている腕章を嵌める。
すぐに叩き起こしたセシルに指示された通り政庁本部の総督執務室に駆けつければ、
まずはノックし扉を開けたところで花を活けていたいた花瓶が投げつけられた。それを獣の本能で避ける。
虚しく壁に当たったそれは破片を撒き散らし、スザクのほうへは中身の水が降りかかった。
一体どういう事だ、と思ってゆっくりと執務机に目をやれば、両腕をつけ、顔を伏せるコーネリアが居て。
眉を寄せて先に入室していたロイドを見れば、彼は不眠明けの隈の出来た顔を同じくスザクへ向け、一言簡潔に告げた。

「ユーフェミアさまが亡くなられた、と」







間違え、た。

























ルルーシュが副総督であったコーネリアにエリア11を託して二日あまりが経過した日、
現在は総督であるコーネリアの元に、総督直通のロイヤル回線が繋げられた。不審に思い、警戒するギルフォードを手で制し
すぐに執務室の内線へ繋げるように通信兵へ命令する。すぐに切り替わった回線には、一時は同じ作戦を共にした
シュナイゼルの腹心の名前、副官であるカノンの表示が現れた。
それを執務机からそう距離のないモニターへと切り替える。すぐにカノンの半身が映し出された。
「お久しぶりですコーネリア殿下」
「どうした、こんな夜更けに」
「時差の関係もありまして、こちらは今は夕暮れの時刻であります。……無礼をお許しください。緊急の用事でありましたので」
「そちらへ向わせたルルーシュに何かあったのか。それか……」
異母妹のせいで実妹、ユーフェミアが重い罰を受けている、と本人から聞かされていた。嫌な予感を感じたが
持って回した展開は好まない、と紫電を鋭くする。
瑠璃色にほど近い視線を穏やかなものから厳しいものへ変えた副官は、口早にその用件を告げた。
「本日夕方、ユーフェミアさまが亡くなられました」
「…………」
「ルルーシュさまがお帰りになってからお二人で過ごしていたそうですが……、何分、殿下より使用人が世話をすることも
拒まれてしまっていたので。真偽のほどは解りかねます」
「どういうことだ」
異母兄上によって閉じ込められていたのではないのか?コーネリアの止まりかけた鼓動が痛いほどに脈打つ。
「ええ、……申し上げにくいのですが」
哀しげに、カノンの双眸がきつく細められた。

「ユーフェミアさまのご遺体を見つけられたのが、ルルーシュさまなのです」

ルルーシュの部屋で過ごし、そのルルーシュが妹の亡骸を一番に見つけた。
二人だけで過ごしていたという空間。誰も介入出来なかった世界。
(つまりは……)


---------------------そんなこと。
























花瓶を投げつけられたスザクは、ロイドよりその言葉を受けて何も言うことが出来なかった。
コーネリアは動揺している。ただユーフェミアが死んだ、という報告だけ受けたのだ。スザクも信じられない。
ルルーシュは彼女を助けに行ったのではなかったのか?
それがどうして死亡報告だけされてくるのだ。しかもそれが真っ先にコーネリアの耳に入るなんて。
……そんな知らせを受けたほうのコーネリアはどんな気持ちなのだろう。スザクは自分へおもむろに花瓶を投げつけたその心理を
責めることはしない。出来ない。……そう考えてしまうのは真っ当だからだ。

(でも、……そんな)

殿下が第一に発見したからといって、ユーフェミアを殺害した人間だとは言えないだろう。-----------しかし。
ロイドと再び顔を見交わす。ふるふる、と小さく首を振った。

ルルーシュは一度肉親である弟を突き落としている。

しかし、あれは衝動的なものだ。今回のユーフェミアには決して結びつかない。
だって、自分の身代わりとなった彼女を助ける為に、ルルーシュはブリタニアへ向ったのだ。
筋が通らなくなる。
「殿下とは話は出来ないんですか」
「……何か、すぐにあちらが切っちゃったみたいなんだよ。コーネリアさまは通信をただ受けただけ」
「では殿下が第一発見者だ、と、それしかあちらは言ってこなかったんですか?」
「そのようだね」
しかし、その情報という発言だけでも、充分コーネリアには威力がある。
コーネリアは俯いたままぴくりともしない。床下一点だけ見つめているのみである。花瓶を投げることで精神が疲弊して
しまったのかもしれない。


執務室から出て、ロイドと特派へと戻る為地下へ降りた。その道の中では互いに口を開くことなく無言だった。
ユーフェミアの死亡は、その死因も、状況も、何もかも省略されて伝えられた。それを不審に思うのは当然だろう。
ロイドもそうなのか、……元より、自分たちの主君であるあの少女が異母妹へそんなことをするとは思っていないのか
普段の様子とは一変した無表情で、考えこんでいる。スザクのほうはというと、まだ少し頭が混乱していた。
状況もそうだが、あちらに行ったルルーシュの環境が、掴めていないのである。辛くはないのだろうか。
というか、彼女自身は無事であるのだろうか。
色々な心配事が頭をぐるぐると交錯する。
「……枢木少佐」
ぴく、と、埋没しだす意識がその呼びかけに浮上した。
気づけばもう特派に居る。青ざめた顔をしてセシルが操作卓についていた。
「君は殿下を信じるか」
「…………」
「騎士から除籍されて、……もう情はないか」
「まさか」
「じゃあこれからどうする」
その問い掛けに、照明の乏しいブースの中ででも沈まないよう光らせた翡翠を、メタリックを思わせる銀瞳へ合わせた。

「ロイドさんと同じ考えです」
「……臨むところだ」











(殿下)
(殿下)

……名前を呼べないのが、こんなにも歯痒い。

















心臓が、まだうるさく高鳴っている。
ばくばく、と表記してしまえばそれまでの音であるが、今のコーネリアにとって正にこの心音は自分の動揺ぶりを現すものであり
普段冷静に振舞うさまを見せ付けてしまっている分……あまりある苦痛だった。ギルフォードの哀れむような労わるような視線さえ
恐怖を感じる。
破壊された花瓶の欠片が、足元に散らばっているのを見下ろす。本当はわかっている。枢木スザクに怒りや焦燥をぶつけたとしても
妹の存在が還ってくるものではない。
けれど、
はじめて、----------肉親にも恨みを覚えた。
枢木のヴィジョンとルルーシュの面影が、いやなほど重なってしまった。執務室へ駆けつけてきた時にコーネリアの視界へ現れた
奴の姿は、枢木ではなくルルーシュとして見えていた。


今日、執務机に活けていた花は、何だったか。
ただ一言……今の心境においても、コーネリアが言えることは、胸にぽっかりと空いた存在。癒すように微笑んでくれていた
ユーフェミアの姿。
それをどうしようもなく、叶うことはなくても欲する気持ちだった。
妹を助けるのならば自分が行けばよかった。どんな状態になっていても救い出す自信がある。
憎らしい。ああ、憎らしい。
(何故ユフィは死んであいつは生きているんだ)

手を前へと差し出す。掌を返し、天に向けて照明を仰いだ。

やはり眼窩に浮かんでくるのは、昨日までその身をユーフェミアと同じく案じていたもう一人の妹の姿。
しかしその手を握りつぶす。
コーネリアの落ち着いてきた胸の底には、昏いシミが広がっていった。

(間違えたよ、ルルーシュ……。私がブリタニアへ帰っていればよかった)

そうしたら、お前を殺すことなんて考えやしなかったのに。






















「最近、私泣いてしまいそうになる」

セシルがランスロットの背へ寄りかかり、ぽつりと足元にいるロイドへ呟いた。
「何が」
「……どうしてか、辛くて」
「あんまりしんどそうには見えないけど」
「しんどいですよ。しんどいんですってば。だって私たちはプログラムを打ち込んで、メンテナンスの調整をすればいいだけじゃ
ないですか」
「それが役割だもの」
「そうだけど、……彼の頑張りようを見てると、それでいいものか疑問に思います」
セシルとロイドはランスロットの外に居て、ずっとある装置の装着と、ガウェインより拝借してきた電磁シールドの相性を
計っていた。
サポート役である自分たちが出来ることと言えばこんなことくらいである。
スザクにはもっと重いものを背負わせている。
……本当は開発したロイドのほうも、もう少し成長してから、と考えていたものであったから。
「それは仕方ない」
「仕方ないって……」
ロイドはセシルへは背を向けて、ランスロットを足元から見上げた。天井のきつい照明に金と白の装甲が反射されてまぶしい。
嬉々としてこの機体の名前を考える時、ルルーシュは称賛したものだ。『この子が居るだけで嬉しい』と。
『ランスは、ガウェインの息子のようなものだ……』
『息子ー?また、変な見方をしますね、貴方』
『だってそう思うんだもの。格好いいよ、俺のランスは。どんな奴が騎るんだろうね』
そう、昔語っていた。当然デヴァイサーは彼女の騎士、スザクとなった。自分の誇る機体を差し出す彼女の心境はどんな
ものだったのだろうか。
それをきっと知らないだろうに、スザクは、ロイドが課した目標を達成しようと、一人シミュレーションルームへ入っていった。
そこでホストコンピューターから指導を受けているわけだが、きっとあと数時間もしないうちに出てくるだろう。
何せ彼の基礎体力は元から人外だ。
殿下の為とあらばすぐに達成してロイドの前に出てくるだろう。

自分は、結局、サクラダイトを物質としか見ていなかった。
それを人間に対する毒として利用しているなんて、予想した時は実に馬鹿げたもんだ、と笑ったものだ。しかし現に
ユーフェミアはそれで殺されたのだろう。……異母兄に。

(----------閣下)

貴方は自分を鬼と認め、逆に人として純粋に見てくれるルルーシュに居場所を求めたのかもしれないが
そろそろそれも虚しいということに気づいてくれないだろうか。

まあ、自分も彼と同類だ。
……彼女の隣に居ることに、居心地の良さを感じていたから。



















文章、もとい文字を書くことは慣れない。あまり字が綺麗なほうではない所為かもしれないが
どうしても空欄のある用紙を前にすると、ぎゅう、と押し潰されるような圧力を感じる。しかしスザクは早々にそれを
休憩の合間に書き上げて、おもむろに立ち上がり、政庁からそっと抜け出しある場所へ向った。

「どうしたのよ、あんた」
「…………すいません」
ポロシャツにパーカーという姿で、アッシュフォード学園に隣接するクラブハウスの門を叩いた。
就寝する前だったのだろう、ナイトローブ姿のミレイがやって来たスザクを驚いたように見つめ
その手にされたものを怪訝な顔で受け取った。休学届だ。
封筒には『退学』と書こうとしたのか、半端な字が出来上がってその上に×がされている。
「スザク、これ」
「一瞬悩んじゃったんですけど、学生は続けようと思います」
「……どういうことよ」
「その……」
言いよどむスザクを、きつく睨む。しかしとうの本人はシビアに考えていないのか
結構暢気な顔をしていた。
「僕が学校に通うことを、殿下は望んでいたので」
それと自分がそこへ一緒に行くことを。この間の文化祭は僅かであったけれども
心から楽しんでいるようだった。ラウンズの二人と学食へ行った時もである。
「スザク……」
「折角生徒会に復帰したのに、すみません。でも多分今しか出来ないことだと思うから」
「会いに行くのね。……この間カッコつけて言ってたことと全然違うじゃない」
「ええ」
「もう決めたんだ」
「-----------決まりました」

にこ、とはにかむように笑って、スザクはミレイへ礼をしようとした。
しかし首を振って制す。きょとん、と翡翠が瞬いた。

「ナナリーのこと」
「…………」
「この間、本国のほうの騎士さまと貴方たちが学食に来た時、あの子の話したでしょ。ごめんなさい……私実は知ってたのよ」
クラブハウスに住まわせている時点で、ミレイ自身、素知らぬフリも出来なかった。
「居なくなってから気づくのよねいつも。どうしてもっと前に、騎士団が現れる前に殿下に言えなかったのか、って」
「ミレイさん」
「結局、仮面同士の付き合いしかさせてあげられなかったのよ」
どうして突然、そんなことを告げてくるのか解らなかった。スザクはじ、とミレイの視線を受け止めて、また笑顔に戻す。
過ぎたことを悔やむほど、ミレイは悪いことをしていない。
「僕も殿下とナナリーには、ミレイさん以上に申し訳ないことをしました」
騎士団との攻防の折、ルルーシュと引き換えにナナリーの両足を撃ちぬいた。そして海へ落とした。もしかしたらあの時二人は
二人同士で、向かい合いたかっただけかもしれないのに。
「僕は邪魔をしました」
きっとルルーシュもナナリーも、互いに沈みたいと思ったのかもしれない、あの海に。
スザクは最後にルルーシュと港に立って手を繋いだが、それはルルーシュがナナリーの後を追ってしまうような気がして
離したくなかっただけなのかもしれない。遠く視線を飛ばすその横顔に怯えたのかもしれない。
充分スザクもエゴを持っている。
ミレイと変わらない。
「だからそれはあまり悔やまないで、ミレイさん」
「……スザク」
「最近ああしていたら、こうしていたら、と気づくことが多くて、間違えたと後悔することもあります。でも
間違えたら間違えた時に頑張れたらいいかな、と楽天的になるようになれました」
「そう」
「はい」
何ででしょうね、と言う。ミレイはその顔にもしかしたらこいつ帰って来ないんじゃないか、と
そんな錯覚に突然襲われた。いつもスザクは危なげな印象があるから余計-----------。

去って行こうとするパーカーへ声をとばす。

「スザク!退学じゃない、休学よ」

一度それに足を止めて、振り返った。男の身体は闇に溶けかかった場所で立ち止まる。けど、ミレイの言葉には返事はしないで
そのままその夜の中に消えていってしまった。














(……もし、)
殿下が何かに躓いて、自分には届かない所で後悔していたら、------------どんな場所にだっていい
飛んで行く。



















特派にスザクが戻ってきたのが深夜二時。息を少し上げて、再びシミュレーションを受けようとロイドのもとへ
足を向けたら、彼とその助手は一台のテレビを点けそこに目を向けていた。その後ろから翡翠を注ぐ。

地下に居る三人と同様に、コーネリアもギルフォードと共に衛星チャンネルを見ていた。早々に催されたユーフェミアの
告別式が始まってるらしい。

(まるで密葬だ……)

それを眺めていた人間すべてが、そう思ったであろう。
国民も参列しているが式自体は至って質素。親族もまばら。何よりコーネリアの帰国も待たず行っている辺りでおかしい。
その身体を隠すように、便宜的な形だけとって、やっているようなものだった。
本国で皇帝が国民の前に立つ専用に設えられている、王宮の大広間に敷かれた長い絨毯を
ユーフェミアを納めた棺が運ばれている。
参列席が映され、そこから一人一人、棺が置かれた正面通路の最奥ブリタニア国旗が掲げられた場所まで歩いていく。
その国旗の下で永久の眠りについた彼女のもとを、シュナイゼルがやって来たのも映っていた。副官のカノンがすべてを
取り仕切っているのか、彼は画面の端にしか居ない。
騎士であるダールトンも、王宮に待機していたラウンズのメンバーも居た。ルルーシュは一体何処にいる。
スザクも、ロイドも、セシルもコーネリアも目で追っていた。豪奢な空間における質素で便宜的な式。喪に服すその姿は
どんなものなのか。
ふと、シュナイゼルが袖の辺りまで移動し、その幕に隠れるように立っていた小柄な人物の腕をとり、画面中央へ引き連れてきた。
ブリタニアの冠婚葬祭の服装は、特にこうあるべきだという決まりはない。親族たちもラウンズも、普段が正装であるような
ものだからまるで変わらない格好をしている。
しかしそのシュナイゼルが支え、ユーフェミアの棺まで導いてきた少女だけは格好が違っていた。

スザクはあんなルルーシュの姿を見たことがない。

毎日顔を合わせていたのがプツリと会わなくなったのだ。特に向こうが変わっていなくても印象は変わって見える。
しかし、それとは別に大きく違うところがあった。ルルーシュはこの政庁に住む人間が知るかぎり、ドレスなんて着ない。
それも妹を見送る場でなんて……有り得ない。どんな拷問だ。
ホワイトというよりアイボリーのように褪せた白色の布地に、痩せた身体をすっぽりと包まれてるような
頼りないシルエットが、正装のシュナイゼルの肩に凭れるように居る。
瞳は開いているが見えていないようで、胸と腕を交差するように施されたドレスの装飾が邪魔なのか、もしくは無気力であるからか
まるで自分から動作をしない。
静かにシュナイゼルに支えられ、もう自分からは瞼を開かないユーフェミアの棺へ花を一輪捧げさせられていた。


スザクもロイドも当たり前のように過ごしている世界。
しかし今のルルーシュはその枠からはみ出して、無理に起立させられているようだった。

目の前で見た光景が痛すぎるのか、セシルが肩を震わせて椅子の上に蹲った。ロイドも、無言のまま見つめて動かない。


逸らさずにその様子を眺めたまま、
スザクの視線は画面の中で息をするシュナイゼルと一瞬交わった。