---------鋭く、起き抜けの目には辛い 朝日を浴びて、表へと出て来たシュナイゼルの前にはまだ声変わりも完全ではない年頃の
少年が一人で、恭しく頭を足元の芝生へと向けながら、その片膝をついて胸の前に腕を差し出していた。


この国では宰相、と呼ばれている皇子は白皙の回廊から一歩降りて来て、跪く少年が居る芝生までゆっくりと進んでいく。
常の主従ならばここで、主とされる皇子はその少年の腕を手にとり、共に建物の中央部である皇居まで向かっただろう。
だがしかし、その足は止まることなく少年の背中を越してずんずんと芝生の土を踏んでいく。顔を見もしない。
少年も顔を上げもせず、当然といったような姿勢でその身を地面から起こした。

季節も春となった頃。三年の時を置いて暗い地面の底から解放された少年は、眩しい外の明かりを受け止めて爛と瞳を
輝かせる。
先をすたすたと歩いていく皇子は、三年前に稀少な資源を有する島国をひとつ滅ぼし、同時にその国の嫡子を自らのもとに引き上げて
三年地下へと幽閉した。




どうして『三年』そうしたか。
それを知ることを少年は許されていない。













わたしが大人になる頃には




















シュナイゼル・エル・ブリタニアの存在感、もといそのカリスマ性は幼少の頃より発揮された。
それは何よりも”閃光のマリアンヌ”と謳われた、皇帝の寵愛を真に受けた女性でもあり軍人の、片腕を担っていたからであった。
彼が齢十四の時。現在は肩につくほどに長い金髪がまだ耳の下辺りだった頃だ。シュナイゼルは現皇帝でもある父親の愛情を
他の兄弟よりも一身に受けて、ようやく子育てから解放された妻の側近に任命された。

それは彼が鬼才だったからだろう。実務面で成績をあげ、軍内においての重要人物とも成り得ていたマリアンヌの穴を埋めるよう
策略という面で才能を発揮していたのだから。
地図を広げれば手袋に包まれた指先ひとつで占領国を見定めた。マリアンヌが好奇心ひとつで兵器を改造しようとも思えば、
級友の一人を巻き添えにしてKMFの媒体ともいえる機体を作り上げた。
彼には恐いものなんてその時は何ひとつ無かったから、怯える顔を時折見せる兄弟の静止や畏怖の声にも、振り向きなんてしなかった。
だがひとつ例外であったのが、実務面での才能が誰にも劣ることのないマリアンヌの血を受け継いだナナリーの、その実姉だった。

その人物から吐き出される声も、飛ばしてくるその眼差しも、何故かシュナイゼルの鋼鉄の心を縛り付けた。
幼年といっても差し支えない棒のような足、柳のごとく細い腕、取れてしまうんじゃないかというほどの大きな瞳、紫電の……
血は同じでも明らかに濃度の違う、ルルーシュの色。異母妹は確かに他の兄弟と何ら変わらない人間であるのに、
シュナイゼルの心を掴みとったまま離さなかった。

彼女に対してそう思うのは何故だろうか、とシュナイゼルが疑問に思い始めた時、ああこれが恋なのかと気づいた。



「--------------娘が好き?」



茶化すような声が自分を呼び止めたのに気づくと、瞳をあげたシュナイゼルの前にはすでに軍服のマリアンヌが立っていた。
手には一人、彼女の弟を連れている。よく彼女はルルーシュでなくナナリーを皇居へと連れ出すが、それもまた何故なのだろうかと
内心首をかしげた。が、今は疑問をぶつけるよりもぶつけられている側だ、と理解し、一度瞑目した後、いつもの曖昧にはぐらかすような
眼差しに紫暗を歪め。
「どうしてそうお思いで?」
ひたりと、マリアンヌではなく足元の弟が視線を向けてくる、シュナイゼルとも視線が交じわう。
彼女は返ってくるだろうと予想した返答に苦笑しながら緩やかにウエーブする黒髪を指先で弄んだ。
「……ルルーシュが、最近貴方の話ばかり寝る前にするの」
「え」
「『兄君はもう寝たかな』とか『兄君は今日チェスを教えてくれた』とか、いつも貴方の金髪は綺麗だ、とか、羨ましいとか」
「そう長い時間過ごしてる自覚はないのですけどね」
「駄目よ年頃の娘をたぶらかしちゃ。娘にはこんな人と添い遂げてほしいなー、って理想が、一応こんな母親でもあるんですからね」
例えば実直でー、年が近くてー、勿論顔はいい子でー、性格はどうかなー。
戦場では血も涙もないような戦い方をするくせに、暢気な顔して”母親らしさ”を披露している。
彼女もシュナイゼルとほぼ同じタイミングで気づいたのだろうか。自分が、シュナイゼルが他の誰かに向けるのとは種類が違う、
ルルーシュへの感情の正体を。
「私は、貴方を、ここまで戦場から離れさせなくした人間として言うわ」
「--------------」
「うちの子には近づかないで。……お前にはチェスの駒がお似合いよ。勿論、捨て駒のね」

シュナイゼルは右腕としての信頼は得ていたが、人間としてはマリアンヌから見られていなかった。その事に何の鬱積も
感じないが、どこか空虚とした穴がその頃から胸の底に出来てきたのを思い出す。

(私は)

彼女がいうように、きっといつか誰かに駒のように使われて捨てられる、そんな運命を辿るのだろうか。
今立って居る回廊も、シュナイゼルのためにあるのではなく逆にシュナイゼルの全身を侵食するかのような荘厳さを持っている。
この光景と自らが暮らす城、……皇居が、苦手だと感じたのはいつからだったろうか。
いつからかマリアンヌの姿も、掠れて紫暗には映るようになってしまった。

けれどやはりルルーシュだけは極彩色に目が痛むほどこの双眸に入ってくるのだ。
そう、……まるで昏い夜を明けてその後に顔を出す、柔らかい朝日のように。












「おねえさま」

まだ舌の動きも覚束ない弟の口から自分を呼ぶ声がする。ここは私室で、今は家庭教師に来る異母兄の為に支度をしていて、
丁度ルルーシュは部屋着から執務服へと替えた時だった。
「どうした?」
うっとうしいほど伸ばしっぱなしにしている黒髪をリボンで軽く結んで、簡易机に両腕を乗せて折り紙をいじっているナナリーへと
目線があうよう腰を落とす。
「あの……シュナイゼルさまの、ご講義を受けられるのですか?」
恐る恐るといったように視線をあげてくる弟の、表情の真意が解らず首を傾げる。何か、異母兄に対して苦手意識でも持っているの
だろうか。
「そうだな。父上のご意向でもあるし……俺は母上とはあまり一緒に居ないから、戦場での武勇伝を語って聞かせてもらえるのは
すごい楽しい。ナナリーだって兄君にはよくしてもらってるだろう?この間一緒に馬に騎っているのを見た」
ルルーシュがユーフェミアと回廊を横切っていたとき、傍の芝生で白馬に跨る彼とその膝に座らされている弟を見て
微笑ましく思った。その時の光景を思い返してくすくすと自然に口から笑みが零れる。
「お前はまだ小さいから、足が下に届かなくてな。もう少ししたら一人でも騎れると思うんだが」
「私は、--------母上の跡を継ぐから、いいです」
「跡……?」
傍らに腰を落とした状態で栗色の髪を見つめる。ふい、と、俯いていた弟は顔をあげてルルーシュを見た。
まっすぐと。
視線を外さずに一息で言う。
「あんな馬なんか必要ない……私にとっては屈辱だった。いつか、いつか私だけのナイトメアが完成した時には、
お姉さまのお役に立つんだから」
「……、ナナ……」
この時ナナリーは自分の発育不良の身体にコンプレックスを持っていた。
まだ十にも満たない年齢ではあるのだが、一日でもはやく、ルルーシュの傍に居る人間の誰よりも立派な体躯となって
その姉の手腕のもとで働きたいと思っていた。その希望の障害であったのがシュナイゼルだったのだ。
「ナナリー。お前、兄君が嫌いなのか?」
「それは……」
弟がいつになく真剣な眼差しをして思いを語るのに、ルルーシュは自分の知らない場所で異母兄との確執があるのだと思った。
自分は、ルルーシュとしてはただ、マリアンヌが傍にいるということを許したという時点で安心していたから。まさか弟のように
兄に対して苦手とか、屈辱とかそういう感情は抱いてもなかったのだ。
「俺は、兄君ってすごく優しい人だと思う、よ?」
「おねえさま……」
「勉強だって、教えるだけじゃなくちゃんと解らないところは相談にものってくれる。実技面だって、運動の苦手な俺に合わせた
指導内容に変えてくれるし」
ぽつりぽつりと、ルルーシュが少しでも弟に知ってほしいと思うことを話す傍らでは、再び俯いたナナリーが憤怒の形相を
ひた隠しにしようと、けれどそれが逆に真の感情を露呈することにもなってしまっていた。
固く握った拳を簡易机の上にドン!と叩きつける。異母兄の為にと用意していたティーポットが大きく揺れて、
ルルーシュの前に置いていた食器が弟のその衝撃で幾筋かの亀裂を作った。
「……っあ、」
驚いたのと、机が衝撃に傾いたのもあって、割れた破片がルルーシュの手の甲に赤い筋を作り出す。
ナナリーは自分の突然の衝動に動揺する暇もなく、ルルーシュの口から零れた悲鳴に紫紺の双眸をかっと見開いた。
「お、おねえさま……!ご、めん……ごめんなさい……!」
「だ大丈夫。ちょっと切っただけだから……大丈夫だよ、ナナリー」
慌てふためくといった形相で膝立ちになったナナリーは、手元にあった付近を何枚かに折りたたみ、ルルーシュが気にしなくてもいいというように
胸に隠そうとした掌を引き寄せて、そっと手の甲にあてた。
その間にも何度も『ごめんなさいごめんなさい』を繰り返す。『大丈夫だよ』、と突然の弟の行動に戸惑いもあったが
それ以上に青ざめていく表情が見ていられなくて、必死に平気だというように笑顔を作り続けた。
カチ、コチ……と壁時計の秒針が平坦に動く中、
出血もそんなになく、ナナリーがルルーシュの手の甲の傷を確認しようかと押さえた布巾を持ち上げた瞬間、
いつの間にかルルーシュの部屋へと来ていた白い影が、長い腕をヒラリと素早く伸ばしてきて、
「!」
ルルーシュが気づく間もなくナナリーの身体はシュナイゼルに持ち上げられていた。
「あ、兄君……っ」
「ぁ……--------------」
二人して同時に現れたシュナイゼルを見上げる。異母兄の腕はナナリーの細い首を掴んでいて、けれど視線はずっと傷ついた手の甲に
向かっていた。
時間もあまり経過したという感覚もない中、ギリリと鷲掴む拳の絞める音が聞こえる。ルルーシュは見上げてはいたが同時に
異母兄の見たこともないような瞳の冷たさに絶句した。

「わた、私……」

怯えたような細い息が空気を震わす。無言で、ゆっくりと状況確認するように視線を動かしたシュナイゼルは、
少しだけ暴れたことによって傷口から血が溢れてきたルルーシュの手元を見て、ナナリーの目に涙が滲もうとした頃合を
見計らい、足元の絨毯にその痩躯を下ろした。
「傷の手当をしなくてはいけない」
「は、はい」
「行くぞ」
「えっ……」
離れていく予感を察知したナナリーが手を伸ばす前に、もうシュナイゼルは座り込んだルルーシュの膝裏と背中に腕を差し込んで
持ち上げていた。
軽々とそうされたルルーシュはただ人形のように固まるばかりで、見たこともない異母兄の姿に怯える弟を置いて
離れてしまうことに躊躇したが、ぎゅ、と抱き上げられた腕の力があまりにも強かったから、ルルーシュはそれ以上抵抗も
出来ずに廊下を突き進むシュナイゼルの胸に顔を埋めるしかなかった。



「あ、兄君……、手当てするほどの傷でもありませんから、あの……」
「弟に何か言われたか」
「え?」
「私と接触をもつことで、……何か」

ルルーシュの部屋からすぐにあるメイドの控え室に、二人して入っていった。
体温が低下してはいけないと考えたのか、すぐに肩にかけていた外套を腕に下げて、椅子に腰掛けさせたルルーシュの身体へと渡す。
けれど本当に陶器の破片でできた傷は大したこともなくて、ルルーシュは逆に恐縮しながら細い肩を震わせて
異母兄の手を拒んだ。
けれど、
「何か、……?」
彼が表情を曇らして問いかけてくるその質問の意味が、ルルーシュには解らなかった。
召使が使用する部屋であるから碌な照明もなくて、手元に転がっていたランプをテーブルの上に持ち上げてマッチで火をつける。
一瞬鼻をつく火薬のにおいがしたかと思えば、すぐに胸元近くまでランプの暖かみが届いてきた。その光が薄闇から異母兄の容貌を
浮かび上がらせる。
目に痛いほど原色に近い自分のものとは違って、柔らかな色合いと混じったシュナイゼルの双眸は、ルルーシュの好きなものだった。
藍の混じる弟の紫紺も素敵な色だと思ったが、この異母兄のものが好きだと思うものとは種類が違う。
ルルーシュがシュナイゼルの瞳が好きだと思うわけは色にあるからでなく、どこか戸惑いげに他人を見つめてくる
伏せた眼差しにあった。

誰よりも実力を持ちながら、自分になんの自信も持たない人。

マリアンヌ……母の側近でいる彼はいつも”背景”と成り得ることに躊躇がなかった。母は国民の信頼の象徴で、シュナイゼルは
畏怖の対象であった。
けれどルルーシュはナナリーと他の兄弟が思うのとは違う、別の何かを感じてしまう。異母兄は優しい人だ、綺麗な人だ、
こんなにも怯えるように紫暗を燻らせて見つめてくる人が、悪い人なわけが決してない。
ルルーシュは手元の灯りに照らされたシュナイゼルの顔をそっと伸ばした両手で包み込み、右手でそっと目元の瞼を撫でた。
「おそれないでください」
「……」
てらてらと、二人して狭い空間にいるから当然だが、少しでも動けば手元のランプの灯りは揺れた。しかし、照りつけるその暖かさよりも、
両頬に添えられた掌の温もりだけがシュナイゼルに現実味を与えた。
この日この時、シュナイゼルに対してルルーシュが言った言葉はこの一言のみだった。
そしてその瞬間に、そう告げたルルーシュが知らないところで、シュナイゼルはようやく気づいたのだ。
これは『恋』ではない。
それよりも重い、一度芽生えたら枯れることのない、底なしの沼のような。

『恋』ではない『何か』だ。
それが、ルルーシュを手にしたいと思う己の…………。
































































枢木スザクはその時その場所で始めて”屈辱”というものを感じた。
ルルーシュの弟君、ナナリーが頭部と両足、両手と胴体……ほぼ全身を包帯に丸められた状態で皇居の地下へと搬送される時、
同時刻にロイドの手により、スザクは外の世界いわば地上へと出されることになったのだ。

非常口の先にはクロヴィス殿下がいる。後ろに従うのはバトレー。進んでくるのは、車椅子に項垂れるように座り込んだ
傷だらけのナナリーを運ぶシュナイゼル、その人であり。
彼はスザクが生垣の奥からひょっこり顔を出して覗いてることになど気づかないのだろう。
三年間、……彼は自分の身体をいいように使い、閉じ込め、幾多の陵辱を味合わさせた。
しかしそのどれもスザクにとって”屈辱”を与えることにまでは至らなかった。初めてこの時、この日、スザクはその感情の意味を
知ったのだ。
「兄上、このことルルーシュは」
「あいつは自室で昨晩より休んでいる。この隙にエリア11へと運ぶんだ」
「……よいのですか?本当に、……ルルーシュに一言言わなくて」

「そんなのは必要ない。……また朝が明ければあの子は笑うさ、平然とね。
 だってもうナナリーは居なくなるのだから」

スザクは絶句した。
傷だらけのうえに瀕死の状態であるのだろう、ナナリーは抵抗する術もなくクロヴィスのもとに手渡された。バトレーとともに
非常口の門をくぐり、暗闇の奥へ消える。
カラカラカラと車椅子の音が静かになっていく中、一人見送り立ち尽くすままのシュナイゼルの背中を、
あげてしまいそうになる苦悶の悲鳴を指数本を口内に突っ込むことで抑えながら、スザクは凝視していた。

解った。
ようやく解ったのだ。

三年、彼がどうして自分を閉じ込めていたのか。
いや、
どうして……ようやく、スザクを地上へと出す気になったのか……。


(-----------この男は)
魔人だ。
闇の底深くでしか息の出来ない生物なのだ。

シュナイゼルは人間らしい優しさも、道徳も、何も知らないといったような眼差しで、更に藍を凄惨に深めた瞳をして
もう過去に対してなんの迷いもなく生きている。

彼を優しいと、好きだと、愛しているという人間がいるのだろうか。いや、決して現れないだろう。
そんな人間いるはずない。彼を彼として想うということはそれ相応に異常をきしているということなのだから。

神聖ブリタニア帝国第二皇子、シュナイゼル・エル・ブリタニア。
”ナナリー”と入れ替わりで”スザク”を皇居へと招いた人物。
何故彼がそうするか?どうしてルルーシュの弟のかわりにスザクが招かれるのか?

(いや)

名詞などはどうでもいいことなのかもしれない。ただシュナイゼルにとって特別であるという区分に位置するのがルルーシュなのだという
ただそれだけのこと。
彼は彼女が”喪失”を思って哀しむのが嫌だったのだ。その感情が自分の存在を希薄にさせてしまうから、それだけの理由で。







「変わってるなあ、ほんと」
「褒めてると思っていいんだな、ロイド」
「……んなわけないでしょ」
血塗れの芝生。壊れた窓枠の破片が散らばる芝生。ルルーシュの号泣した跡が残る芝生。
それを真っ白に帰すようにロイドとシュナイゼルはスコップを手にして、まるでこれから家庭菜園でもするかのようにザクザクと
土を掘り返しはじめた。
ルルーシュが朝になって目が覚めたとき、思い出して泣き出してしまってはいけないから。すべての痕跡を消して
また新しい気持ちになって爽やかな日々を送ってほしいと思うから。
ロイドもその気持ちだけはシュナイゼルと同じで、土を掘り起こして内密にナナリーの身柄をクロヴィスへ明け渡すことにも
手をかした。
しかし一つだけ共感できないことがある。日本の嫡子、スザクのことだ。

「いつか、貴方は相当痛いメに合わされると思うよ」
「……誰にだ」
「誰にだろうねえ、--------------解ってるくせに、」

「スザクくんを殺さずにおいたのは、ナナリー皇子をいつか殺そうと思っていたからだろ?」

ルルーシュを独占する為に。
ナナリーが死んで居なくなればルルーシュは一人だが、そうすると生きる理由が曖昧となってルルーシュが自殺してしまうかもしれない。
だからその後釜となる存在が必要になる。それは……。























「いつか、殺してやる」

また夢を見た。
明るい日差しに反射される芝生の上で、ただシュナイゼルがやってくるのを待つ夢だった。
スザクはその”屈辱”の現れたるそれを見る度、毒々しく第二皇子への殺意を吐き出すことを忘れない。
そうしなければ平穏を保てないからだ。それをしなくては今傍にいる……-----------。
「ん……」
下腹部を支えるように抱き締めていた黒髪が、突然離れた温もりを探すように僅かに身じろいだ。スザクは半身だけ起き上がらせた
姿勢のまま、それを無表情に見下ろす。
吐き出したい、殺意を。
共に覚えておかなくては、向ける、相手を。
(----------------相手はシュナイゼルだ)
両親と国を滅ぼした。その時共に自害しようと処刑台にあがる自分を蹴り落とした男の、真の理由。

スザクにとってその屈辱は殺意を向けるに足る理由だった。けれどその感情が大きく制御出来ないからといって、
傍に居る彼女にぶつけていいものではない。そんなことはあってはならない。
「……、シュ……」
もう呼べなくなってしまった皇女のファーストネーム。苦々しいが、憎い皇子と綴りを同じにする部分のある、ファーストネーム。
スザクは熱っぽく、呼吸に愛しさを滲ませて傍らにいる少女の名を小さく呼ぶと、間違えて殺してしまわないように
再び後ろからギュ、と力を込めて抱き締めなおした。





いつか”大人”になる時、
現在も変わらずにある愛憎が、その両方とも交わらず溶けずに存在してほしいと切に願う。


そうでないと間違って『君』を殺してしまうから。