はじめて貴方に手紙を書きます。

(決して読まれることはないと思うけど)

















私は、特に貴方のことを”姉”として見ていたわけではありませんでした。
多くいる兄弟の中でたった一人だけ同じ母を持つ身であり、同じ血を継ぐ者であり、同じ寝床を共にする者、
ただそれだけの理由で、貴方は私の中で特別でした。
どう特別なのかというと、それは言葉では、……そして文字では、到底表せれない想いです。
そしてきっと理解されない想いです。
だって貴方は、私の中では他にいる兄弟と同じ感性や感覚を持っている人間であって。いつしか母が話してくれた御伽噺に
大きく首を縦に振った私とは、根底から対極に在る人だと思うからです。

ひとつのものしか持てなかった国は、破滅の道を選ぶことにより”個”の自由を得ました。
誰かのものは自分のものではない、他人のもの。共有出来ないのならば戦いあうのみ。
だから、
それに賛同し、読み聞かせる母の声に耳を澄ましていた私は、貴方を手にするために破滅の道を選ぶことにしました。








覚えておられているか解りませんが、以下の回想をここに記そうと思います。貴方に少しでも私の背負っている
恋しい思いを、理解してもらう為に。少しでも振り向いて振り返ってもらう為に。
そうですね、まずはよく星を見に部屋から抜け出した時のことを書き記しましょうか。
私も貴方も星が大好きで、夕暮れ時に見える金星は、そこから星座を結びつけるためにはとても重要な起点であり
終点でした。
貴方は視力がよいのにあまり根気がないから、すぐに星座を数えることを止めてしまいましたが、私は貴方が呆れず
傍にいてくれるまで、ずっと数えていたことが今でもとても印象強く、残っています。
どうして中々部屋に戻りたくなかったのかについては、あまり言明したくありませんが、これも貴方の気を引く為に
言っておきましょう。
シュナイゼルお兄さまが家庭教師に、夕暮れを過ぎると部屋にやってきたからです。
私はとても、外見上似合いすぎる金髪と黒髪の組み合わせを見ることは耐え切れなく、会話をしているのを耳にするだけでも
幼心にふつふつとした焦がれる思いを抱いていました。
私の栗毛は、貴方の漆黒の髪には似合いません。
連れ出す口実として『星を見に行こう』と笑顔で言えば、貴方は素直に伸ばした手をとってくれたから、それだけが
シュナイゼルから貴方を引き離す私なりの必殺技でした。

二人っきりで過ごすことは、私にとって何よりの生きがいと成り得てました。
母に面白くないように言われても、貴方を家族以上に、姉以上に、人として好きでいました。
この焦がれる思いは、生まれるずっと前から心血に根付いていたものです。だから、死のうとしても殺されようとしても、
消滅こそ出来ないのですから、貴方への恋情が絶えてしまうことはありませんでした。

みんなのことが好きで、みんなから愛されていた貴方は、皇位継承権としては下位にいたけれど、とても自由に
毅然として、自分の持つ能力以上に国に貢献しようと日々邁進しておられました。

いつしか私は、そんな貴方を護る人間となりたい、と。思うようになりました。

シュナイゼルから排除しようと、身勝手極まりなく弟の特権を使って貴方を独り占めしていた私を、
他の兄弟は影で失笑していたでしょう。
年が離れていようが身長が低かろうが、私は私なりの努力で英国にいる誰よりも強くなろうと決意しました。

ある日、シュナイゼルとロイド伯爵が持ってきた”案”に、私は便乗しました。
だってそれは貴方と私にしか出来ないことだからと、聞いたからです。
つまり、ロイド伯爵が母の犠牲と多くのスタッフの努力のもとに作り上げた粒子系サクラダイトを基礎にもつ
KMFでの富士鉱山突入。
”ナナリー”としての力を見せ付ける為には、絶好の機会だと思いました。

嬉しい、公共の場で、堂々と貴方を護ることが出来る。
貴方を好きでいることこそが存在意義であった私は、自分たち専用であるKMFを見上げて、傍にたつ貴方へ誓うように
言いました。

けれども、
貴方はその瞬間瞳を凍らせて、僅かに頭を伏せて、ただ視線を逸らすのみでした。

私はその態度の意味を全く知らず、翌日の本番に臨んで大きな痛手を体に負います。保護なしに全身に染み込んだ粒子の
奔流は、私の視力を一時的に奪うには充分なものでした。








……少し筆を止めさせてください。
どうしてもこの先を綴るには、勇気がいります。私は、私はずっと”そうあるはずだろう”という気持ちを、勝手に恋愛と決め付けて
貴方にぶつけていたということをその後に思い知ったからです。










外はどうでしょうか。
治療した先生はどうおっしゃられていましたか。
もう見えないのですか。……そうですか。
ガウェインは一時凍結ですのね。お姉さま、……私、

ひとの形をしていますか。







目が見えないからといって、視界が真っ暗になるわけではないのです。
乳白色の世界を覚束なくふわふわと浮いてるような、そう表現するのが一番しっくりくるでしょうか。

そんな私は富士鉱山から英国へ戻ってきた後、貴方の介護のもと延々唸ったり、突然のフラッシュバックに全身を痙攣させたり、
体に蓄積したストレスを発散するために口汚い言葉を吐き出してました。
終いには、貴方の優しさからくる態度にまで苛立って、その細い身体を床に押し倒したりしていました。

乳白色の世界には、聴覚と触覚しか、ありません。
貴方は黙ってそんな私に跨がれながら、何も叫んだり人を呼んだり、ましてや泣いたりなんて一度もしませんでした。
当時の嬉しかったことをひとつあげればという質問をされたら、
迷わずそのことを答えるでしょう。

暴力に走った私を貴方は責めることなく詰ることなく、じっと傍にいることで心身から癒していってくれました。

私は護ることで永遠に傍にいようと思っていたけれど、逆にこんな風になって、また別のパターンででしたが、
貴方の時間を独占することに成功したと気づきました。
他人から見れば一笑で済まされることかと思いますが、私にとってはその結果がすべてでした。
嬉しくて、毎日小さく語りかけながら傍にいてくれる貴方は、とても優しかったから。
護られているという居心地のよさを知りました。……が、
前述した通り、私はその翌日思い知ることになりました。










御伽噺の少女を覚えておられるでしょうか。
確か彼女も、貴方と同じ道を選びましたね。

----------------私も賛同していた”破滅の道”を。


















王女さまは走ります。
たったひとつの包丁を持ち、
たったひとつしかない皇帝の間まで、
なにひとつ考えることなく、ひとに殺意を覚えることが”自由”の象徴であると。



その時ばかりは……”歓喜”を知って。


















貴方の笑い声が聞こえた。
私の聴覚と触覚しかない残された感覚の中で、地面のザラついた感触と昼下がりの陰のにおい。
あと、窓辺から離れる瞬間耳にした、貴方の言葉と背中に触れた両手の力。


嬉しい、ですか。私を殺せて嬉しいですか。
貴方はずっとそんな思いを、私の貴方を好きでいる感情と同じように蓄積していたのですね。
それはすいませんでした。ごめんなさい。
でも、
迷惑でしたか。



私のこの思いは、ご迷惑でしたか。



この手紙を書こうと思った動機は、そこにあります。
私が弟として生まれて、貴方を人として好きになって、貴方の騎士になろうと思ったこと、
すべて迷惑でしたか。

そのことを今とても知りたい。





けど、

この手紙は、

きっと届かないのでしょうね。でも私はきっと交じるだろう”破滅の道”の先で待っている。
貴方をずっと待っています。










ルルーシュお姉さまへ。

  ナナリー・ヴィ・ブリタニア