「------------お姉さま!」

走って、走って、日差しが差し込む窓辺に腰掛けた実姉の下へ、テラス側に面した道を抜けきるように
自分は走っていた。
栗色の髪は、母の黒髪ではなく父の遺伝子を受け継いでいた。口をあけて咽喉を震わす声音は、声楽も興じる母の
才能を受け継いでいた。
その軽やかな声に導かれるように実姉、ルルーシュが振り向いて、はんなりと笑う。手を伸ばしてきてくれるのは解っていたから
迷わずに自分は……手を。

ナナリーは迷わずに彼女へと伸ばした。

「私ね、乗馬でコーネリアさまに勝ったんです」
「姉君に?……お前が?それはすごいなあ。俺には無理だよ」
「だってお姉さまは文系だもの。身体を動かすのは私のほうが得意でしょ。お姉さまも私も、全部が全部、出来てなくていいんです。
私には出来ないことを貴方は出来て、貴方には無理なことを私はこなして、二人で一人前でいいんです。
だって離れることはないんだもの!」

繋いだ手にしがみつくように、自分はあの時もうひとつの手を重ねて、胸にしまいこんでいた気がする。

「ナナリー」

その言葉を受けたルルーシュが曖昧な仕草で頭を振り、苦笑したのにも気づかないで
ナナリーは両目を閉じて、くすくすと笑った。日差しは温かかった。今日は一週間ぶりの快晴だったから、
だから自分は乗馬をしてきたのだ。

姉の為ならばコーネリアにも勝てる。
猜疑心や劣等感を兄弟へ向けるのならば、その兄弟さえも追いつけない人間になればいい。

自分が、 彼女を救うのだ。




「だからね、離しちゃ嫌だよ。
お姉さまと私は二人で一人、ずっと一緒に居なくちゃいけないんだからね」






それはルルーシュを誰にも渡したくないという独占欲の現われだった。
でもそうしなくては彼女はやがて騎士を迎えて、どこかのエリアに飛ばされる運命にあったから。
そんな事になってしまえば自分はもう二度と、今のように温かい庭先で触れ合うこともままならなくなる。
(……解せない)

ゆるせない、先に続く運命だった。















空っぽの封筒

















ナナリーはあれからガウェインを降り、騎士団員すべてをアジト中枢の司令室へ集め、連絡をした。
『これより富士鉱山山頂を目指す。今までいたこの場所は、先ほど敢行した命令通り全面撤廃。ブリタニア王国軍が攻めてくるが
人員・チームについては個々に分散されているので黒の騎士団がそのまま潰されることはない。
むしろ潰されるということよりも、こちらが潰すということを考えろ。勝つために必要なのは強さではない、確固とした信念と
誰にも劣らない我欲だ』
朗々と、仮面を通しても響くゼロの言葉に団員は頷き、副指令と共にラクシャータの待つ地上に一番近いコックピットへと
走って行った。
そこには既に起動準備に入ったグロースター、無頼が鎮座している。その足元には深紅のスーツに着替えたカレンも居て、
ラクシャータから細かいチェックを受けているところだった。
「ゼロ」
隣に黙ってついてきていた扇が、ゼロの無表情の仮面を見つめてくる。彼の茶の瞳が、まるでナナリーの奥の目を探るような
動きを持っていた。
こいつには正体を知られてないはずなのに。
「どうした、……お前も不安を感じるのか」
「いや、違う。ただ俺はこうも感じるんだ。君がここにきて、租界とゲットーには海が作られた。それは勿論君が新たに国を作ろうと
思って、そして今はもう富士にまで登って、サクラダイトを奪取しようとまでしている。……こんなことまで出来ているのは、
すべてゼロのおかげだと、俺は信じて疑ってない。でもな、でも……」
「……扇……?」

「どうして、日本の、……俺はもう英国に殺されたと思っていたけれど、その枢木スザクを、今回の作戦に使うんだ」

チラ、と視線を逸らして彼の瞳はガウェインのハッチを仰いだ。
数人、キョウトから回されたという研究員が上り、端に腰掛けるC.C.と会話している。
今は姿を見せない枢木スザクは、下にいる扇には目の届かない場所に、昏々と眠っているのだろう。
しかしかれはそれを知らない。枢木スザクをガウェインの複座に座らせたのはナナリーとC.C.であることを。
「……はっ」
扇の言い分も解らないことはない。枢木スザクは、英国の皇子に連れていかれさえしなければ、今の扇やカレンのような
立場にいた人間だ。
そして彼が来なければナナリーもテロリストなどにはなっていなかった。
(……すべて)
そう、すべては、彼がいけないのだ。

枢木スザクが憎いのだ。

「私は身分というよりも、枢木の能力を見て、作戦の駒に使うことを決めた」
暫し沈黙していた仮面が、再び口を開く。
ピクリ、と。
まさかまともに返答されるとは思ってなかった扇は、それに肩を揺らした。
「え……?」
「ルルーシュ皇女の騎士である枢木は、ランスロットに騎乗し、一度我々を撤退させた」
「……君がクロヴィス殿下を暗殺した、あの事件か」
「そうだ。奴にはそれ相応の能力がある。……富士山頂では何が待ち受けているかはこちらで考えうる限り、断定出来ないほどの
可能性とカードがあるだろうからな。それに備えてそれなりの準備をしておきたいんだよ。私は。
だからもう、迷わない」
「ゼロ、……君は」
「私の言い分は気に食わないか」
「いいや。君が迷わないというのなら」
「そうか。ならお前は後方支援を頼む。私はこれから無頼を使い、あるべき時のための下準備をしにいく」
マントの背を翻し、遠くで研究員の自分を招く声に応じながら、ゼロは扇の横をすり抜けた。
「え……?」
「大丈夫だ。……きっとブリタニア軍も黙ってはいないだろうからな。藤堂という駒も揃っていれば私が出向くまでもなかったんだが
仕方ない。------------部下への指令はお前に任せる!概ね私が指示した通りにな」
離れて行く距離に声を飛ばし、扇が戸惑いながらも頷くのを目に留めて、息をつく。
軽い身のこなしで無頼のハッチへと脚をかけたゼロは、自分が大きく飛ばした声に所在を突き止めたのか、
ぱたぱたと足音を立てて白衣がこちらへと駆けてくるのを見て、動きを止めた。
「ラクシャータ」
「あんたねぇ、こっちは前もって聞いてるからいいけど、本当にアノコト部下たちに言ってあげなくていいの〜?」
「……ああ」
細長い独自のデザインが特徴的なパイプを燻らせて、チェシャ猫のような容貌が笑う。後ろでは紅蓮に乗り上げたカレンが、
そんな自分たちをまた不安げに見つめていた。……そんな彼女にも届くように、また安心させるように、ゼロは声を張り上げる。
「練り上げた策に穴など無い。面倒ごとはすべて私がこなしていく。君には前々から言ってある通り、説明した地点であれのスイッチを
入れてもらえばいい。そうすれば万事うまく行く」
「ははぁ……。まあいいけどね、私も仕事だから、あんたが心配でもなんでもないってんなら付いていく。言われた通りにすれば
いいんでしょ」
「ああ、ガウェインにはC.C.が居なくてはならないから、どうしても君にやってもらわなきゃならないんだ」
見下ろす仮面との応酬に頷きながら、またパイプをすうっ……と吸い込んだ。吐く息が白というより灰色なのは、
この場所自体が暗いからなのだろうか。
「……」
ゼロは返答を待った。そしてそうする内にも彼女はパイプの灰を床へと捨てて、軽く鼻で笑いながら身を翻す。
「ラクシャータ」
再度声を掛けるのに、バッと勢いよく白衣の腕を突き上げる。

その掌は親指だけ立てて握りこまれていた。
























人が勝利を確信する瞬間というのは、勝負の時に相手側が降参を示した時か、または相手側の陣地にあって、護ろうとしていたものが
亡くなったという時なのか。
『行きますか、殿下』
『ああ。よろしく頼む』
そう言って、ロイドとルルーシュが政庁本部から消えて数分経った。ヴィレッタは上司と共に彼女へついていこうとしたのだが、
甲斐甲斐しく言葉尻を下げてルルーシュを労うジェレミアの口調に、とうとう嫌気が差したのか、
『うっとうしい』
振り向きざまに無慈悲にも彼の股間を蹴り上げたのだ。
ヴィレッタも瞬間、目を円くして彼らを見守った。ジェレミアは青筋は立てながらもみじめな悲鳴などはあげず、黙って、
重力に逆らわないままに床へと膝をついた。
どうして彼女がそこまで急いでいるのかもわからず、(なるべく攻撃は受けないように距離はおいて)今からでも駆けていこうとする
ルルーシュへ更に声を掛けようとしたのだが、それでもルルーシュは振り向きもせずただロイドの後を追っていってしまった。
「ルルーシュ殿下……特派のある地下ではなく搭乗口のほうへ行ってしまわれたのですが、これからどうされますか」
「私がそんなこと知るか。……全く、クロヴィスさま以上とはいえ勝手が過ぎるぞ。あの男も傍に引き連れていないのに」
「枢木准尉のことですか?」
「……そうだ」

もう五日前になる。彼が居なくなったと声を上げて捨て猫のような風体で帰ってきた彼女の姿。
血に塗れたコートを両手に抱き締めて、執務室まで前も向かず俯いたまま歩いていた横顔が、今もまだ網膜にこびりついている。

「ジェレミア卿は、いくらクロヴィスさまの後身とはいえ、少々殿下に固執しすぎかと思われます」
「……、軍人が皇族に尽くすのは当然のことだ」
「けれどそうだとはいえ、いささか度が過ぎているかと思います。卿はクロヴィス殿下が『研究』だと言って暫くの間雲隠れ
された時は、今のルルーシュさまのように『どちらへ行かれるのですか、お帰りはいつです』なんて、お聞きになりませんでした」
「……それは、ヴィレッ……」
「----------殿下は、クロヴィスさまとは違う戦い方をなさるんでしょうね」
二人、親衛隊であるのに後に続くことを拒まれてしまった廊下の中心で、ぼうっと天井を見上げていた。
ヴィレッタもジェレミアも、着任式典の騒動の後で、ミレイがルルーシュをつかまえて『貴方は他の皇族とは違う』と言っていたことを
知らないが、
それでも何か、生まれ持っての空気のようなものを出会った瞬間から感じていたのだろう。
ヴィレッタは、ルルーシュが先日スカートを身に付けたその姿を見て、少し微笑ましい何かを感じた。
ジェレミアは彼女に『黙れ』だの言われても、枢木が傍に居ないときは後に従っていた。何か引力のようなものに
引き寄せられていたから、そんなことをしていたのだろう。

でも今は違う、今日だけは違った。ルルーシュは故意に自分たちを付いていかせまいとして、拒んだのだ。

(我々が知らない敵と戦うとでもいうのか……?)

そうして突っ立ったままでいたとしてもルルーシュが戻ってくるわけではないのだが、
それでもジェレミアはある思考に囚われていた。

ルルーシュの敵。

彼女を騎士として思慕する感情とは別に、もうひとつの側面の裏側で、その相手が誰なのかという疑念も抱いた。
この間の式典後に身内で行われた会議では、コーネリアから検査の結果として『ブリタニアの人間』であることが知らされた。

ジェレミアはこの後身をもって知ることになる。
数時間もしない後で、政庁からすぐには飛べない港沖の富士山頂の基地が、大きな崩落に襲われたという知らせが入るからだった。


















不安げに、ただ風の波とともに余韻を残して揺れる、水面を見ていた。
ハッチを開いて迷いなく紅蓮の座席についたカレンは、自分たちよりも先に富士へと向かったゼロの機体を
空の中で見つけようと辺りを見回していた。けれど広がっているのは青い空と斑にある白い雲。不安定な足場に広がるのは
自分がゼロの元に下った時にはエリア11に出来ていた、底の知れない海だった。
経緯についてはC.C.が一番詳しいと思うのだが、ゼロ自身がそのことに関して口を開くのを拒むので、彼女もまるでそれに
無言でならうように、カレンが尋ねても答えなくて。
今は扇が下す指揮に従って、ゼロが何処かしらかから手に入れてきた輸送船の上に立ち、広く遠い先にある、ブリタニア軍の
駐屯基地を見定めていた。
(……作戦は、妥当よ、カレン)
防護スーツのチェックをする際にラクシャータが冗談交じりに耳元へ囁いたのだ。『あのイレヴンがガウェインに騎ったということは
カレンが今回の作戦での捨て駒である』
あのルルーシュ総督とコーネリア副総督の着任式典の時のような、なり上がりの騎士団員がゼロを装ったが為に
まんまとゼロ本人の策通りに殺された、あの時のパターンのように。
まさか、私はあんな男じゃない。
たとえ捨て駒のように扱われても、自分は自分の仕事をちゃんとこなしたいだけだ。
犬のような忠誠しか誓えないけど、扇のような全体を掌握し、彼の片腕のようには決してなることは出来ないけれど。
……C.C.のように、その仮面の下の素顔を知るような近さには居られないけれど。
(私には)
カレンにはカレンにやれる仕事があった。
自分にしか出来ないと判断して、ゼロが任せてくれた仕事があった。ならば、それを信じてその命令を遵守し結果を残すことだけを
考えていればいい。それでいいのだ、自分は。
(よし、……迷いは無くなった)
パッ、と瞼を開いて覗いた青い空の果てに、数機のグロースターが港際に見える。
マニュアル通りにラクシャータから教わった跳躍力があれば、あそこにいるだろう副総督の機体まで、風のような速さで行けることだろう。
『カレン』
頃合を計っていたのだろう。遠い、同じ空の下にいるゼロから通信が入る。カレンは『そんな離れた場所にいるのにどうして
こんな嬉しがらせをしてくれるの』と思わず鼻がツン、と痛くなったが、
その背中を押してくれるような声には一度だけ頷くに留めて、しっかりと前を向いた。
(私はゼロの為に動くの。枢木なんて関係ない、あいつなんてどうだっていい、……私は)
ガチャリ。特殊装置である右腕のレバーに力を込め、再度グリップを握る。

「--------行きます」

こちらから通信はされていなかったが、ゼロの耳にも届くように、はっきりとカレンは発進の合図を送った。


























「僕には全部お見通しなんですよ、殿下」
共に地上へと出る道を歩いていたロイドが突然振り返り、後に続いていたルルーシュは息を止めて立ち止まった。
彼とは周りに人が居ないのを確認して、ランスロットの最後の調整に出かけよう、とそういう手はずだったのだ。なのに
順調に駆けていた道を中断するようにロイドはルルーシュの前を塞いで、先を急ぎたいルルーシュはそのロイドという壁に
立ち止まった。
「お見通し?何……?」
手を持ち上げて、前を行こうとロイドの痩せた肩を押しのける。が、彼も本気のようで、立ち止まったままの足に重心をおいて
もうここ何日かろくに睡眠などとっていないルルーシュの痩躯を腕にしまいこんだ。
「っ……、え?ロイド、何するんだ」
抱き込む、というより身体の骨格自体を確認するような動きで、頸から背にかけて触れる手にルルーシュは戸惑いを隠せない。
押しのけようとしても同じだけ薄い胸には、それ以上の乱暴は働けなくて、ただルルーシュは混乱した。
が、ロイドはルルーシュとは反していたって冷静に、腰元へ手をおいて、軍服の上からでもわかる体調の変化に眉を寄せる。
彼女も自分の身体の変化くらい、気づいているというのに。
「……邪推ですが、もう始まってるんじゃないですか」
「な、何が……」
「スザクくんを貴方にたきつけた人間として多少ながら責任を感じているんですよ。セシルくんにも怒られたし、殴られたし、
今は貴方のお兄さんの代わりも務めている。……僕が言いたい意味がわからないかな」
「わからん」
「即答だなあ。ようはこう言いたいんですよ。貧血の状態でランスロットになんて騎れますか」

「……ぅ……」

小さくロイドの肩口に呻きを洩らしたのは、彼の指先が下腹を背中から回した腕で押さえつけたからだ。
(あの薬は取り上げられてしまったからな)
准尉に。彼の部屋までセシルと共に運び込まれたその時に、スザクに抱き上げられた状態で確認しようとしたら
既に男の手によって処分されてしまった後だった。
だから、いまルルーシュがこんな状態でいるのは、薬を服用しつづけての副作用などではない。間違いようもない
遅い初潮の訪れだった。
(何もこんな時に……)
悔しく思う。けして誰かの手をかりなければならないほど立つのが辛いわけではないが、
たまに下半身に物凄い異物感を感じるし、腰に重い鎖を巻かれて、ずるずるとそれを引き摺って歩いているような倦怠感を
感じるのだ。
確かに、こんな状態では。
「ゼロは、あちらの大将は平気で駒を捨てる」
「え?」
幼い頃は慣れたように親しんでいた腕の中だったが、ナナリーが英国から消え去って以来、ロイドとこんな風に
真剣な話をすることもなくなっていた。
顔を上げて彼の表情を覗こうにも、下衆な意味合いなどはなく、ルルーシュの腰をがっしりと押し込んでいるものだから
頸を動かす余裕もない。
そんな状況の中で、低い、けれど細い息が耳をくすぐった。
「ロイド、何で今になってそんなこと」
「だから、何も貴方がスザクくんの為にそこまですることはないんじゃないですか」
「……」
「貴方もナナリー皇子のようにスザクくんを、」
「------------い、やだ」
ぐい、と。あまり乱暴も出来ず、だがいまの全力をもって、彼の肩に置いていた手を前へ押し出した。
「触らないで、触るな……」
「でん、」
「いまは准尉以外に、そういうことされたくない」
包んでいた腕が解けたおかげで顔を上げられた。じ、と黙って見つめてくる銀色が他人のような無機質さを持っている。
けどその中に、彼には珍しく驚きの色合いが、染み出していた、とルルーシュは見つめながら思った。
「俺が女になったからって何になるんだよ」
「……」
「こうなること解ってて、准尉を焚き付けたくせに、お前が一番酷いんじゃないか」
「……」
「もう後に戻りたくないから、俺は准尉を取り返しに行くんだ。心配なんか余計だ。ロイドは……ロイドは兄君と違うから
此処までついてきてもらったのに……!」
先ほど、身体を引き寄せられた際に隙を突いてポケットから取り出していたそれを、ロイドの顔の前にヒラリと翳す。
それはランスロットの起動キーで、いまはすんなりとルルーシュの白い手の中に納められていた。
「殿下……!」
「俺を誰だと思ってる、軍人だぞ」
「足なんか震えてみえますよ」
「気のせいじゃないか。言っただろう、余計な心配は不要だと」
-----------さっさと俺を富士へ行かせろ、と瞬時に色が切り替わった紫電で言外に睨みつけた。
そうして、問答のような対抗のような、そんなものをロイドと廊下の中央で交わしていた所に、
突然政庁本部から入電が入った。

『総督!すぐに地下へお戻り下さい。海岸沖にて未確認世代のKMFが来襲。基地には副総督とギルフォード卿の部隊が駐在
しております』

呼びかけられたその瞬間には、すぐに身体が反応してルルーシュは軍服の裾を翻した。ロイドが、放送で行き渡るセシルの
入電を脳内でメモしながら、慣れない足取りで彼女の後を付いていく。
「殿下!」
「〜〜くそ……、くそ、くそ、くそっ……!」
何度罵ろうとも現実は変わらないことをよく知っている。すぐに地下へと下れるエレベーターまでの距離はそう遠くないが、
さらに捜索している准尉との距離は深まる気がしていた。
(ナナリー、先手を打つよりも逃げの道をとったか!)
未確認世代というのは、きっとあの赤いKMFのことだろう。ルルーシュが初めてここエリア11へ来たとき、そしてナナリーと再会したとき、
その場に居合わせていた姿を思い返す。あの機体が海岸に来ているということは、それを視認した兵士の観察力にもよるが
ガウェインは傍にいないことが解る。ならばそれはきっと、いまルルーシュが向かおうとしていた富士山頂へ向かって居るということなのだろう。
(俺のほうが、俺のほうが早かったのに……っ)
悔しさに奥歯を噛み締めて、下腹部からせり上がってくるような痛みに耐えた。
「貸せ」
気を利かしてか、すぐにも通信しなくてはいけないだろうなと思って襟元に手を突っ込んでいたロイドから、取り出されたインカムを
奪い取る。
すぐにそれを耳につっかけ応答した。
「ルルーシュだ、すぐにそちらまで戻る。輸送隊にはVTOLを準備しておけと伝えておいてくれ。こちらから応援を海に送るのではなく
こちらごと海へと応戦しにいく。特派も港までトレーラーを用意しておけ」
えっちょっとそれはっ……と耳元で女史の声が上がったが、それを落ち着いて聞く間もなく、到着したエレベーターの扉へと
身を滑り込ませる。

ハアハアと荒く上がってしまう息は貧血なのか、興奮からなのか。後に続いてきたロイドも息をあげて、肩を上下させながら
エレベーターのボタンを操作していた。どうやら途中、停止させることもなく直通で地下へと行くようにしてくれてるらしい。
『ははは……』と、空笑いに似た苦笑が口から洩れて、ルルーシュは壁に背を預け項垂れた。卑屈に上がった口端は
何を思ってそうなったのか。これから弟と戦争をしにいくことに後悔の念でも沸いてきているのか、それとも、
こんな風にしか”軍人”を務められない己一人の非力さを嘆いているのか。

ふと、まるで忘れたことを思い出したかのようにルルーシュは天井を仰いで、

「セシルには内緒に、ランスロットもトレーラーに積んどいてくれ」

と言った。

ロイドは(そんなに走った距離でもないのに)疲弊しきった両膝を曲げて床に腰を落とし、背後からされたその命令に
小さく、

「イエス、ユアハイネス」

と堪えた。
直通となったエレベーターが地面をもぐって地下へとつくのには、そう時間はかからなかった。