ここよりシュナイゼル×ルルーシュの(間接的な)関係をもつ描写があります。
ご注意ください。











アーニャは一人、皇居の外へ出て、自分よりも危 険な任務をルルーシュから任されたジノがその場にやってくるのをじっと待っていた。
後ろにはもう発進準備の整った輸送機が、自身の頼りない背中を包むマントの裾をびりびりと震わせるような
低いエンジン音を立てている。
もしかしたら状況次第では愛機を取りに行かなくてはならないかもしれない、と携帯を胸元から取り出した。
ジノとはあれからもう数時間、連絡をとれていなかったから。誰も自分たちの行動には気づいていないが、アーニャは不安になって
着信やメールがないか確認する。しかしそのどちらもきていなかった。









腹の底から這い上がってくるような嘔吐感を堪え切れなかったユーフェミアは、低く身体を伏せて
支えようと広げてくれた男の腕に凭れかかる。咽喉をヒリヒリとした痛みが襲い、同じだけ胃の内部も締め付けるような
圧迫感に支配された。意識が朦朧としかがるがそれに必死に首を振って、どうにか混濁することをやり過ごす。
「ユーフェミアさま、もしかして……」
ジノが、静かに問うてきた。無言でその言葉に頷く。もしかしたらルルーシュが
寄越してくれた人間かもしれない、と思ったが、それならば尚更嘘もつけないので、ありのままの真実を口にすることにした。

何よりも、本気で助け出そうとして戻って来てくれた異母姉の仲間でもあるから。
ゆっくりと顔をあげて、絶望的な眼差しで見下ろしてくるラウンズの騎士へ、柔らかく説明した。

「もう、此処に閉じ込められて三ヶ月になります。最初のうちは、……ただの皇族同士の諍いという、レベルでした
だから臣下も父上も、何も言いません」
「……ええ」
「でも……私……飲んでしまったんです……」
「……何をですか、殿下」

思わず問い返す声が震えた。その語尾の揺れをどう受け止めたのかは解らないが、少しずつジノの目に映る皇女の笑顔が
何かを悟った諦めのような笑顔になった。それが恐ろしくて、内心必死に首を振った。そんな、まさか。
「シュナイゼル閣下は、貴方に毒か何かを服用させた……。だからこの場所に軟禁したんですか」
「…………」
「答えてください。今の状態だと、-----------貴方の身体は……もう、」
「------------言わないで」

ジノの追求に小さく首を振って、……ことりと、その身体から力を抜いた。
















退屈の満ちる部屋
















事はそんなに長くは続かなかった。
元々、ルルーシュ自身に抵抗する力が無かったからかもしれない。

日焼けを知らない、普段は公務に従事している身体を曝け出されて、肩にかけていた衣を下敷きに異母兄と深く交わった。
最中の出来事はあまり覚えていない。口付けられたところで心がショック状態になり、何も考えられなくなってしまったのだ。
逃げようとしても、開かない扉。
きっと門前にいた腹心の部下が施錠したからだろうと思うのだけど、もうそれに対する怒りも湧いてこない。

シュナイゼルは薄暗がりとなった空間にあかりを灯すように、執務机に置かれたライトの電源へ指を伸ばそうとした。が、
それを床下からゆっくりと起き上がって、そっと指先を乗せるように阻む。正直見たく無かった。シュナイゼルに踏みにじられた
後の自分の肢体を。
「湯ならすぐに用意させよう」
「…………いりません」
ふるふると首を振って、膝まで起こしていた身体を完全に立ち上がらせて、ばら撒かれるように脱がされた下着類を
無言で拾い出した。ルルーシュはうまく口が回らない自身を自覚しながら、それでも、依然穏やかに振舞われる異母兄に
耐えられない状態であることを自覚していて。
はやく、ここから出たい、一刻もはやく。-------------だから。
手早くカッターシャツと黒のパンツだけ履いて、シュナイゼルの執務室を出ようと扉に手を伸ばす。もしまだ開くようでなかったら
例え細身の身体をぶち当ててでも、外に出ようと思った。しかし、本心とは裏腹に今度は簡単に開いた。

「-----------------……」

目の前にダールトンが驚きに目を剥いた顔をして、立っている。
自分のぼろ布のような格好と、首筋の噛み傷を凝視していた。
その視線に耐えられず、顔をふいと背けてその場から立ち去る。

その走っていく背中を、ずっと異母兄の静かな目線が追っていた。








扉の前にはカノンが居た。ずっとそれが邪魔でダールトンはうまくルルーシュの後を追えなかった。
そもそもこうなることを予想していたら、ルルーシュを執務室になんて近づけさせなかった。
(俺は何てことを殿下に……っ)
足元へ視線をやったら嫌でも目につく、皺くちゃになった緋色のマント。いつもルルーシュが執務服としていた衣だ。

薄い暗闇の中、強く歯を噛み閉めた部下の気配を感じたのだろう。シュナイゼルが執務机に腰を凭れさせながら
一息吐き出す。
「お前は本当に馬鹿だね」
これほどの付き合いをしているのに、まだ私のことを知らない。

変わらない淡々とした口調でダールトンをそう揶揄し、シュナイゼルは両手を広げ、はじめてルルーシュを手にした感触を
思い出すように、ゆるくその手を握りこんだ。





















足が震え、手が震え、視界がぐんにゃりと歪んだ。
皇居の中央を仕切るであろう長い回廊は渡らず、使用人などが出入りする狭いわき道を歩き、どこへ行くアテもないまま
ルルーシュは小走りに駆けていく。
けどそれは見た目的なもので、本来ならば、すぐに足を躓かせて転んでしまうような脆弱さをもっていた。
だってそうだ。まさか首の肉を千切られ、異母兄に組み敷かれるとは思わないだろう。


それにルルーシュはスザクの身体の真相を知った。


それによる混乱もあって、頭がうまく働かない。自分はジノとアーニャに何を命令したのだったか?何のために英国へ
戻ってきたのか?
頭どころか身体もうまく操ることが出来なくなって、ある通路を曲がる時、その場に崩れ落ちるように
へたり混んでしまった。
「は、はっ……、は……はっ……」
頭の少し冷ややかな部分が、頬が涙に濡れているということを知らせる。ハッとして掌を持ち上げれば、
確かに液体が零れ落ちてきていた。でも、うまくそれを掬いとれなくて、ぼろぼろと零れ落ちたままになる。
そのまま両手で顔を伏せてしまって、暫しじっと声を殺して、ルルーシュは泣いた。自分のあんまりの不器用さに。
ユーフェミアへの不甲斐なさに。今までスザクに無理をさせ続けていたことに対する申し訳なさに。

いつだって、自分さえも救いとれない、不器用さに。

壁にごちん、と頭をつけて、ひいひいとしゃっくりあげた。気づけば全身が小刻みに震えだし、床に直につけている尻からも
寒さが這い上がって、どんどん世界から孤立しているようだった。助けてほしい。誰か、誰でもいいからすぐに
駆けつけてほしい。
「っ……ふ、ぅっ……う」

苦しかった。





とりあえず、重い腰と膝を持ち上げて、まずは身を綺麗に整えてからユーフェミアのもとへ戻ろうとした。
絨毯の床に手をついて、足に力を入れて起き上がる。そこから壁づたいに身を支えながら歩いていけば、耳に、硬いブーツが
床を蹴り上げる音が届いてきた。
「……ジノ」
金髪を慌しく揺らし、全速力で走ってきたのか荒い息遣いをして腕をぶんぶんと振ってくる。『どうしたんだ』とそれに
アクションを起こせば、彼がその手の動きを手前へと引くものに変えた。どうやら、急いでこちらに来い、ということを現して
いるらしい。
近づいていってみれば、彼のラウンズの服は真っ赤となっていた。その姿で皇居中を渡り歩いたのだろうか。もしかしたら
執務室近辺に居ないルルーシュを散々探し回っていたのだろうか。
酷く申し訳ない気持ちになって、自分の格好も構わず走り出す彼に付いていく。後に、外で待機していたアーニャも交わった。
二人の走る速度に息をあげながら『ユフィに何があったんだ』と訊く。そうすれば、ジノは袖口についた血を捲くって見せ
深刻な顔で振り返った。

「もうあまり時間がない」





























駆けつけた先の離宮では、気を失ったユーフェミアが横向きに倒れていて、一瞬心臓が止まるかというほどその姿に
取り乱してしまった。
息も整わぬまま、すぐにも駆け寄って異母妹の枕元に膝を付く。口元にはベッタリと血が付いていて、思わず血塗れになった
ジノを睨みつけた。彼はびくっと肩を揺らし『そうじゃない』と言い、懐に仕舞っていたと思われる書類を取り出して
自分へと差し出してきた。
「これ……」
「この離宮にはすぐに辿り着いた。もともと監視もないらしいし。けど、ユーフェミアさまを連れ出そうとしたところで
問題が出たんだ」
「何?」
「さっきから見て解ってるだろうけど、……吐血したんだよ」
--------------それも胸からじゃない。腹をぐっと押さえてたとこ見ると、これは胃に損傷がある、と続けられる。
「そこで殿下を探しにいく道で、王宮の蔵書室に入って調べてきたんだ」
「ユフィは病気にでも、」
「違うね。元々服用させられてたみたいなんだ。……ちゃんと使ってた食器とか調べてみないと解らないけど
間違いなく中毒症状が現れてる」
「…………」
絶句し、手元の文書を目で追う。そこには、三年前嫌でも見させられた……ロイドやシュナイゼルこそが専門分野であろう
ある流体物質の元素記号が書かれていた。
「その書類は蔵書室の中でも、皇族クラスの者しか閲覧出来ないフォルダに入ってた」
コピー出来ないから原文を破ってきた、とジノは言う。確かにそれは本の綴じ部分がぞんざいに千切られていた。
ならばこの情報は確実だろう。
それなら、ユーフェミアは。

「殿下。ユーフェミアさまはここに軟禁されてただけじゃない」
「……」
「飲まされてたんだ。俺たちナイトメアのデヴァイサーにとっても、いや人間全般にとっても、有毒でしかないサクラダイトを
構成する物質……」
「知ってる。その、-------------中毒症状もな」
俺の弟も実際にそれを浴びてね、と口中で呟く。まさか、何日も続けて、異母兄の手から飲まされていたというのか。
ユーフェミアは。

(何という……こと、を)

手首で、握りつぶせるのなら、すぐにでも異母兄の命を奪いたかった。
彼がしたこと。ユーフェミアへしたこと。すべてはルルーシュが負わなければいけないもので、本当に異母妹は関係のない
ことなのだ。
それがどうしてこうなってしまったんだろう、と思う。
折角自分を引き換えとし、ユーフェミアをエリア11へやろうと考えていたのに、すべてが白紙に戻った。
彼女を、この離宮から連れ出すことは出来ない。
今の、傷ついたルルーシュには考えられなかった。

自分の為にすべてを負わされた妹を、これ以上守る術が。












「ユフィ……」

枕元から、顔を近づけて呼びかける。苦しそうにではあるが浅く息をつく異母妹は、そう簡単に起きそうになかった。
なんて言葉にして謝ればいいんだろう。
どうすれば償えるんだろう。これ以上、一体何をしようとすれば犠牲は少なくなるんだろう。
出口の見えない迷路に置き去りにされた感じだ。
瞼が重く、意識も冴えない。身体が限界にきてるからか。
そう言えばさっきまで、自分は男の腕の中に居たんだよな、……と思い出す。
後ろにじっと控えていたジノが、そのルルーシュの異変に気づいた。
「殿下……首、どうされたんです」
「--------------」
「傷」
アーニャが隣から、そっと触れようとする。
それを無言で払いのけた。
「!……ルルーシュ殿下」
「構わなくていい。それより、誰にも見つからないようにこいつの体を俺の部屋に運んでくれ」
「そんなことしていいの?」
冷静な言葉が、静かにかけられる。
それに黒髪で表情を隠したまま『大丈夫だ』と根拠のない返事をした。

「せめて二人で居たいんだ……。だから、黙ってそうしてやってくれ」

声が、微かに震えてしまっていたかもしれない。
それでもラウンズの二人は更に追及することなどせず、ぐったりと伏せたユーフェミアの身体をルルーシュの言った場所へと
運んでくれた。
最後に、奥の離宮……もとい、自分もおよそ半月ほど過ごしていた場所を振り返る。
ナナリーにユーフェミア。どちらも同じ物質に汚染され、形こそ違えどルルーシュと結びついているなんて、因果なことだと思う。

そう。

自分がしたことは自分へ返ってくるのだ。



弟が汚染された現場を、何も出来ずに眺めていたその報いが
今こうして返ってきているのだ。


それを皮肉に思い、ルルーシュはせりあがってきた衝動に身を任せ、振り上げた腕を石造りの壁にぶち当てた。









シュナイゼルの手によって幽閉されたユーフェミアを自室へと連れ出してきたのだから、きっとすぐに何か言ってくるだろうと
予想していた。そして案の定、カノンが異母妹を運び終えたラウンズたちを送り出すところで、部屋までやってきた。
ジノとアーニャが気まずそうに、シュナイゼルの腹心へ礼をとる。
その片割れが、常時着用しているマントを外している姿にカノンは意味ありげな笑いを小さく零し、ドアの隙間から怪訝な目を向ける
ルルーシュへ、手にしていた布のような纏まりを差し出した。
「お着替えをなされるだろうと思ったので、替えのものを持って参りました」
「……そ、れ……」
咽喉に、うまく言葉を吐き出せない異物感を感じる。扉の影に納まるように立っているからか、自分よりも近く
カノンの傍に居るジノは、不思議に自分のことを見つめ返してきた。その疑うような眼差しに戸惑う。まさか言えもしない、
異母兄と密通したなんて、そんなことは。
気丈に心を立ち上がらせて、去っていいものか居残ればいいのか迷うラウンズの二人を紫電で鋭く睨み『もういい』と
立ち退かせる。
「……では、失礼します」
先ほど腕を払いのけたこともそうだし、少々とも言えないほど崩れたルルーシュの衣服にジノは何かを悟りかけていたが
これ以上の踏み込みは無礼にあたるとでも思ったのだろう。ブーツの踵をくるりと返し、ルルーシュとカノンの元から静かに
去っていった。
「世の中には知らなくてもいいことがあるといいます」
まるで励ますような口振りでカノンが猫のような笑みを見せる。ルルーシュは黙って乱暴に伸ばした腕で衣服を受け取り
扉を閉めようとした。
が、すぐにも閉まるだろうと思っていた隙間にぬっと白い手袋の腕が差し込まれる。

「まだお話があります」

強引に扉が押し開かれた。



「何だ……」
「もうあの騎士と付き合うのはおやめになられたらどうです」
「スザクのことか?」
「ええ。貴方は充分に陛下の寵愛を受けていらっしゃるのに、なぜ手近にあるからといってあんな男と」
「……お前に言われる筋合いのないことだ」
自分の知らない所でスザクとの間にそんな約束が出来ていたことも、ルルーシュは気づかなかったのだ。
シュナイゼルが何処まで自分のことを縛り付けておこうかなんてのは、解らない。ルルーシュはスザクからあんな風に
無下にされたことなど一度もなかったから。
そしていつの間にか自分のことをそんな目で異母兄が見ていることも、……知りはしなかったから。

口付けられてからシュナイゼルにされたことを、不意に身体が思い出した。
自分の背の倍ほどに高い天井を見上げて、瞳を閉じる間もなく顔が近づいて、すぐに重なった。それ以前に成された告白も
心理的にダメージを与えるには充分なもので。

「…………っ」
足場が急になくなって、そのまま闇の穴深くに落ちてしまうような錯覚に襲われた。
しかし、無様に倒れてはいけない。だって……気を確かに持って振舞っていなくては、ユーフェミアを守れない。
こんな目の前にいる男にさえも、見下される。
シュナイゼルにされたことと同じだけ屈辱だった。

「殿下?」
語尾をわざとあげるような口調で、くん、とカノンの顔が近づいてくる。
目線をあげて見つめれば、せり上がってきた吐き気が更に強くなった。まるで舐めとるかのように異母兄に組み敷かれた身体を
見られていたから。
「お前は……」
手にしているのが布ではなく拳銃であったら、迷いなく銃口を向けていた。そんな顔。
この男があの時扉を閉めた奴だと解っていたのに……。
「ユーフェミアさまを私室へお連れしたことは、お知らせしてもよろしいでしょうか?」
「すれば、いいだろう」
「陛下は随分とルルーシュ殿下のお身体のことを心配していましたが」
「構わないで、と、伝えておいてくれ。……元より、兄君も知っているだろうが俺は処女じゃない」

もう、早く、一刻でも速く、身を清めたかった。

扉を音立てて閉める。すぐにユーフェミアを寝かせたベッドを横切って、洗面台のすぐ奥にある浴室へ身体を投げ入れた。
温度調節もろくにしないで、すぐにシャワーから水を出す。鏡は見たくなかったからそれへは背を向けて
頭から水を浴びた。
首筋の噛まれた傷がそれにキンと痛んだが、我慢した。下腹部が異物の混入により酷く重く感じられたが、そこには視線をやらず
目の前にある壁のタイルばかりをじっ、と見る。そうしたら、とても嫌なタイミングなことに、脳裏に初めてスザクと触れ合った
ことが思い起こされた。



『貴方が泣いていると思ったから』







「…………う、ふっ……スザク、……スザク」

ぺたりと床に腰を落として、ずぶ濡れの裸を腕に閉じ込めるように抱き締めた。瞳をぎゅ、と閉じて、必死にあの時の感触を
思い出す。
彼は自身を責めるルルーシュへ歩み寄って、何と言ってくれたか。
切り捨てたばかりの黒髪を包むように指先で梳いて、何を耳に囁いてくれたか。
押し倒した時、どれだけ長く抱き締めてくれていたか。


(全部、優しかった)

でもその時のスザクはルルーシュへ子を宿そうなんて考えもせず
ただ『俺』も『私』も否定するルルーシュを、包もうとしただけ。そのことだけでもシュナイゼルから真相を聞かされて
ルルーシュは救われた。

そうだよ。俺が好きなのはスザクだ。
絶対それは変わらない。



彼自身にそんな喪失があるからこそ、繋がっていたいと思うのだ。























「ルルー、シュ?」
「……あ」

吐瀉物に汚れてしまった衣服を剥いで、自分用に渡された寝巻きに着替えさせていたところで
ユーフェミアが目覚めた。
どこか罰が悪そうに苦笑して、慌てて異母妹から離れる。どこまでサクラダイトの元素による汚染が進んでいるのか解らないが
無為に動かさせることもないし、そっと出来るならそのままでいさせてやるほうが絶対にいい。
ルルーシュは自分も身を綺麗にして下着もちゃんとつけていたので、ベッドはユーフェミアに使わせるとして
自分は厚い毛布にでも包まろうか、と壁際にあるクローゼットへ背を向けた。
「おっ……」
しかし背後により伸ばされた腕で、首ごと後ろから抱きつかれたルルーシュは素っ頓狂な声をあげてベッドに雪崩れ込む。
『?』と、ぱちぱち紫電を後ろへ向ければ、ユーフェミアがにこにこと無邪気に笑っていた。抱き締められたところからとくとくと
心音がする。

「……ユフィ」

生きている、と確かに感じることが出来て安心したように振り返れば『いつも私嬉しいのよ』と、
ベッドの上で向かい合う形になって、ルルーシュは半分濡れた髪を優しく撫ぜられた。
「ルルーシュ、公務で外に出ると……帰ってきた後すぐに私のとこに来てくれるでしょう?」
「あ、ああ」
「それが私嬉しくってね。……今日も、そうしてルルーシュに会えたから、気づくと頬が緩んじゃってるの。恥かしいわね」
適当に櫛で梳いたボサボサの頭を整えるように、片手から両手に抱えられて、頭ごと正面から抱き締められた。
その感触が、ずっと遠い思い出のようなものになっていただけに、ルルーシュも別な意味で言葉にない嬉しさを感じて
うまく力の入らない腕を異母妹の細い背に回し、ぎゅうと抱き返した。
「……ユフィ、俺もすごく会いたかった」
「うふふ、……嬉しいよ、ルルーシュ。それにちょっと胸大きくなったでしょ」
「へっ」
「スザクのおかげかしらー」
にゅ、と胸元に伸ばされた掌がぴとりと当てられる。それに吃驚して変な声を上げてまじまじと異母妹を見つめ返せば
彼女はふむふむと一人頷いて、下着姿の無防備な身体を検分するように、掌を動かした。
「わっ、ひゃ……、んァ、----------何触ってんだ!」
くすぐるのとはまた違う動きであるから、妙に上擦った声が出てしまう。必死に止めようと上から腕を押さえつければ
意外にも簡単に動きが止まった。
「否定、しないのね」
「え……」
「スザクのことよ。ルルーシュ、エリア11に行ってからいつの間にかくっ付いたんだ」
ブラジャーの肩紐がズレて、それをそっと指にかけてユーフェミアが戻してくれる。
ルルーシュはぽかん……と口をあけ、ようやっと異母妹の発した言葉を理解すると、火の出るような勢いで顔を赤くさせた。
「ばっ、あ……!そん、な、……くっ付いたとか、まだ……」
そりゃ向こうは元々こちらのことが好きで、その気で押し倒すなり行為に及ぶなりしてきたのだろうとは思うけれど
お互いにちゃんと”付き合おう”という意識をもって、接したことはない。
いつの間にかそこに居た感じなのだ。
ルルーシュなりに鈍感なスザクに対してアピールしていたりもするのだが、今いちそのまま伝わってるとは思えにくい。
もしかしたら曲解して、変な風に考えてるんじゃないかと心配になることもある。彼は自分の苦手なものや嫌いなものを
熟知してるからその分、優しくしてくれるし遠慮もする。きっとそれがルルーシュとスザクの距離になるのだ。
……それが恋人のような近さであるかは解らないけれど。
(でも)

俺はスザクが好きだ。
最近、それをすごく思う。
だからきっと、すれ違っていてもちゃんと結ばれてると、感じるのだ。

(それは、兄君とは違う……)


「うん、ユフィ」
シーツの上に落ちていた手を拾い上げる。

「俺、スザクが好きだ」

柔らかな手と自分のものを絡めてルルーシュは笑顔を向けた。

「そう」
ユーフェミアも笑って、触れた掌を両手で包み込む。
「よかったね、ルルーシュ。人を好きになれた」
自分のことのように彼女は笑い、向かい合うように座ったベッドの上で、またルルーシュの身体を抱き締めた。
その時、ルルーシュの肌から感じるものにどこか違和感があったけれども、未だルルーシュのほうからそれを何も言わないかぎり
自分からも特に口にしたりはしないでおこう、と目を伏せた。






部屋の照明を落として、同じシーツに包まりながら天井を見つめて会話をする。
「ユフィ……」
「なあに」
「生きような」
「----------」
「生きて、一緒に……姉君の居るエリア11に行こう」
「私も?スザクが何て言うかしら」
「そんなの大丈夫だよ。三人でまた遊んだりしよう。俺もスザクもお前が大好きなんだから」
「…………」
「それにあそこは花が綺麗なんだ。俺の好きな花もあってね。お前のダリアもあったよ。まずは三人でそこに行こう」
「……それは楽しみだけど、私もっと楽しみなことがあるの」
「ん?」
同じ枕に埋っていた紫電が、異母姉のものと絡んだ。どこか悪戯っ子のような光のある眼差しを向ける。
「私、お母さんになるルルーシュが見たいな」
直にその言葉を耳にして、ルルーシュは一瞬身を凍らせた。
でも、
異母妹が望むなら、

それならば不可能なものなんてないのだろう。

「……ああ」

囁くように答えを口にし、目を閉じた。ユーフェミアもならって瞼を下ろす。
優しく感じる部屋の空気。……ああ。

昔のような、あの頃に戻ったような気がした。