手に入るかと思って、境界の張られた領域へ足を 踏み入れたが……実際には手に余るほどの大きさをもったその存在に、
自分の本心は意外なほどに戸惑ってしまい、結局は通じてしまっても充足感は得られなかった。

逃げようと背を向ける彼女の背中は薄く、上質の絹布のようだった。
けれどシュナイゼルが求めたものはそんな儚いものではない。
矮小な自分の存在を矮小な存在そのままに認め、そんな自分が身を任せられるほどの大きな手をもった
広く広い存在を欲していた。


『貴方はどうしようもない人だね』


マリアンヌがKMFの実験のせいで身体を壊し、心身共に衰弱していく姿を眺めていた時、
……昔の話だ。シュナイゼルはロイドに囁かれるような近さでそう言われた。

確か自分は床に伏せる主君マリアンヌよりも、その彼女に恐れを感じ、例え今生の別れの時になっても寄り付こうともしなかった
娘のルルーシュへ関心を向けていたと思う。

(きっと私は”私そのもの”を認めてくれたあの時の彼女の言葉を、何度だって思い出すだろう)

剣を振りかざすしか自己を主張出来なかったシュナイゼルに
初めて-----------対人として、声を掛けたのがルルーシュだったのだ。








”……恐れないでください”




















ふたり













ルルーシュとユーフェミアは同じベッドの中で、別れていた間のことの殆どを語り明かした。
大体がルルーシュから一方的に話す言葉であったが、ユーフェミアは眠さや疲労、別種の倦怠感にも負けず
淡々と紡ぎ出されるその一言一言に呆れずに相槌を打っていた。
そして朝。
メイドたちが用意しようとする食事を自主的に部屋へと持って来て、ルルーシュはユーフェミアに『外で摂ろう』と
窓際のテラスへと誘い出した。身支度をちゃんとしてお互いに向かい合うように座り、穏やかな日差しのもとパンとスープを
身体へ流し込む。
「…………っ」
たまに、下腹部を辛そうに抑えるルルーシュにユーフェミアは瞳を曇らせたが、それは彼女の尊厳自体を脅かすような質問だったから
わざわざ言葉にしては訊けずにいた。必要もないとも思った。自分だって迫り来る何かを、ルルーシュへは言えない。
最後のパンの一切れまで綺麗に咀嚼し、二人手を合わせて礼をした。同じ色の紫電を木陰の下で見つめながら
ささやかなお願いを言う。
「ね、ルルーシュ」
「ん?」
「私手紙を書きたいと思うの」
「え……」
「だから数時間、この部屋に一人にしてくれない?」
誰に宛てるの、と不安げな顔してルルーシュが訊いてきた。内緒、と追求してこようとする視線を軽く流し、ユーフェミアは食後の
紅茶を用意しようと、ポットに手を伸ばす。空いた食器はトレイにすべて乗せてルルーシュへと返してくるように任せた。
「ユフィ」
甘えるように『ここに居たい』と向けてくる眼差しを、見て、困った気分になる。
けれどユーフェミアはそれを変わらずの笑顔で返した。自分だってずっと居たい。
その為に必要だから手紙を書くのだ。
「大丈夫。私は何処へも行かないわ。ルルーシュ」
「…………」
「はやく食器を返してこないと、調理の人が困るわよ」
自分は妹であるはずなのだが、自分たち二人の場合に限り、たまに姉妹関係は逆転する。
一人になることを希望するユーフェミアにひどく疑念を感じているようだったが、そうまで言われ、尚且つ笑顔を向けられて
しまえば、ルルーシュからはこれ以上何も言えないし抵抗のしようがない。

「解った。少し席を外すよ」

ルルーシュは両手にトレイを持って、部屋から出て行った。それに小さく手を振った後、彼女の机の引き出しから紙とペンと、
先に入れられていたらしい菫色の封筒を取り出して、再びテラスの白いテーブルへと腰を落ち着けた。

誰宛に綴る言葉なのかは、夜中のうちに考えた。それにルルーシュのことを想うのなら、
一人しか浮かんでこない。

そしてその差し出される一人は、きっと同梱するもう一つの封筒も受け取ってくれることだろう。



















ブリタニアの皇族の殆どが住まう王宮、その皇居の中には個々に割り当てられた離宮とは別に
皇族同士が交流を共にするサロンがあり、そこへ繋がる通路には、直射日光が入りにくい場所柄であるからか
様々な人間が蒐集してきた珍品、絵画、彫刻などがずらりと展示されていた。

『例えばこんな御伽噺』

いつしかナナリーが賛同し、ルルーシュが否定した、人の業を比喩した童話の原書も、そこには納められていた。
どうやらその本自体は出版されたものではなく、活版印刷がまだ発明されなかった頃に著者自身が書き連ねた物語であるらしいのだ。
ルルーシュは幼い頃、その原書を手にし、自分へと無垢に母が語り聞かしてくれていたそれを思い出しながら
日の差さないその通路を通っていた。
皇帝と、クロヴィス、ユーフェミアとナナリーの肖像画なども展示されている。
皇族の中でコーネリアとルルーシュだけが、写真や肖像にされるのを固く拒んだ。
まあ、自分たち程度の位をもつ人間であれば、少々の我儘くらい後宮の人間はきいてくれる。肖像関係で色々問題があったのは
若くしてマリアンヌの参謀となったシュナイゼルであった。
彼は外見的にもそうだが、人気もあり……そして功績などから民衆より英雄視もされていた。
父も、公衆の場で第一皇子の兄よりシュナイゼルへ、ブリタニアの国旗と歴代の皇帝の名が記された長剣を差し出したから、
既に確定事項として次期皇帝の椅子を用意していることを周りへ知らしめていたのだろう。
しかしその彼は、肖像画に描かれることを拒みはしなかったが、一枚しか画家に自分を描くことを許さなかった。
当時の肖像画家は一人のモデルにつき何枚も描くことを当たり前とされていたから、この注文には強いプレッシャーを感じ
他の作品の何倍も時間をかけることを余儀なくされただろう。
ルルーシュはそうして出来上がった---------シュナイゼルが宰相の任に就く記念として描かれた肖像画を前にし、
そっと溜め息をついた。
直射日光が入らないということは、展示する場にとって最高だということを現している。
けれど、柔らかい白金の髪も、紺色に金の装飾を施された服も、兄の肖像画だけは画家の努力も虚しく……何の輝きも感じられなかった。
「ルルーシュ」
朝はいつも後宮に潜っている筈なのに、カノンも連れずシュナイゼルが突然現れる。
昨日以来の鉢合わせに、ルルーシュは顔には出さなかったが内心では酷く動揺した。人気もないことから部屋着のままだし
何よりまだ心身共に与えられたダメージから、少しも復活してない。
「……加減はどうだ」
具合を尋ねてくるその顔からは目を背け、兄の肖像画に近づいていた足を後退させた。
俯いて、
「構わないでくれとあの腹心に伝えました」
そう返すことしか、出来ずにいる。
兄の態度が優し過ぎるからだ。あの凶暴さは何処へ行ったというのだろう。
「絵を見ていたのか?」
「……」
「---------昔のことを」
暗い回廊を渡ってやって来るシュナイゼルの面差しは、普段通りのものだった。そっと瞳をあげて見つめる前には
ルルーシュ同様、軽装といった格好で肩口にはストールを巻いている。
画家が肖像画に現したかったことは何だったのだろうか。兄と同じようにまた絵を見つめ出し、ルルーシュは物思いに沈んだ。
「兄君は……」
「何だい」
「……その、……」
見つめてくる視線の真意。昨日された行為の意味。そもそもどうして自分の存在に拘るのか。
二人きりとなって話す今でなら、簡単に訊けた。でもその質問に質問をするほうのルルーシュが戸惑っていた。
(知ってどうする……?)
シュナイゼルの本心を知って、どうなるというのだ。知らないままでいいことなら、ずっとそのままでいることが必要なのだろう。
そう思うのはきっとルルーシュがシュナイゼルを恐れているからだ。-----------まだ、
まだ肌の温度を知らない昨日までの自分なら、兄の手を拒めたのに。今はもう出来ずにいる。
肩と肩。いつの間にか隣りあうように絵画を見つめるシュナイゼルとの距離。ルルーシュはどうしようもなく自分の心に
焦っている。
(知らないということは、楽になるということだ。でも多分それは、楽なようでいて苦悩しながら前にも進めないということを
意味している……)
ルルーシュは眉を寄せて、知らず伸ばした親指の爪を、きつく噛んだ。兄は黙って自分の映った額ぶちを見ている。その横で、
どうようもない距離に苦悶する。近づきたい、知りたい、でもその先が恐い。後戻り出来なさそうで恐い。自分は彼から
逃げたいのか?一体どうするというのだ。この状況から……。
再び、頭を伏せて考え込んだ。でもその気持ちを空気から知ったのか、紫暗の眼差しがルルーシュへ落ちてくる。不意に顔をあげたら
シュナイゼルと目が合った。
「あ……」
「お前は、いつも懸命だね」
「……けん、めい?」
「私がマリアンヌ皇妃のもとについていた時、苦悩している私にもそうだったよ」
「苦悩なんて、されてたんですか」
「苦悩じゃなかったら、あれはどうして言ってくれたんだ」
「……?」
「覚えて、……ないか」
輝かない、沈んだ肖像画を前に向かい合って、シュナイゼルの胸ほどの位置から首を傾げてみせた。ルルーシュには覚えのないことだ。
でも、滅多に声にして笑わない兄の口元が、くすりと僅かに緩んでみえた。その姿に目を見張る。
次いで、伸ばされた白い手袋に無意識のうちに噛んでしまっていた指をとられた。
「っ……!」
触れたその部位に、反射で悲鳴をあげそうになる。
「あれほど衝撃的な言葉はなかった」
でもそんな怯えにも退かない微笑が、正面から向けられていたから、触れるのも嫌だったはずなのに振り払えなかった。
そのまま彼は、ルルーシュが歯で噛んでいた部分を一度だけそっと擦り、やわらかく両手で包んだ後、静かに離して。
硬直したルルーシュから二歩三歩離れ、肩に巻いたストールをふわりと翻して去っていこうとした。
「待ってください……」
その足を止めるように、口を開く。気まぐれのように触れられた手元が、狂うように熱くなった。
その優しさに惑わされたくなくて、精一杯震える心を叱咤し、声を張り上げた。
「---------------俺がどんなことをその時兄君に出来たのか、解らないけど」
「……」
「俺は、もう……兄君のルルーシュじゃ居られません」
踏みにじられるように身体や心を開かれても、ルルーシュが求めるようになったのは、自分の騎士であるあの男だけだ。
彼に再び会う為なら、自分の未来の為ならどんなことにも耐えられる。
その苦しみだけならきっと甘受出来るだろう。だっていつだってルルーシュは自分が傷つくことより他人が自分に向けられた火の粉に
かかって傷つくほうが恐かった。今もそうだ。

「そんなに奴がいいのか」

兄の背中が、薄暗い回廊に沈みこんでいくのを見る。
こくり、と、その背中に対してルルーシュは頷くだけ。後は彼と同じように背を向けて廊下を走り去っていった。














(……自分、を)
彼女は、初めて優しく触れて扱ってくれた、人間だったのだ。


走り去っていくルルーシュの足音を聞きながら、シュナイゼルは真っ直ぐに足を運ばせて向う場所があった。
人通りのない奥の通路を使い、先ほどのサロンよりもっと日の差さない場所まで来る。大理石の床からいつの間にか地面が
板じきのものへ変わった頃、その先に細かい彫刻の施された門が現れた。
そこはスザクを三年閉じ込めていた場所である。

自分が一番恐れたのは、彼と異母妹が出会うことだった。
気まぐれに彼を外へ出した時、自分が殺せと言って分解させた犬の亡骸を抱いて涙する彼女を、スザクは見ていたのだ。
----------自分が泥や血にまみれることも厭わずに、無感動にロイドが見下ろす下で、その空っぽとなった肉の塊を抱いて
誰を責めることもなくただ泣いていたルルーシュの姿を。

まずシュナイゼルは、彼に精通が来る前に薬を与えた。
そして二次性徴が始まり、その著しい変化のような成長が収まり出した頃……まるで思い出したかのように
いつだったか自分から言い出した『約束事』を彼へ口にした。
彼はその時に言われたことも、シュナイゼルからそれを切り出したことも忘れず覚えていたのだろう、
改めてそんな風に告げられる一言一言に今更だな、とでも思ったのか、『そんなことが条件なのか』というような瞳をして
石と土と鉄柵で構成された牢から導き出すシュナイゼルの手を、迷いなくとった。

あの時見せた顔と、騎士となることをルルーシュとも誓ったと告げた澄んだ声を、この門の前に立つと
いつも思い出す。
その度にルルーシュを連れ出して自分と二人きりにさせたいという衝動に、シュナイゼルは襲われるのだ。
自分は多分彼が恐かったのだ。
だって解っていたから------------彼、スザクが、ルルーシュに迎え入れられきっと愛されるだろうということを。

奪う側はシュナイゼルであるのに、奪われる側にいたスザクから、気づけば何もかも手にされている。

剣を振りかざしマリアンヌさえも恐れさせた自分には、手に入らないものも手に出来ないものも何も無いと思っていた。
でも違った。ルルーシュが居た。彼女は自分の檻の中にスザクを入れたのだ。シュナイゼルでさえ自分の中に
他人を入れることをしなかったのに。
その彼女を、今はとても遠くに感じる。無理やりに身体を開いてもこうなのだから、もうこれ以上は縮まらないのだろう。

(そう言えば)

何故自分は、日本へ行った時、スザクを殺しておかなかったのか。
それが思い出せなかった。
シュナイゼルは湿度の高い門の横に立ち、その場に腰を落とす。膝を抱えるようにして、昔を振り返ってみて。
けれどあの時の燃えさかる業火が激しすぎてすべてがただれて見えてしまう。今はもう、どうして愛用していた長剣を
彼へ渡したのかも忘れてしまっていた。























何度、もう吐血したのか、……定かではない。
ルルーシュの部屋だから家主の趣味が反映されて、質素な柄の便箋しかなかった。白にモノトーンで罫線が引かれているだけのものであるから
口端から知らず垂れていた血が、顎を伝って模様になってしまったら読み手の気分は最悪となってしまうだろう。
ユーフェミアは、何処まで背伸びをしても、全力で走りきろうとも、手の届かない距離にまでルルーシュが行ってしまったと気づいた
シュナイゼルをおよそ三ヶ月間、じっと眺めていた。
彼の怒りは量りきれない。
……彼こそは鬼。自分の空白を埋めるように身を粉にして国に仕えてきたつもりだろうが、ユーフェミアはエゴしか感じられなかった。
その兄を蔑視しつつも、唯一兄を人として見ていたルルーシュを引き離してしまったことは、避けようもなく自分の罪であると
自覚していたから。シュナイゼルの腹心より常習性の物質を混ぜた食事を摂らされた時は、もう自分は永くこの場には居られないと
思うと同時に、受ける罰は受けよう、とその身を贖罪に捧げた。

シュナイゼルもロイドでさえも、誘惑され没頭してしまう兵器KMF。
------------私はそれを呪わしいと思う。だって私はそれにより、この世を後にしてしまうのだから。

けれど何の意味もないまま、何もしないまま生を終えようとしていた時、もう会えないと思っていたルルーシュが飛ぶように帰ってきて
くれたから……もう少しは頑張ろう、と力の入らない身体に鞭を打ち、こうして手紙に向っている。

私のこの症状に効く薬は無い。元より、皇居務めの人間であるから、きっと城で死ぬだろうなとは思っていた。
それでも何という僥倖か、その直前までルルーシュと居られる。ルルーシュには自分の望みも言った。彼女には彼女のしたいことも
叶えて欲しいこともあるかもしれなかったが、今は時間がない分自分のお願いをきいて欲しい、とユーフェミアは願う。

腹が痛い。目の前が霞む。咽喉なんてもう喋れないような気がする。悔しいな、目の前には自分を連れ出してくれた
ラウンズのジノという人間が居るというのに、……礼も言えない。
その彼が便箋に向う自分へ声を掛けてきた。ルルーシュの部屋にはドアからではなく庭のテラスから入ってきたらしいから、
意外と大胆なところもあるのかもしれない。口がまだ使えたら真っ先に感謝を言いたかった。でも、制止しようと伸びてきた腕には
厳しい目線を向ける。これはユーフェミアの最後の務めだ。邪魔はしないでほしい。

文章が最後のほうに差し掛かった。いつの間にかジノは消えていて、再び静かな時間が帰ってくる。
便箋はもっと長くなるだろうと思っていたのだが、結局三枚ほどで納まってしまった。まあ、差出人のほうもそう気の長い人間では
ないから、この位が丁度いいのだろう。

便箋に綴った文章は、この手紙が開かれるまでは誰も知らなくていいことがつらつらとただ書かれてるだけだ。
特別第三者が読んで楽しいものでもない。……でも、
ルルーシュを任せていくのだから、それ相応の言葉くらいは並べて、安心して自分はいきたかった。
あと一つ。ユーフェミアが見つけた菫色の誰かを思わせる封筒も、彼宛へ捧げようと思う。
あまり器用ではない彼にすべて押し付けてしまうことになるのだが……まあルルーシュをあげるのだから、
その辺りは我慢してもらおうと思う。こんな風に思いながらくすりと笑う笑顔が、そのまま伝わってくれるかは知らないが。


(大好きよ)


ルルーシュ。
孤独なルルーシュ、そのくせ寂しがりやで、頭は回るのに使いようが悪い……不器用で可愛いユーフェミアの姉。
もう一人誰よりも大切でこの世に一人しか居ない実姉が居るのだが、彼女には何も託さず、何ものこさないことにする。
きっとコーネリアならユーフェミアのしたことを褒めてくれるだろう。


名前が奪われてしまって、もう姉妹ではないと言われてしまっても仕方ないのかもしれないが、
私はいつだって妹のようなルルーシュを姉のように慕っている。

ルルーシュに直接渡せるものではないけれど、貴方がこれから生きていく為に必要なことだから
何もないなんて薄情じゃないか、とか、この行動に対して何も言わないでほしい。

ああでも一言、直接謝ることが出来るなら、『嘘ついてごめんなさい』と伝えたい。
生きよう、と言ってくれたのにごめんねルルーシュ。




『お前のことが大好きだよ』

私もよ、……有難う。愛してくれて有難う。











(この手紙がどうか届きますように)







































ルルーシュの部屋で過ごすようになるからには、ちゃんとユーフェミアも快適に生活出来るように彼女の私物も用意しておかなくては
いけない。
帰りの途中でそんな考えに至って、慌てて道をUターンし、使われなくなったユーフェミアの部屋へ漁りに入った。
非常に女としてはどうしようもないことだが、自分の使う下着だと彼女のものに合わない。
それはルルーシュのほうの発育に問題があるからなのだが……妥協してもらうにもサイズや何やらに差がありすぎる為
ユーフェミアには代わりのものといって自分のものを貸したりは絶対に出来ない。
溜め息をつきつつ、異母妹の部屋から必要なものを全部集めて、それを両手に抱え通路を行く。
今日は夜どんな話をしようかなあ、と思い馳せながら自分の部屋で待っていてくれるだろうユーフェミアのもとへ急いだ。












「…………」
部屋を開けて、荷物をベッドへと下ろし、まず目にしたのは床に点々と落ちた血痕だった。
震えだす足をどうにか前へと進ませ、外の庭に面したテラスへ行こうとする。けれど膝から力が抜けてしまいそうな状態になり
床の血痕を頼りに歩こうとしても、暫くは身動きも出来なかった。
首だけ巡らして、その点々はどこへ行っているのかに気づく。机だ。あまり使用しなかった自室の机に結びついている。
そこの引き出しが少し開いていて、便箋が幾枚か椅子のほうへ落ちていた。何度か往復した跡が見られる。けどそこから
どうしてこんな事態になってるかを考察するほど、頭は回ってくれなかった。

白い丸テーブルに、重く伏せられた桃色の髪が見える。その頭より少し離れたところに厚みのある封筒が置かれていた。
それを先に手にとるか、もっと彼女まで踏み込むか。……考えるよりも早く、身体はその場に崩れ落ちていた。
事態を呑み込みきれなくて。

散りばめられた吐血の赤。熟睡しているように閉じられた瞼、白い顔。溢れきって足元へと落ちている、鮮血。
手紙を書いていただろうペンはテーブルの端へ置かれ、そのすぐ横には封筒があり
宛名には彼女らしい流れるような字で『Suzaku.』と。

震えていた。身体が震えて目の前が見えなくなっていった。






ユーフェミアが死んだ。