人間、本当に『驚いた』経験というものは、中々訪れることはないと思う。
だがモニカの今目の前に起こっている出来事は本当だった。起こって、というより、
モニカの度肝を抜かせた人物が怒って≠「る、と言ったほうが自分の状況を示すよりも
今の状態を現してるかもしれないが。
「ルルーシュ。ほら、謝るんだ」
肩口まで袖を捲った紺色のジャケットをはおった栗色の頭をしたその彼≠ヘ
どんな仕事をしているのかは知らないが少しくたびれた顔をして、横にいるルルーシュを見ている。
「……、悪かった。怒鳴ったりして」
もう二日ほどしたら公演を迎える舞台の相手役である彼、ルルーシュのその彼氏枢木スザク≠ェ
わざわざ劇団の事務所にまで来て、ルルーシュともども二人でぺこりと頭を下げに来ていたのだ。
……え?ええっ!?と突然の事態に慌てふためく当人をよそに、
枢木スザクのお冠した顔は中々普段の穏やかな顔には戻らない。横に居るルルーシュが大人しく頭を下げただけでは
気が済まないのか、もっと何かあるだろ、と言いたそうな視線をして、じっと見降ろす翡翠の端を鋭くした。
「稽古場ではいつも扇さんは何て言ってる?協調性をもって、自分がどんなに疲れていても回りには当たらない、
そう言ってたよね」
「全くだ」
「それが出来てないのは若いから≠チていう理由にはならないんだよ。扇さんに恥ずかしくない程度に
振舞う必要がある。……オレンジさんのやり方が気に入らないなら尚更ね。僕の言ってることわかる?」
「わかる」
「なら、モニカさんは君のストレスと関係ない。それをちゃんと言わなきゃ。はいやり直し」
「……」
ルルーシュの彼氏と謂われている枢木スザクを初めて見たが、まるでお兄ちゃんと近所で仲良くしてる男の子(弟分)だった。
目をパチパチしながらルルーシュの次の行動を見る。彼はスザクに一息の早さで淀みなく言われたことに
瞬きをして頭のなかで暫く時間をもって租借していたが、ふっと息をついたその後に、数日前モニカの心を鷲掴んだ唇で
『今度こそは』と、しっかりと謝った。
「俺と舞台をやるには力不足だとか言って……ごめん。稽古も無断で休んだりして、何て言っていいか」
「い、いいのよ、そんなに畏まらなくて……。私こそ、ルルーシュの空気に呑まれちゃったんだから、役者としては格が低いわ」
でも、わざわざありがとね、とほっと肩の力を抜いて笑いかける。途端、それを目にしたルルーシュも
優しく紫電を細めてくれた。
「頑張ろうね。私、純粋に楽しみなの。ルルーシュからは一杯いい刺激を受けれて……、だから、」
「ああ、俺も頑張る。モニカの頑張りに恥じないように。……もう、あんなことは絶対言わないから」
「うん」
じゃ、仲直りだね。
普通だったら、電車が動きはじめたのと同じくらいの時間に男二人で女のもとへ押しかけてくるなんて、非常識だった。
だが、突然外へ呼び出してきたのは、こんな何てことない用事だったのか、と、
目の下にお揃いの隈をつけるスザクとルルーシュを見て、もう心に感じた鬱積なんてモニカにはなくなっていた。
モニカがルルーシュへ差し出した手に迷いなく白い手が重ねられる。
二人舞台というのはこういう時寂しいものだけれど、舞台がぶじに成功するよう祈願を込めて、
重ねた手のひらから二の腕を通って、ごつんと肩を寄せ合って俯いた。二人でする二人だけの公演に向けた、円陣だった。
しずく 7
「モニカさん。意外と美人だった」
「そうか?まあ、基準は満たしてると思うけど……」
「初恋が自分の妹とか言う君の女性基準は僕より比べると高いと思うけど……。いい人そうだったじゃないか、
モニカさん。そんなに日はないだろうけど無事成功するんじゃないかな、二人の舞台。ね」
ルルーシュに不要なストレスを強いたジェレミアはともかく、
『ルルーシュと同じ舞台にたちたい』と願うあの女性は、ルルーシュと同じだけ舞台に対して真摯に向き合ってるように思えた。
謝るだけ謝って、ようやく始発が動きだした駅に向かって歩いてる自分たちがのんびりと思うことでもないが、
-----------すべてはただの行き違い、なべて世は事もなし。そう現してしまうには充分な夜明け。
「……なあ」
「ん?」
「さっきのことで、まだほじくり返して言いたいことでもないんだけど」
午前十時から始まる予備校に間に合うよう、駅を目指して歩いていた歩調が途切れた。
ルルーシュが立ち止ってスザクを見た時。朝かホームヘルパーの仕事がない昼間しか休むことができない
スザクの少しくたびれた顔を見上げて、……言おうと思って開きかけていた唇が、不意に閉じた。
『あの女は誰だ?』
ルルーシュの不安の原因は、メールや電話が途切れたということだけではない。
この間、モニカに怒鳴りつける前の夕方。行きかう雑踏のなかで見た見間違うことがない彼の姿と、
見たこともない女の姿。
普通に話し合っているだけなら見過ごすこともできた。けれど、そうじゃなかった。抱き合っていた。
倒れかかったその細い肩を、自分にもするように優しく包んで、人波に酔って具合の悪くなったような体を抱きとめて。
初めてそれを見た時、自分のものだと豪語していたものが、初めて自分のものではないような感覚がしたのと、
-----------スザクが本来はスザクだけのもの≠ナあることを実感させた。
思いあがりとモニカに言えたけど、むしろその点で思いあがっていたのはルルーシュのほうだったのだ。
(もし……)
見つめる紫電の先がゆるむ。不思議に自分へと向いてくる翡翠に戸惑う心を何とか見せないように
抑えつけながら、正直にスザクに聞いてみてどうなるのかをシミュレートした。
『大事な人だ』
そんなこと、言われたらどうしよう。
言えない。
スザクには俺の知らない関係があるのに。
それを自分自身で堀り起こしてしまうのは……。
「あ、……」
「どうしたんだい、何か、したの?」
「いや」
なんでもない、と言おうとして、口からまた溢れそうになった言葉を慌てて手で塞いだ。
蒼白する。自分の心にも想像だにできないあの女とスザクの関係も。でもそれを知ること以上に怖かったのは、
スザクの中での一番がルルーシュではない、と自分で知ること。
人付き合いが中々うまくない、ルルーシュ。
そんな自分が初主演をした時、背中を押してくれたのはそれまで一度も会話がなかった大道具係のスザク。
(俺にはお前しか居ないのに)
夜の学校の玄関でわんわんと泣いてしまうほど気持ちを許せる相手は。
……そんなことをしても幻滅されないと、安心……できる、相手は。
「あの、ルルーシュ?」
「いや、……その」
「……」
「わるい。何でもないんだ」
そう。
------------何でもないことにしてしまおう。
せめて舞台が終わるまでは。
せめて、扇からもスザクからも自立していこう、と頑張っている間だけは。
まだルルーシュのなかでだけ納められている間だけは。
でも……。
(耐えられなくなったら、どうなるんだろう)
俺は。
*
ルルーシュの様子が少し変だった。
やはり隠していようとも、年齢差は現れてしまうものなのか。
スザクのルルーシュへの口ぶりに、それを目の前で見ていたモニカは、ルルーシュの見ていないところで
何かに勘づいたかのようにくすくすと笑っていた。
まさか、
少し大きな態度で接しすぎていただろうか。
扇や千草だけが知っている、ルルーシュとは三歳差≠セということを、彼女はすぐにも見抜いてしまったということか。
-----------しかし別にその笑いはそういうことを現しているわけではなかったようで、
スザクを見つめ返す青い瞳はただ純粋にスザク自身を検分してるかのようだった。
『私、ちょっと意外でした。ルルーシュって年齢からしてみれば少し気丈なところがあるから
彼氏さんってきっともっと弱弱しいようなイメージだと思ってて』
『はあ』
彼氏さん、って、ルルーシュはもうそこまで話しているのか。
モニカと話す後ろで、スザクが持ってきた弁当の袋をぶらぶらと揺すって朝日のほうを見ている背中が
やけに希薄に感じた。
『でも結構立場的には強いんですね。ルルーシュのごめんなさい≠ネんて、想像もしなかった』
『ははは。彼はもっと人に謝るべきだと思うんです。ちょっと強情すぎるところがあって、根は素直なんですけど』
『そこが可愛いんじゃないですか』
『先に言われてしまいましたね』
にこっと返された一言に、苦笑するしかない。
モニカがしてきた返しに同じだけおどけたようにスザクは返してみたが、……しかし、
モニカや扇が思っているほど、スザクはルルーシュに対して大人だとは思っていなかった。
(だってまだ言えずにいる)
この関係をながく続けるなら、とっとと部屋にも招き入れて、身分証明書でもちらつかせて
謝罪すればいいんだ。三年も付き合っているというのに、三歳も歳が離れてることを隠して、しかも、
その奥にあるもっと大事な思い出も話さずにいるなんて。
本当は僕のほうこそ嘘つきなんだ。
藤宮のこと、中学を卒業せず中退したこと、……
ルルーシュ。
君のこと劇団に入る前から知っていたこと。初めて話をした時だって、君がいつもあの坂を通ることを知っていて
あの弁当屋で働いてたんだ。
すべては、他の人よりも少しだけかしこい頭で、都合よく、彼と接する機会が増えるように算段して
過ごしている。
こんな人としてずるい部分を知っても、君は君のままで居てくれるか。
黙っているなかで、それが一番怖かった。
「……、あ」
駅から少し離れたところで、人通りも激しくなってきたし、その辺りで予備校へ行くルルーシュと別れた。
とぼとぼと道をユーターンして、駅に面したショッピングモールのほうを歩いて行く先で、不意に見上げた大きな広告看板に
足が止まる。
『じゃあ、ここで』
『うん。勉強がんばってね』
『お前も、ばーさんの相手ばっかりしてないでちゃんと寝ろよ』
自分が昔使っていたお古の野球帽を被って、別れ際にそんな軽口を言いながら去っていくルルーシュは
いつもより少し急ぎ足だったと思う。
……なんだ。
これを僕に見られるのが恥ずかしかったのか。
大手企業広告専門の印刷会社であるLAND-PIT社のロゴが貼られてあるポスターに、
黒地のシルクを素肌にそのまま巻きつけたような格好をして、鑑賞者を真っ直ぐに見つめてくる
一羽の蝶のような姿をしたルルーシュが、そこに居た。
(うわあ。広告のポスターモデル、とは聞いていたけど、これ用途を間違ったらグラビアのポスターみたいなんじゃないか。
ていうかすごい。ルルーシュすごい。まるで女の子だよ)
感嘆に、そのビルの四枚分ほどの窓に貼られたポスターを見て、本人が聞いていたら赤面しそうなことを
のんびりと思った。
でも確実に女の子とは違うのは、やはりその視線の強さと、肉付きのわるさが目立つ……しかしそうだからこそ
柔らかそうに感じる二の腕のラインと、シルクからはみ出た両脚のスラッとした長さだった。
あんな姿をしてるのを見て『綺麗』とばかり褒めることはできないけれど、でも、
やっぱりルルーシュのことを、自分は好きなんだと思った。
(中学の頃。僕を嫌っていた幼馴染と付き合っていた頃の藤宮を憧れていた気持ちとは違う)
多分、本当に大事で。
でも大事すぎて、弟のように接することしかできない。
そんなままでいいとは絶対に思っていないけれど。
「へえ。これが恋人さん?」
「!」
突然声を掛けられて、もうゆうに10分はポスターを見上げているんだと気付いた。
慌てて後ろを振り返ると、記憶の端に蘇った幼馴染の彼女、藤宮が、少しだけ大人びた現代の姿で立っている。
ぽかん、とした顔のスザクを見て、鳶色の瞳を弓なりに細めた。そうだ。彼女の笑う仕草が
どことなくルルーシュと似ている。
何で藤宮がここに。
「あれ?言ってなかったっけ……私、ここのビルに勤めてるんだけど」
「え」
「ランドピット社。カルチャー雑誌中心の部署で、舞台とかコンサートとかの情報を集めて毎月本にしてる。
勿論、あなたの恋人さんのことも調べさせてもらったわ。転勤して最初の仕事がそれだなんて、何か偶然にしては出来過ぎてるわね」
頭が、言葉は理解できるのに理解することを拒んでいて、どこかぼんやりとしていた。
藤宮の畳みかけてくる言葉たちに首を傾げることも、まさかなんて言って笑い飛ばせることもできずに
スザクはその時無様に固まったままで、何て返せばいいのかも解らずだった。ただ一言言えるのは、
藤宮がポスターを見ながらも見ているのはそれを眺めるスザク、ということだけで。
やはり……彼女が昔とは違う彼女であるのだ、と思い知った。
思い知ることなんてしないまま、ただ昔のことは昔に起きたこととというだけで、蓋をしておいてくれたら
よかったのに。
それ以上はきっと、望まない。
*
美女は、海神から金銭と豊かな土地……そして限りない財力を受け取った両親や村から、捨てられた。
泉鏡花原作の『海神別荘』は主人公である海神である男を礼賛する印象があるが、
前半のそんな印象とはうってかわって、劇の後半からは、海神のもとに嫁いできた美女を憐れむものになっている。
海の底では絶対君主たる麗しき王。
紅珊瑚の女姓からは公子≠ニ呼ばれていた。
彼は人間である美女に陸の上で心を奪われ是非自分のものにしたいと思った。最初は美女は公子の力や
喋り方、ものの考え様にひどく怯えていたが、珊瑚の化身や公子から振舞われる料理たちに次第に心を解いていって
もう『地上に帰りたい』とは言わなくなった。
だが不意に、公子が口を滑らせる。
「お前を売った貴女の両親などより、さぞ私たちのほうが人間味があるだろう。
もはやあれは人ではない。人のツラをかぶった貪欲の鬼だ」
美女は我に返る。
公子が止めようとするのに、『ただひと目自分の姿を見れば、親も村人も自分への情を取り戻す』そう言って。
だが……。
親は、村人は、
海の底から這い上がってきた美女をもう人間だとは思わず。
海神である公子と同じ獣を見る視線で、無数の石を投げつけたという。
「旦那さま」
「哀れな、ひとだ」
珊瑚の従者が美女の帰還を知らせると、
公子はぐったりと地に伏せる美女の体を冷たい海底から持ち上げた。
腕も足も、目元も耳の先も、すべてが獣のように海の人間になってしまった美女を
……抱きしめる。
「あんな場所に貴女の望む極楽はない。この世の極楽は、此処にしかない」
そう言って、涙も枯れた顔を寄せて、公子は自分へと視線を合わせる。
「わたしと貴女の極楽は此処にしかない。この世の極楽は此処にしかない」
どこか遠くで、さざめくように耳を打つ波の音を聞きながら、
うっとりと美女は目を閉じて公子の手にかかって死んだ。
彼女が一番幸せだった瞬間は、公子の腕の中で息を引き取った時だったかもしれない。
-----------その本編を改変した『しずく』の脚本では、美女となるルルーシュが最期を遂げるのは
やはり原作に沿った通りの流れで、公子の胸元で恍惚に目を細め、剣で串刺しにされていた。
極楽≠ニいうのはセックスでいう絶頂の瞬間を例にとるのが一番わかりやすい。だが、まだ一度もそれを経験してない
ルルーシュには、多分、この脚本に書かれた通りの内容のほうが余程想像がしやすかった。
すなわち、ルルーシュにとっての極楽≠焉A『しずく』の美女の結末と同じ。
そう考えると自分が少し女々しく思えるけれど、でも、美女と同じ末路を辿っても全然悔しくなんて思わなかった。
最高じゃないか。
「ルルーシュ。リハだよ」
ぱたん、と台本を閉じて、着付けてもらった着物の裾をひきずらないように纏め、モニカの後を
小走りに付いていった。その数分前までルルーシュがしていた事は、セリフのチェックでも
劇中に動く振りつけを反芻していたわけでもなく、ただ、思い描いてただけ。自分がスザクに殺される瞬間を。
(挿れられるのと……同じくらいなのかな)
公子役の衣装に身を包んだモニカの背中が、思い人のものに一瞬重なる。
役の心情と完全に一致したことなんてこれまでの役者生活で一度もなかったのに、
まさかそこまで夢見てしまうほどもうスザクにどっぷり浸かっていたなんて、気付かなかった。
「?」
楽屋裏から舞台袖へと続く廊下の真ん中で
モニカは後ろから続いていたパタパタという足音が突然途絶えたのに気付いて
足をとめた。
振り返ったモニカの視線が、足元の一点を見て硬直するルルーシュをとらえる。
どうしたの、と声を掛けていいか迷った。
だが手のひらを伸ばして、本日早朝に交わしたのと同じようにまた手を握り合う。びくっと揺れた肩に
着物の裾がさらさらと鳴って、夢ではなく本物の場所で起きたことのようにこれから演じていくんだ、と
ルルーシュもモニカも我に返れるような気がした。
「どうしたの?今日は、ルルーシュが変よ」
「……すまない」
「何かあった?」
「なんでもない」
「そんな顔に見えないけど」
握った手はそのままで、逆の手で頬を包む。
それには肩も揺らさず甘受して、俯いていた紫電の瞳がひたとモニカの視線に向けられた。
「公子が美女を殺す瞬間……何を思ったのか、解ったかもしれない」
「どんなことだ?」
「そうね。……世界は美しいと思うわ、ルルーシュ。貴方の公演を見て貴方に惚れた私が、
普通ならその性別の通りに美女役をやるはずだったのに……こんな宝塚みたいな男装をして、
憧れてた貴方を殺す役をやれちゃうなんて、ね。どう?カッコいい?私」
「……カッコいい」
「うん。ありがとう。ルルーシュも綺麗よ。……なんで殺そうと思っちゃったのかしら」
こんなにも綺麗な、好きな人のこと。
「そんな質問するのか?解ったんじゃないのかよ」
「公子の気持ちはね。でも、私だったら……いくらルルーシュが村人に嫌われても、殺せない」
頬に触れていた手を離し、モニカは両手でルルーシュの肩幅のない両肩に触れて、がっくりとうなだれた。
俯いて、さらさらと自分へ落ちてきた金髪を黙って見ていたルルーシュは不意に、
彼女の消え入りそうなその答えに、ずっと閉じたままでいた唇を開いた。
「俺の彼氏だったら、きっと俺が望まなくても殺してくれる」
「……そんなん愛情じゃないよ」
「愛情じゃなくていいんだ」
紫電はもうモニカを見ていなかった。
開演は明日の午後六時。チケットはスザクや扇、千草、劇団の面子にはすべて渡してある。
後悔することはもう何もない。後はただ本番を待って、舞台の上で、モニカのその手で果てるのみ。
美女が公子から捧げられた恍惚は、ルルーシュが望んでいるものとほぼ一致していた。
だから、実際に舞台の中ででも、自分の希望する死に方を得られた美女が羨ましいと感じるのだろう。
(……だから)
言えないんだ。望んでても。自分は、スザクに、……まだ。
「ルルーシュ」
「ん?」
「今朝、枢木さん見て……解った気がした。あの人、人を見てるようで見てない。
役者でなくちゃ解んないくらいのもの。でも、」
「解ってるなら、それこそ口に出すなよ」
「ルルーシュのこと本当に好きなの?」
「それを俺が一番知りたい」
「……」
涙混じりの、声だった。