しっとりとした水音に、数回目なのか解らない覚醒を促された。


確か自分は藤宮と話をしたという美代から辛い訴えを聞いて、居ても立っても居られなくて
そのまま追いかけるように彼女が行くだろう場所を目指した。
生来誰かを探すのは得意である。別に当のその人について深く知っているわけじゃないが、
スザクはルルーシュを探して学校に辿りついた時と同じ錯覚を感じていた。大丈夫だ。
自分が感じてるままに歩いて行けば見つかる、と。
現に藤宮は郊外の外れた墓地に居た。---------そう、彼≠ヘ実家が熱心な敬虔なるクリスチャンで
学校での給食などでは一人だけ合掌はせず胸の前で十字を切っていた。その姿をクラスメイトからは笑われ
隣の席にいた藤宮などは何度も庇っていたりしたが……。そうか。やはり洗礼を受けた後は誰でも
教会の管理する墓地に埋葬されるのか。

スザクは石作りの白い階段をあがって、遠目からは黒い筒のように見える頼りない背中を目指した。
ふじみや、と名前を呼ぼうとして口を開いたところで、そこからブツリと意識が途切れて記憶がない。
ただ覚えているのは、彼女が自分の胸に圧し掛かり、何かの液体をいれたポンプ式の注射器を
腕に突き刺したことだけ。--------頭がひどく冴えわたってきている。

(そうか)

再び水音が近づいてきていた。目を開ける、と、そこには焦がれた紫色の瞳がすぐ傍にあって
まるでそうすることが自然なまでにスザクの首はその人物の細い腕に抱きこまれていた。耳元に名前が囁かれる。
瞬間、
藤宮に刺された右腕が灼熱のような痛みを持ち始めて------------。


丁度一週間前。
一度は受け入れたはずの温もりを、気付いたら全力で突き飛ばしていた。

















そっとやさしさのなかで死んでゆく 










藤宮に何か得体の知れない薬物を流しこまれてから数日、自分のアパートに引きこもって
ずっとフラッシュバックのように強制的に思いだされる中学より以前の思い出に何度も発狂しそうになって
しかもその度ごとに意識を手放していた。
だめだ。こんなんじゃいけない。
スザクが本当にしたことを責めるような目で見てくる彼女に何か返そうとして、
墓地の前で振りかざしてきた腕を抱きとめて、言葉で詰られることも平気だったのに。
しかし実際は想像してたより生半可なものじゃなかった。
右腕からその薬品は全身に広がっていった。その薬品の名前はリフレイン<Xザクに会えない間
彼女はそれを常習していたのだという。『何で』と聞いたら、それは、……中学の頃、スザクが彼女を守るために
傷つけた、彼女が本来本命であったその彼≠ェ、数ヶ月前に死んでしまったからだ、と。


リフレインの効力は想像以上だった。話には聞いていたが、その効力は常習していなくても数日間に及ぶ。
現実と非現実の境目が曖昧になることは勿論、その彼≠フことも、自分が藤宮にしたことも、
自分ですら忘れてしまっていたことも、今を普通に生きているスザクに矢のように振りかかってくる。
だから、出来れば誰にもこんな姿は見られたくなかった。体が落ち着いたら一人で病院か警察にでも
行こうと思っていた。なのに……どうして、呼んでもいないのにルルーシュは一番に見つけてしまうんだろう。

突き離した体。
まさか拒絶されるとは思っていなかっただろう、驚きに見開かれた紫の瞳。
ルルーシュの決して年相応とは言えない小さな体が、浴室のバスマットの上からはみ出して
フローリングの床の上に転がり落ちた。

「……っ」

傷ついた、顔が声が。
中学の頃藤宮の言葉によってすべてのものに対して失望したスザクより、
いや比較にならないほどひどく傷ついた顔をして、唇をぎゅっと噛んで、見つめてくる。
お願いだから状況だけ見て察してほしい。バスタブに顔だけつけて、力の入らない腕でタイルから
身を起し、尻餅をついたまま動かない黒髪を通り越して部屋から出て行こうとすると、
「ばか……!」
そうか。退院してから声が出るようになった喉で待ったをかけられ、
反射で足を止めてしまう。ずぶ濡れのままどこへ行こうというのか。そう言いたいんだろう。
でもどこでもよかった。見っともない姿をこれ以上晒すより、……もう、距離を置いてしまうほうが。
けど、ルルーシュの手はそれを許さなかった。許してくれやしなかった。


ずっと持っていたらしい本を乱暴に床に投げ捨てたルルーシュが、背中に飛びかかってきた。
後ろから首に腕を回してしがみつくように-----------まさかいきなり視界が反転するなんて
思ってもなかった体と足は見事に宙に浮いて、ベッドやテレビのある畳の上にどすんっと音を立て、
そして隣まで響くほどの震動を立てて、倒れ込んだ。
ずぶ濡れになって皺皺の頭を抱き寄せる腕が、畳に擦れた音を聞いた。
なんでこうまでルルーシュが引き留めるのかなんて知りもしない体は、心とは反して
細い体が下敷きにならないように自分の体の上に持ち上げるように抱いて。
ふと視界の端にルルーシュが投げ捨てた本が目に入った。丁度開いたページが集合写真のそれで
心臓が止まりそうになる。けど、スザクの胸に鼻を押し付けながら畳に倒れた衝撃を受け流していた
ルルーシュは、そのページを閉じようとはしなかった。




スザクが学校を中退した後。
藤宮とスザクとタイマンをした彼≠ヘ付き合うようになったらしいが、
彼≠フほうは藤宮を残して先に死んでしまったらしい。
墓地まで藤宮を探してきたスザクは、その墓の前で立ち尽くす彼女の姿を見ただけで
そうなってしまったのだと察したが、誰にもそのことを言わず数ヶ月間一人で過ごしてきた藤宮にとっては
中学からのスザクの変わりようが不思議でならず、きっと許せないものだったのだ。

墓地の前でスザクの気配を感じ、振りむいてきた顔が思い出される。



自分より先に死んでしまうと解っていれば
スザクのほうを先に選んでいたらよかった、と。----------言われた瞬間。


今日までずっと誰に対しても嘘をついてきたことを後悔した。

こんなどうしようもない思いを受け入れてくれる相手なんて。







(居やしない……)

と、ずっと思ってきた。
でもそれがルルーシュだったらいいのに、と思い始めている自分が居る。





(もしも)

自分が自惚れているくらいにルルーシュも自分を好いてこのアパートまで会いに来てくれたというのなら、
どうしようもないこの思いを含めて、その彼の体の中に吐きだしてしまいたいものが一杯ある。

欲でもいい。
自信はない……けど、愛情なら、もっといい。
そして、もし出来れば、汚れてても構わないものでもいいなら、


(僕が本当に好きな相手は)

今も昔も
ルルーシュ・ランペルージ以外に居ない、と。
------------知っていて。
藤宮より先に死んでしまった彼≠ニ同じ死ぬ運命だったとしても
この思いを告げることに後悔はないから。


むしろそれだけが、暗い雲に覆われた過去になんか塗りつぶされない
自分の真実。









「……、?」


どうやらリフレインには、忘れていた過去を現実のように呼び出すことのできる作用の他に
ありもしないことをあることのように感じる幻覚も感じられるようだった。

ルルーシュにキスをされている。


風呂場の水道でびっしょりと濡れてしまっていたシャツを
首の下まで捲りあげられ、頭からすぽんっと脱がされる。



いや……幻覚というより、スザクがずっと望んでいたことがそのまま起こってるような、
都合のよい妄想が現実になっているんじゃないか。
でもいいかもしれない。
単純に嬉しかった。
これが夢でも、先週病院で約束した『あの日の続き』ができるのだから自分にとって思いが伝わること以上に
嬉しいことに変わりはない。

キスで重なった唇の隙間から息を吸って、スザクは体勢をルルーシュと逆転させた。
ルルーシュが自分から脱がした上半身は裸で、リフレインを差し込んだ傷口からは
しとしとと血が溢れ、細い筋となって流れている。紫電がそれを心配そうに見ていた。
けれどそれを黙って受け流し、スザクは、濡れた前髪を掻きあげてクリアになった視界で
改めてルルーシュの顔を見る。

現実か夢か。

「来いよ」

(夢でもいい……)


「抱かせてやる」






泣かせてやる。









-----------そう聞こえた気がしたから。
























情緒不安定。アパートに入り込んだのがルルーシュだとも解っていないような虚ろな瞳で
それでも、自分と距離を置こうと去ろうとしたところを引き留めた時、まるで庇うように
畳の上に下敷きになったところを見て、安心した。水に濡れた服にしがみついて
どんなスザクであっても受けとめようという気持ちをまた新たにする。

スザクが一週間居ない間、堪らなく不安だった。
何かの薬品を体に打って今のような状態になっているんだと見ただけで解った。
だから、きっと、自分が不安で仕方なかったぶん、一週間もの間こうして自分自身を追い詰めたスザクも
辛かったのだから、それを放っておくなんてできない-----------例え今目の前にいる自分を
別の誰かに重ねてたとしても、構わなかった。


「抱かせてやる」


(こんな辛い状態の時に一人にはさせない)



本当は、こんな形で結ばれることなんて本意ではないのだろうけれど
こうすること以外に落ちつけられる方法なんて見つけられなかった。


(いいんだ)



例え薬のせいで全部---------

覚えていてくれてなくたって。









「ん……あ、ぁっ……」

視界が自分を組み敷いて動くスザクの影にゆらゆらと揺れるのに、彼がもたらす刺激のせいで
感覚だけはいやに鋭く意識だけはハッキリとしていた。
自分も服を脱がせたのだから、当然スザクだって脱がすだろう、と思っていた通りに
ルルーシュの着ていたものはパーカーから下着まで全部脱がされて
畳の上に放られて、そして、肝心の中身である体のほうは今持ち主とともにスザクのベッドの上にある。

どこを今触られているのかというと、正直よく解らなかった。
部屋の照明をつけていないというのもあるけど、恥ずかしさで殆ど顔を覆ってしまっているというのが
大分でかい。

「うぅ」

先ほどひと際大きく声が出てしまったのは、多分、一週間前抱き合って眠った時には触られもしなかった
部分を甘く噛まれたからだと思うのだが。
そう、噛まれたところがじくじくと痛い。痛むから、どこをどう噛まれたのかが解ってくる。
下腹部と股の付け根の中間……、男にしては細身であるせいでガリガリに浮き上がった腰骨を
噛まれて、--------そして、お腹の上を撫でて彷徨っていた手は、ルルーシュの中心に触れた。
「!」
咄嗟に顔面を両手で覆ってた手を片方外して、ベッドの手すりの柱に伸ばす。
何かを掴んで耐えていないととんでもないことを口にしそうで怖かったのだ。
そしてその掴んだ瞬間、そのタイミングを見計らってたかのように、中心に熱くしっとりとした何かが包まれる。
水音が耳に届いて、ちゃんと見なくても何をされたのかが解った。
「や、……あっ……」
だめだ、やだ、と思う前に体で感じている刺激が全部頭の中に飛び込んでくる。
ハッキリしていた意識がどんどん別の方向へ持っていかれて、おかしくなる気もしてくる。
スザクが夢中で口に含むのに、膝がびくびくと震えだして
手すりの柱を掴んだ手は気付いたらしっとりと汗ばんでいて、
手だけじゃなく首や胸にも粒のように浮き出ていて、まるで普段の自分からは想像もつかない
姿態になっていた。
「んっ、んっ、ん、ぅ……やっ……やぁ」
舐められたところが別の生き物みたいにふにゃふにゃになっていて、
露骨なほどスザクが自分を追いたててると感じる。
でも多分彼はそんなつもりなんて無く、ただルルーシュを気持ちよくするために奉仕して
くれているんだろう。……そう、思うのだが。けど。
(想像してたより、恥ずかしい)
やっぱり実際に体験してみないと、感覚というものは想像では準備できないものだった。
現にもうスザクの口と手と舌に奉仕されたものは限界が近くなってきている。
先端から我慢しても液が溢れ出してきていて、しとどに股を伝ってシーツを汚していた。
(嘘だろ)
手すりを掴んでいる力は緩めず、顔にあてていた手を外して、そっと目を開けてみる。
ルルーシュの足を押し開いて、震えていた片足を肩に担ぎあげたスザクの頭が
まだ下腹部に埋まっているのを紫電でとらえた。
(〜〜〜も、ちょっ……無理だってば)
全身吹き出す汗で、顔の赤面具合なんてスザクが関知しないことなのかもしれない。
ただ恥ずかしさや、初めてのことに対する羞恥は解って欲しくて、自分の目に映した初めての今の光景に
どうしようもない涙が零れた。
けど、追いたては続く。
「ふぁっ、や、やぁ、だって、ば……ぅんっ……う」
生理的な嫌悪と、本能からくる解放への期待が綯い交ぜになって、無意識に腰を振っていることにも
気付かず、びくびくとシーツの上で震えて泣き言を洩らす。
こんなに最初から刺激が強いものだと知っていたら、もう少し考えて行動していた。
なんて少し後悔しだしたことに気付いたのか、震える肌と湿っぽい声に遠慮を感じでもしたのか
中心からそっと顔があげられる。
目と目が合って、泣いていることにも気づかれて、ベッドに全裸に近い状態で寝転がされている状況で
どうしたらいいか解らず、ルルーシュは硬直した。
でも、やはり、気持ち的にリードをして安心させてもらいたいのはルルーシュのほうである。

「……ん」

快楽に気持ちにこれからへの期待にぐちゃぐちゃになった泣き顔をあげて
シーツから起こされたのは、見つめ合ってから数十秒したあとのこと。
ベッドの手すりに縋っていた手は、今はスザクの手に絡められている。
一瞬高まった熱に朦朧としていたが為に状況についていってない頭は、ようやく
スザクに目元に溜まった涙を舐められて、理解した。今置かれてる自分の状態を。無意識に、
スザクとは繋いでないほうの手で彼のものを触っている。
(わ!ええっ……)
未経験とは恐ろしい--------熱に浮かされた子どもみたいに、自分が何をしてるかも解らないまま
こんな大胆なことを。
彼のほうもまた無言だから恐ろしい。泣いていた顔でまた真っ赤になった視線をどこに向けていいか
解らず、繋いでいた手をぎゅっと握りしめて自分の行動の恥ずかしさに俯くしかなかった。
「……」
でも、触った感じ、スザクのほうも限界が近い……。
行為をはじめた頃から既に恥ずかしさで顔を直視することもなかったから、表情は窺い知れない。
けれどスザクのほうもルルーシュに触れられて満更でもなさそうで、
耳元に不意にかかった熱い息が、自分と同じ状況なんだと教えてくれて、思わず胸がぞくりと冷えた。
(こんな、気分で)
世間のカップルはセックスをしているのだろう。
たまに相手の主導権を奪ったりもして、自分の欲も晴らして、また相手の欲も受け止める。
なら、別に自分のしていることは(例え藤宮詠子の代わりでも)全然虚しいことじゃないように
思えた。
「……」
「……」
「え、と」
恐る恐る、被せるような軽さで触れていたスザクのものを、手のひらで包む。
瞬間向かい合わせに座っていた肩がびくっと跳ねた気がした。仕方ない話だ。顔なんて直視する
勇気もなく自分で脱がせた胸ばかりルルーシュは見ているのだから。
「お、俺も、やってみたい、から」
また何言ってるんだ、なことを言いながら、スザクに了解もとらず包んだ手を前後に動かし始める。
そうしたら徐々に熱を帯び始めて硬くなって先端が天を向いてきた。何か、それを見て、得体の知れない嬉しさに
胸が高揚しだす。
(なら、こうすると、気持ちいいのかも……)
逸るスザクの息づかいに気持ちが高まってきていた。だからこそ出来たことかもしれない。
ゆっくりと腰をあげて、スザクに奉仕されて濡れそぼっていた中心を、スザクの熱に擦りつけた。
「ぅ、ん、っ」
「っぁ……」
二人同時に声があがった。
そうだ、これなら一人で混乱したり怖い思いをしたりすることもない、と思って
繋いだ手は外して、両手でスザクの肩に腕を回し、胸をぴたりと重ねて
また腰を振りだす。
「ん、んん、-----------あっ……!」
お互いの少しだけ形が違う性器がしっとりと汗ばんだ肌の間で擦れあって
先ほどよりももっとずっと夢中になれた。
「はっぅ、うっ……うっ、あ、あっ……あ、……はっァゃ、ぁんっ……!」
グラインドを強く。手をほどいたことによってスザクもまた両手でルルーシュの腰を引き寄せて
上下に動かしはじめた。
「あっはっはぁっあ、う、うん、ん……っ」
こんなはしたない声、勿論姿も、誰も自分たち以外に見てる人なんて居ないと解っていても
恥ずかしさとは違うある意味での申し訳なさに、気持ちのほうがまた体と同じだけ追い詰められていく。
けどそれ以外にも、体も気持ちとは別の所にある心そのもののほうが、
こうなることができた嬉しさにとくとくと鳴っているような気がした。

擦れあった箇所どうしが、どっちのものかの境目もなくなって、一体化したかのような感覚に陥る。
お互いに腰を振り出すから、部屋中のものがきしきしと鳴っていた。
抱き合ったままで耳に触れる息も、はぁはぁ、というものから、切ない動物の泣き声みたいな
形容しようのない音になりはじめている。

くるしい。でも、スザクも同じ。

むしろ彼のほうが辛そうで、まだズボンは履いている膝にルルーシュの太股を抱えて
背中を抱きながら秘所を揺する動きは、もう、スザクだけのものになっている。ルルーシュは
両手でしがみ付くだけ。
「は、--------ぁ、あぁ、ん、ん……っく」
そのしがみ付いた手にきゅ、と力を込めて、そろそろ来るだろう絶頂に目を閉じた。
ぐっ、と背中を抱く力が強くなる。
ぱちぱち、とこめかみに何か弾けるような音がした瞬間、口からめいっぱい酸素を吸い込もうとして開けたら
突然体を離したスザクに唇を塞がれた。
「ん!んっ、ン……」
(うあ……っ)
スザクの必死さが伝わって『離れたくない』と思う自分の気持ちも伝えようと
首に回した手に力を込めて、二人同時の絶頂を迎えた。
どくどくっと粘着質な液体が、下腹部から胸、首、顎へと飛び散る。
相手のものなのか自分のものなのかも知れないそれの熱さを感じながら
体中に弾けた精液を、冷静になりだした頭で見降ろした。

突然のキスに受け身がとれず、絶頂を迎えた瞬間、ルルーシュは強く股に力を込めてしまった。
おまけに顔の角度も変えられなかったせいで歯もゴチンとぶつかるし、
受け止めきれなかったスザク側のそれが、スザクだったら顎くらいにしかかかってないのに、
座高の関係で自分には鼻にまでべっとりとついている。
自分も吐き出したのだからお互いさまだが、さすがに鼻につんとくるにおいもついてくると
少し情けなかった。
-------------まあ、だからというか……決してその思いを汲んだわけだからではないが
『うう』と唸るルルーシュの口にまたスザクは自分のものを重ねてきた。嬉しいから今度こそは
角度を傾けてルルーシュのほうも唇を吸う。
が、今度はそれだけではなく、一度唇を離した後、ぺろりと伸ばした舌でスザクはルルーシュの鼻についたそれを
舐めとった。
「!!……っお、ぁ、ちょっ」
何するんだ。
と、肩に触れたままの手で拒もうとしたら、ぺろり、と、顔についた精液全部を舐めとられる。
(や……やだばか……)
別に気持ち悪いとか思って眉間に皺を寄せていたわけではなかったのに。
舌での清掃は暫く続いた。
両手で顔をぴったりと抑えつけられて、まるで犬が飼い主にじゃれつくようにぺろぺろと
舐めまわされる。
唇も同じくぺろ、と舐められて、変な声が出そうになった。
しかも先ほど出したばかりだというのに、そんなことを間隔もおかずされるものだから
もう中心が元に戻り始めている。
はじめてのセックスだというのに最初から元気すぎやしないか、と
まさか思われていないだろうが『淫乱』とか言われたらどうしようか……
思わずパッと顔を反らして赤面した。スザクもようやく舌での清掃をやめ、
ルルーシュを見る。
「ねえ」
……この部屋に来てからはじめて声が掛けられた。一週間ぶりの音に
びくっと肩が跳ねる。俯いていた顔をあげる。胸が高揚とは違う意味で騒いだ。
「こんなこと、もしかしたら駄目なのかもしれない」
「え……」
(どういう意味)
視界に文集の表紙が目に入る。あれを気にしてるのか?ここまでやっておいて。
そんなわけない。今更すぎる。もうルルーシュは治まりがつかないところまで
スザクのことを好いてきてるっていうのに。
ほんとうに------------今更。


引き返すなんて、しようとするな。



ルルーシュはスザクの膝から退いて、彼のほうへ背を向けて、ベッドの手すりに手をかけた。
そして腰だけをくい、と突きあげるようにして、顔だけで振り向く。
目が合ったスザクの瞳は見たこともないくらいに開いていた。
そりゃそうだ。これこそ正に、淫乱っていう……。
ルルーシュはどこかそんな自分自身を自嘲しながら、耳を澄ましてよく聞けば
少しだけ語尾の震えた声で呟いた。
「高校の頃、生徒会で……そういうビデオ見て知ったんだけど、男同士は、ここ……使う、ん、だろ」
どちらのものか解らない精液で汚れた秘所を見えるように、腰を動かす。
ついでに指だけでそこを左右に押し開いて、中の状態まで見えるようにした。
ごくりと唾を飲み込んだ音がして、また、ぞくりと背中が粟立った。
「まだ、終わりじゃないだろ」
「……」
「はやく、朝が来る前に」

(俺をお前のものにして)


滅多なことでは人に見せない部分を晒して、気持ちは先ほどの倍くらいの羞恥で一杯だった。
けど、やっぱり、藤宮詠子の代わりになんてなれないと思うし、……また、なりたいとも
心底思わなかったから。
「はやく、スザク」
名前を呼ぶしかもう道はないと思った。
ルルーシュ自身の孤独を埋めるためにも。




















「ちょっと反省するべきね」

千草は扇が勤務から帰ってきたその矢先に自分が淹れたコーヒーを啜って
一言そんなことを洩らした。
「何だよ、突然」
「別に突然じゃないわ。ルルーシュくんがジェレミアの仕事を請け負おうって決めた辺りから
ずっと思ってたことよ。貴方は世話を焼き過ぎる性格だから、自分の行為が大きなお世話だってことに
気づいてなかっただけ。本当なら、もう、いっちゃってるとこまでいってていい時期だわ」
「だから何の話だよ」
「勿論、貴方と二人きりの時に話す真剣な話なんだから、スザクくんたちのことに決まってるでしょ」
さっきルルーシュって名前出したじゃないの、と千草が夫を前に嘆息した。
扇は仕事の疲れで眠そうな目を擦って『そうか』と無言で頷く。ここ暫くスザクのほうは仕事を休んでるというし、
まさか。
「お、俺が言ったことまだ気にしてんのかな」
「何を言ったの?」
「いや、スザクのほうからは『ルルーシュとはそのうちヤる』ってのは聞いてたんだけど
ルルーシュに対してはな……あいつが代役で主演務めたあの時の舞台のこともあってちょっと厳しいことを
言ってしまったっつー自覚はあったし……。そもそもまだ劇団に戻ってきてもいい、とも伝えてないし。
色々厳しくし過ぎたかな、と」
「かな、じゃないでしょ。ルルーシュくんももう成人になったんだから自分の自由で何してもいいって
決まってます。何ですか?恋に没頭すると舞台を平気で放棄する役者になるだなんて。
私たちだって同じような関係だったでしょう?」

千草がまだヴィレッタという役名で人生を生きていた頃。
現実も舞台も曖昧なまま他人に対して振舞っていた彼女を強引に引退させたのは
ジェレミアとひとつの劇団を作ろうとしていた扇だった。

「私に言った言葉忘れたわけじゃないでしょ」
「……まあ、うん」
「反省するなら、その時の言葉思い出して、自分も自戒して」

貴方はほんと他人ばっかり、と後に続けて言った千草は、
------けれど、ジェレミアに対しては決して言えないようなことを普通に喋れているのに気付いて
扇には見えないように小さく笑った。

















卑らしく相手のほうへ晒した秘所をゆっくりと時間をかけて解されて
一度だけまた達してしまったその直後にルルーシュはその体に、スザクの熱を受け入れた。
--------ぐ、と入ってくる時、一瞬の浮遊感があって、視界が真っ白に染まった。
だがすぐに腰をグラインドする動きに体を支えるために掴まっていた手すりを両手で抱きしめ直して、
激しいその抜き刺しに耐える。
「っ……く、あぁっ」
耐える。-------けれど、あまりにも体格に差があるためか、腰からせり上がってくる熱の感覚に
体を動かす力がうまく働かなくなって、両手からずるりと力が抜けてしまう。
手すりから離してしまった上体は倒れて、腰だけスザクに支えられたまま、激しく突き上げられた。
「やっ、やぁぅん、んっ、あ」
「……っ、」
スザク、スザク、とうわごとのように息つぎの合間にシーツに顔を押しつけて呟くルルーシュに
腰を抱えていた手を外して、自分の熱を腹内でぎゅ、と締めつける力に息を洩らしながら
スザクは痩躯をシーツと自分の間に挟むように自分の体を折り曲げた。
自然とその体勢になると、侵入したスザク自身が手前がわに強く擦りつけられることになる。
それがまた背中に寄った温もりと同じくらい堪らなくなって、ひと際大きい嬌声をあげた。
シーツを握り締める手が、びくびくと弛緩しだす。
涙が堪えようもなく溢れ出して、いつの間にか頬がつくほどに寄った唇に
また掬いとられた。
「あっあっあ……や、だめ……っぇ、スザク」
願っていた接触なのに、別の誰かを考えたままのものでもいい、と思ってやっていることだから
元々高望みなんてしてなかった。
でも、知らず、名前を呼んでしまった。口づけられる。また呼びたいと思ってしまう。
そんな優しさ。解放が近いからまた余計にスザクの心のほうを
独占したくなってしまうのか。
(……でも)
出来れば、スザクだって。
「う……も、もう、だ……あ、あぁっ、ぅあっ、ア……!」




名前で呼んでくれたって。



























気付いたら、もう朝だった。
中途半端に体を重ねただけで熱の交流はなかったルルーシュとの初めての行為は
想像もつかないほど胸が苦しくなって、予想しなかったくらい相手の熱に焦がれた。
本来だったらスザクのほうが余裕を見せて色々ルルーシュに教えなくちゃいけなかったのに
ルルーシュのほうはベッドの上--------未だにスザクの腕の中で眠っている。
リフレインの副作用なのかもしれなかった低体温は随分と回復して、おまけにルルーシュ自身も
抱きしめてるからとても温かくて、気分のほうも大分よくなっていた。

行為の最中、一度だけ我に返って、セックスをやめようとした。
それにもしかしたらルルーシュには幻滅させてしまったかもしれない……しかも
誘惑に近いような真似までさせて、心底わるかったと思っている。だけれどそれは
スザクにとってどうしようもなく仕方なかったことだったのだ。

もう二度と、あんなことは口にしないと約束する。
もし二回目があったとしたら、目一杯、頭から爪先まで愛すると約束する。
そしてもう一つ、だけ、笑顔を。


涙を隠すためのそれではない、心から素直に出る表情を、
偽りなく見せることを誓いたい。


そんな普通のことができる相手だと思うから。



「好きだよ、ルルーシュ」